古民家パン屋,はじめました。
一浪して入った大学で,止まることも進むこともできずにいた。正しい言葉をくれる恋人と,均された光の教室。膨らまない生地のような日々に,古い家の写真だけが,闇の中で梁を光らせていた。休学し,古民家を買い,パン屋を始める。許可を待つ夜は,発酵の夜でもある。隙間だらけの家には,虫も風も,名前のない誰かの気配も入り込んでくる。東京に置いてきた気配と,近づいてくる気配。どちらにも,まだ名前はついていない。それでも,夜の中を歩いている。
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