『数値がすべての世界で、俺だけが“ありがとう”を選んだ』

この世界では、“数値”がすべてを決める。

 人は生まれた瞬間に数字を与えられ、その桁がそのまま価値となる。数値が低いほど上位とされ、高ければそれだけで無価値と見なされる。努力も、才能も、意思さえも関係ない。ただ数字だけが絶対の基準として存在し、すべての人間はその序列の中で生きることを強いられていた。

 そんな世界で、機械式時計を扱う職人の家に生まれた少年は、判定の日に常識を覆す数値を与えられる。

 ――「8888」。

 誰も見たことのない、最底辺の数字。

 周囲が困惑し、やがて明確な拒絶と嘲笑へと変わっていく中で、少年はただ一言、「ありがとう」と口にした。

 絶望も怒りも見せず、与えられた現実をそのまま受け入れるその姿は、あまりにも異質だった。

 その少年――アオイに興味を抱いたのは、上位階級“ハンドレット”に属する少女、数値「99」のルリ。圧倒的な速度を持ちながらも、常に結果と評価に縛られ、止まることすら許されずに生きてきた彼女は、数字に縛られないアオイの在り方に戸惑いながらも、次第に惹かれていく。

 やがて二人は、世界に起こり始めた異変に巻き込まれる。人の数値が突如としてズレ、存在そのものが不安定になる現象。そして、視えない“何か”が現実に干渉し始める不可解な出来事。

 それは速さでも力でも抗えない、“理の歪み”だった。

 しかしアオイだけは、その歪みに触れ、“正しい位置へと戻す”ことができた。

 まるで世界の流れそのものを調律するかのように。

 その力の正体は、やがて明らかになっていく。かつて神や精霊が存在し、数値が固定されていたもう一つの世界――反転世界。その崩壊と争いの中で失われたはずの理と、アオイの存在は深く結びついていた。

 数字がすべての現実世界と、神々と精霊が干渉する反転世界。二つの理が交錯し始めたとき、世界の均衡は静かに崩れ出す。

 止まれば壊れてしまう少女と、何も持たないのに揺るがない少年。

 対照的な二人は出会い、共に歩むことで、やがて“数値では測れない価値”と“存在の意味”へと辿り着いていく。

 これは、数字に支配された世界で、“価値”そのものを問い直す物語。
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