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辺境騒乱編

魔物暴走発生の予兆

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 武術大会が終わって4日後の朝だった。
 阿形君と吽形君から客が来たと連絡が入ったので、正門前を遠視して確認すると、アーネストだった。
 辺境伯自らが出向くなんて、何か訳ありだろうと思うが、急いでいる表情から察するに、悪い報告だろう。

 待っているのも面倒なので、直接ここに来てもらおう。
 あーっと!吽形君!大きく振りかぶって......投げたーー!!
 アーネスト君残念!回避失敗だぁーーー!

 吽形君が投げた独鈷杵の直撃を受けて、異空間に飛ばされたアーネストだったが、こちらに出口を開いた為、あっという間に到着した。

 「ケイ、心臓に悪いから悪戯はやめてくれ!死ぬかと思ったよ!」
 「近道ですよ近道!急ぎの案件じゃないんですか?」
 「そうだった。実は辺境伯領から魔法具で通信が入ったのだが、ちょっと厄介な事になってな」

 現在の開拓最前線は、レッドストーンから西へ向かって広がる、コランダム大森林だ。
 ここは森でありながらも、豊富な鉱物が採取可能という特殊な森だ。
 一部の樹木が鉱物で組成されており、幹はもちろんだが、枝葉までが鉱物で出来ている。
 これは、大地の精霊が加護を与えた樹木や、加護を受けた土地一帯で稀に発生する出来事らしい。

 「あそこは今が最も儲かる時期だからな、一山当てようとする冒険者や、買い付けに来た商人でごったがえしているのだ」
 「良い事じゃないですか!何か不満があるんですか?無法者でも出ましたか?」
 「出たには出たんだが、とんでもない貧乏くじでな。おそらくネームド、それも王が生まれた可能性がある」

 コランダム大森林は魔物の種類も豊富だが、現在の開拓最前線がある位置だと、オークやコボルトの縄張りが近いらしく、上位個体との遭遇回数が増えてきているらしい。
 そこで、調査隊を3つ組織して探った所、西へ直進した部隊が帰らなかったという。
 最後の通信記録から判断するには、魔物との戦闘になった事、見た事が無い上位個体がいたらしき事が判明しており、現在は戦力を募集して開拓最前線の防備を固めているらしい。

 「王が生まれれば、モンスター達を取り巻く環境も激変する。上位種や変異種が生まれやすくなると同時に、王直属の親衛隊が組織される、将軍や英雄クラスが生まれ始めるとかなり危険な状況になる」
  
 それでこの情報をあわてて持ってきてくれたのか、俺と父さんは辺境へ戻って準備を始めないといけなくなったな。時間が経てば経つ程に、こちらが不利になっていくのは間違い無い。

 「あいつらは、短期間で数を爆発的に増やすので、今この瞬間にもやっかいな奴が生まれている可能性があります。討伐隊の編成を急ぎましょう」
 「勿論だ!我が辺境の民に危険が及ばぬように、全力で戦いを進めていこうじゃないか!伊達に民から税収を取っている訳では無いのだ、辺境伯軍の力を見せてやろう!」

 
 5時間後に転移魔方陣を起動して辺境へ戻る意思を伝える。
 アーネストは、父と母にこの事を伝えた後に、武術大会の開催に合わせて王都に滞在している、有名な傭兵団を雇うらしい。ガイゼルが所属していた【旋風の牙】や王国随一の力と規模を誇る【鉄鎖の絆】に協力を取り付ける事が出来れば、集団戦のプロが戦列に加わる事で、殲滅力がグッと上がる。

 「ケイ様、私達がいればそのような有象無象が何匹居ても問題ありません」
 「そうだよ!ケイは一人じゃないんだから!私達が付いてるよ!」
 「私も父に協力を要請してきます。国内でも随一の実力を持つ、我が侯爵家の騎士隊はきっと力になるはずです」
 「雪乃先生と僕も力になれるよね?ケイ君にはこっちでもお世話になっちゃうだろうから、こういうトラブルの時は遠慮せずに言ってよ!」

 頼もしい仲間が居て本当に助かるな。
 自分で本気を出せば、解決出来ない問題じゃないのだが、それでは成長が無い。
 どんな困難も、みんなで乗り越える力と、チームワークがあってこそ、このクォーツでの新たな人生を楽しむ事が出来るのだ。
 
 辺境の民は全員逞しく、他所の輩が好き勝手やるのを許さないだろう。
 阿吽の呼吸で狩りを行う彼らが本気になれば、何倍もの戦力だって苦も無く仕留めてくれるだろう。
 
 待ち合わせの時間になると、俺の両親やアーネストが現れた。
 雪乃ちゃんや、その同族に加えて、傭兵団の頭や騎士隊長も下見に現れた。

 「この拠点は関係者以外立ち入り禁止なので、入る時はこのペンダントを着用するようにしてください」

 このキラリと光るペンダントは、俺が待ち合わせ時間に配れるように、準備時間の5時間を使用して作成した物だ。
 水晶球の中心に薄っすらと光る鎖の紋章が目印だ。

 「これは、進入許可だけでは無くて、転移門の起動鍵になっています。紛失したりすると大変危険ですので、取り扱いは十分に注意してください」

 そう言いながら転移の術式を刻んだ魔方陣は輝きを増して、グルグルと回り始める。
 光が止んだ先は、懐かしい故郷の景色だった。
 すでに王の発生が伝達されているらしく、街の防衛設備の役割や民間人の避難場所に至るまで、説明する必要も無い位に危険が周知されている。
 流石は長い間モンスターと戦い続けている辺境の戦士達である。

 街の倉庫には、薬草や調剤に使用される各種素材が大量に備蓄されているので、ここぞという時の保険になるだろう。参加する戦士達に持たせるアイテムは、俺が調合した高品質の上級ポーションを配って、死亡率を引き下げましょうかね。

 
 翌日、街に新たな情報が齎された、上空から使い魔を使って偵察を行っていた術士から報告が入り、街から120kmほど先にオークの集落が発生しているらしい。
 その周辺では、オークジェネラルやハイオークの集団が多数確認されており、上位種のブラックオークやバルバロイ、デストロイヤー等の変異種まで確認された。
 LVが100~500程度までバラつきがあるが、強力な個体ばかりだ。

 軍団としての行軍が開始されたら、再度連絡が入るような手筈になっている。
 監視は交代で行われ、24時間体制で引き続き行われる事となった。それだけの集団ならば、2日から3日程でレッドストーンへ到着するだろう。
 この街に至るまでの道のりには、開拓村が4つ程存在するが、今回は住民達も避難が完了している。
 
 現在は、街の外周に堀を3重にして作っている。バリスタや大砲の設置も行い、拠点には簡単に近寄れなくなっている。
 堀に満たされた水は、深く掘られた堀を越えさせないように半分までしか満たされておらず、水の底には地面から上に向かって伸びる石の槍が配置されている。
 落ちた者が魔力を発動させたり、遠隔で俺が魔力起動させたりすると、ブスリと突き出される槍に貫かれる事になる。

 「コイツを見てくれ。どう思う?」
 「すごく......大きいです......」
 
 城壁に設置した投石器には特殊な弾を使用している。
 上空で炸裂して、破片を撒き散らす散弾型、着弾点を中心に爆発する炸裂型、風魔法を応用して超遠距離での投射が可能な風魔弾を作成した。

 「コイツはオークだろうが、上位種だろうが、関係無くぶっ飛ばしちまうスゴイ奴だ......打たないか」
 「こんなスゴい物を見せられたら......僕でもホイホイ打ちに逝ってしまいます」

 なんて下らないやり取りを衛兵君としていた俺だったが、この程度では安心出来ない。
 犠牲者は出ない方が良いに決まっているのだ。
 伐採を行って見晴らしが良くなっている街道には、地雷原を作ってみた。

 感圧起爆方式のオーソドックスな物だが、コレは威力よりもインパクトが重要だと思う。
 目の前を走っていく同胞が次々と吹き飛んでいく光景は、動揺を誘うだろう。
 
 更に、地雷原を突破したと思った途端に発動するS-マイン、コイツは強力だ。
 こっちは魔力誘導による起爆にしたが、発動すると上空に飛び上がって爆発、上空から鉄球をばら撒く鬼畜使用だ。このばら撒かれる鉄球に俺が【貫通】のエンチャントを付与したので、敵の鎧を破壊してくれるだろう。
 街に近づく頃には丸裸ってわけだ......見たくないけどな。

 作戦後に残留地雷が発生しないように、特定の魔力波に対してだけ反応する、魔術反応式を刻印してある。
 
 そして、一番の脅威は森に設置した対人地雷クレイモアだ。
 森の様々なポイントに設置したクレイモアが、水平方向に散弾や弾片を射出する。
 戦闘不能者を続々と量産してくれるだろうこの地雷には、飛散する内容物に延焼性の強い魔力液を仕込んである。
 発射と共に付着した対象を燃やし、気化した魔力液が大気のマナに反応して、更に強い爆発を起こす。
 
 ちょっとやりすぎ感があるが、こんな卑劣な手を使ってでも守りたい物があるのです。
 戦なのだからキレイ事は言ってられない。
 一騎打ちを所望するような武人が居るならば、受けても良いが......オーク相手に期待する事ではないだろう。

 用意周到に準備をしたが、オークの侵攻が開始されるのは、それから4日後だった。
 第一次警鐘が鳴らされる、オークの侵攻部隊がレッドストーンまで半日の距離へ近づいた知らせだった。
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