愛さないで

みつき怜

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おかしくなる*

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 馬車に乗る頃には灰色の空が広がっていた。
 来た時と同じ馬車で、来た時とは違う道を行く。フラットマンションに行くとユーリが告げたあとはお互いに無言だった。

 差し出されたユーリの手を借りて馬車を降りると、外は雨がぱらついていた。
 昔は議会に出席するため王都に滞在する貴族に部屋を貸していたそうだ。建物の中を歩きながら、他にも色々と話をしてくれたけれど、緊張していて頭に入ってこない。

 寝室に案内された私の緊張は最高潮にあった。羽織っていた私のローブを暖炉の前に置かれた肘掛け椅子にかけると、ユーリは所在なく佇んでいた私を抱きしめた。

「心臓の音、すごい」
「……と、止めます。でも止まらなくて」

 クスッとユーリが笑った。

「それは大変だ。俺がなんとかして差し上げます」

 宥めるように撫でる手が背中を上下する。髪や肩も撫でられて、まるで猫にでもなった気分だ。

 少しずつ緊張が解けてきた頃、ユーリの手が頬に添えられて引き結んでいた唇を塞がれる。

「ユ、リ…… 。ま、待って」
「ん……?」

 ユーリが離れたタイミングで私は息継ぎをする。

「は、ふ……。あの、心の準備が、まだ」
「もし逃げたいならそうしてください。逃がすつもりはないですけど」

 淡々と告げられて、大きな手が顎を掬った。

「口開けて」
「っん……」

 開けろと甘噛みされて、綻んだ唇から舌が割入ってくる。口内を深く犯される感覚に身体がぞくりと疼いた。

 ここまでは知っている。嫌悪感もない。
 でもユーリは……?

「ん、ユ……リ。ユーリ……」

 袖を引いて、キスの合間に何度か呼んで、ようやく気づいたユーリがもの問いたげに私を見つめてくる。

「あ、貴方は私で、いいのですか……?」

 執拗に翻弄された舌がもつれて上手く話せない。
 前に一糸纏わぬ私の姿を見てもユーリは平然としていた。だから私が相手で大丈夫なのだろうかと不安がある。

 束の間ぽかんとしていたユーリがなにかに堪えるように、ぐっと奥歯を噛み締めた。

「こんな時に、貴女って人は……」
「心配なんです」
「なら俺が満足するまで付き合ってください」

 頷くと同時に抱き上げられていた。細っそりしているユーリのどこにこんな力があるのか、いつも不思議に思う。

 寝台に腰かけると、ユーリは膝の上に私を座らせて後ろから強く抱きしめた。ドレスのボタンを外し、首筋や露わになった肩に舌を這わせて、何度もついばむようなキスを落としていく。

 そっと後れ毛をかけた耳を食まれて、びくっと身じろぎした。

「感じやすい?」
「あ、え……?わからな、ち、違います!」

 絶対に違う。私が感じやすいなんて、そんなはずない。

「そう?」

 耳の輪郭をユーリの舌がなぞりながら、時折思い出したように歯を立てる。

「……っ、耳。食べないでっ」
「貴女の全部、食べちゃいたいのに?」
「な、なに、あんっ……」

 いつの間にか乱されて、隠すものがなくなった乳房を掬い上げるように、ユーリの手が包み込んだ。誰にも触らせたことはないか問われて、当然だと頷く。

 すると、ユーリが私に頬をすり寄せてきた。

「俺に触られるのは嫌?」
「いや、じゃないです」
「よかった。舌出して、ピア」
「ん、んっ……」

 焦れたように後ろを向かされて、噛みつくようなキスを受け入れる。くちゅくちゅと舌を絡められて、ツンと固くなった乳房の先端を指で摘まれた刹那、お腹の奥が疼いた。

「これが好き?」
「あっ、わからな、あ、んっ」

 私の反応をうかがいながら乳房の先端を弄んでいた片方の手が、ドレスのスカートがめくれて露わになった内腿をゆっくりとなぞる。下着へと忍ばせた指先が、ためらうことなく私の中に入ってきた。

「いや……。ユーリ、ま、待って」
「待たない。自分で触ったことはある?」
「そんなこと……っだめぇ」

 あるわけない。後ろを仰ぎ見た私の鼻に、ユーリが高い鼻梁を擦り寄せてきた。

「ないのか。俺はピアのことをいつも思い浮かべてしてる」
「……っあ、な、なに?」

 不規則に動いていたユーリの長い指がぐるりと中をかき回す。なにが駄目なのだと、思い知らせるようにゆっくりと出し入れされる指の感覚に身体が震えてしまう。耳に届く淫らな音が生々しかった。

「すごく濡れてる」
「あ、貴方が、触るから」
「俺のせい……?なら責任を取らないと」

 耳元でクスッと笑ったユーリの掠れた声に、びくりと肩が震える。ユーリが言ったとおり私のそこは、ぐちゃぐちゃに蕩けていた。

「媚薬があれば、破瓜の痛みを抑えられたか」
「び、やく……?」

 ぼうっとしかけていた頭になにかが引っかかった。
 潤んだ瞳をぱっちりと開いた拍子にこぼれ落ちた涙にユーリが舌を這わせる。

「……や、やだっ。あれは絶対に無理です」

 小説にも出てきた、理性がぐずぐずに溶かされてしまう危険な代物ではないか。

「あれは……?まさか使ったことがあるのか」

 ユーリの声が低くなった。
 私は慌てて否定する。

「し、知らない……。貴方が初めてだもの」
「安心して、ピア。俺以外、人間でもなんでも貴女に触れるのは許せない。その俺が貴女におかしなものを使うはずないでしょう。……ん?」

 優しく宥められても、ちっとも安心できない。腰が引ける、といってもがっちりユーリに抱えられているのだけど。
 私の怯えを見透かしたように、ユーリの指が花芽をゆるりと撫でた。私の意思と関係なく蜜が溢れてくる。

「んっ、あ……っ」
「こんなにしてるのは俺だ。媚薬は必要ない」

 なんてはしたない身体なの。
 もしかしたら、私はとんでもない淫乱なのではないか。がーんと衝撃だった。小説の中でそういう仕様になっていると描かれていたか、よく覚えていない。

 低い声。注がれる視線。私を溶かそうとする指先。ユーリに与えられるすべてに感じてしまう。

「なにを考えてる?俺に集中して、ピア」
「……っひあ」

 埋め込まれていたユーリの指が私の弱い箇所を探り当てた。こんな時まで、器用ぶりを発揮しなくてもいいのに。繊細だと勝手に私が思っていた長い指は剣を握るだけあって、狭い膣内でかなりの存在感がある。

「ユーリ、それ……っ」
「痛い?」

 違うと首を横に振りながら、縋るものがほしくて後ろにいるユーリの襟足を頼りなく掴んだ。でもユーリはやめてはくれず、執拗に内壁を擦り上げられて涙がこぼれる。

「……も、無理。おかしく、なるっ」

 抑えようとしても、私の意思では抑えきれない快感が込み上げてくる。背中がぞくぞくして頭が真っ白になりかけたその時――。

 私の中からユーリの指が引き抜かれた。



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