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二人の王子後編
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しおりを挟む「この精神世界という奴はどうやら作った者の影響を強く受けるらしいな」
屋敷の壁を触りながらディーレインは呟いた。
手で触れてみてもその感触はほとんどなく、それがここが現実世界ではないことを告げている。
「影響?」
レオンは首を傾げる。
魔法が使えないということを実践して明らからにした二人だが、何故使えないのかが二人とも気になっていた。
「例えば俺の作った精神世界とお前の作った精神世界。俺たちはその二つを行き来したよな」
ディーレインの言葉にレオンは頷く。
つい先程、ここに来る前に二人は「ディーレインの過去」から「レオンの思い描く未来」という二つの精神世界に移動している。
精神世界内では魔法が使えないとわかった今、二人からしてみればそれはおかしいことなのだ。
精神世界の間を移動したということは何らかの魔法が発動したということ。
感覚的にしか魔法を使えずともそれくらいはわかる。
「つまり、ここでも魔法を使えるようになる可能性もあるってことだ。何かの条件みたいなものがな」
ディーレインの言葉にレオンはさらに頷く。
「それはわかる。でも、それとこの世界が強い影響を受けていることと何の関係が?」
ディーレインはレオンのその質問に答えた。
それはこんな内容だった。
まず、精神世界という得意な場所について今わかっている事象から説明するとそこは作った者……つまり魔法の使用者の思いを具現化する場所であることがわかる。
レオンの精神世界が、子供の頃を過ごした自宅であることやア・ドルマとファ・ラエイルの精神世界が同じような場所であることからもそれはわかる。
恐らく、二人の悪魔にとって古ぼけた屋敷にはそれ以上の価値がある場所なのだろう。
ディーレインが考えたのは「思いを具現化する」ということは「魔法を使いたいと思えば使えるのではないか」ということだった。
「つまり、ここで魔法を使うには『魔法を使えますように』って願うだけでいいってこと?」
「ああ……ただ、願うのは俺たちじゃない。この精神世界の創造主はデストロだからな」
話をレオンとディーレイン、二人の精神世界の時に移そう。
あの時、ディーレインはレオンに自らの過去を見せたいという思いで精神世界に連れていった。
そして、レオンはその精神世界の中でディーレインに自分の理想とする未来を見せたいと思った。
ディーレインの精神世界の中ではディーレインの思いが具現化し、過去を見せる魔法となってレオンに共有される。
その共有した意識の中でレオンがディーレインに共感を示したことで二人の感情が一瞬でも繋がり、レオンが魔法を使うことをディーレインの潜在意識が許したのではないか。
というのがディーレインの立てた仮説である。
「つまり、その説が正しければ僕が魔法を使うにはこの世界の創造主であるア・ドルマの許可が必要ってことだよね」
仮説に納得したレオンが頭を捻る。
レオンが魔法を使わなければならない状況。
それはつまり、ア・ドルマとの交渉がうまくいかなかった時だ。
魔法による攻撃に対抗しなくてはいけない時である。
そんな時にア・ドルマが攻撃する対象に魔法を使う許可を出すとは思えない。
魔法を使われたらどうしようと悩むよりも、どうすればア・ドルマを説得できるのかを考えた方が遥かに有用である。
「まぁ、そんなに気にしすぎなくてもいいと思うけどな。今のは全部俺の考えだし。それにアイツは今魂だけの存在だ。アイツが魔法を使うには俺の体を通して魔力を生み出す必要がある。そんな状況で無理矢理アイツが攻撃を仕掛けるとは思えないんだよな」
レオンはディーレインのその言葉に少し驚いた。
今までレオンはア・ドルマのことを正しく敵の親玉のように考えていた。
王都を襲い、人間を滅ぼそうとしている首謀者で極悪非道の敵だと。
そこに至るまでの悪魔達の苦悩や、種族間の違いなどは理解している。
それでもやはりどこか納得しきれない何かがあった。
それはレオン自身も把握しきれていない無意識下での感情だったが、ア・ドルマのことを話すディーレインを見てレオンは自分の中のその感情に気付いた。
ア・ドルマのことを話すディーレインはどこか遠くを見つめていて、レオンには切なそうに見えたのだ。
その様子からディーレインがア・ドルマを慕っているということがわかる。
レオンはそれに気づいた時、違和感があった。
その違和感の正体こそが、レオンが無意識のうちにア・ドルマに抱いていた感情である。
それは一言で言うなれば「嫌悪」であろう。
人の体を乗っ取ることにも、そのまま人間を絶滅させることにも何の躊躇も示さない。
冷血で嫌な奴。
レオンの根底にあったのはそんな感情だった。
レオン自身、その感情があったことに驚いた。
悪魔と共存していきたいと言ったレオンの言葉は紛れもない本心である。
しかし、それはレオンの感じていた嫌悪感と相反する。
レオンが感じていた嫌悪は無意識下に残った僅かな物だった。
その感情に気付いてレオンは安心していた。
ア・ドルマと出会う前にこの感情に気付けてよかったと。
無意識下にそんな感情を潜まれせて、自分の気付かないままにア・ドルマと話していたら……。
恐らく彼はレオンのその感情を見透かしていただろう。
そうなればどんな説得の言葉もただ通り過ぎるだけとなる。
誰かにとっての悪人も誰かにとっての大切な人になり得る。
そんな当たり前のことに気付けてよかった、とレオンは思ったのだ。
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