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魔法使いとお金大好き少女

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 私、アルティ。
 魔法使いで、好きな色は緑色。

 最近、一般の人がうちの豪邸に来るパターンが多い気がする。
 例えばユージュの時みたいな。
 別にそれは良いと思うの、確かに私達は勇者パーティではあるけど、さながら神の如く崇められるのもプレッシャーだしね。
 だから、一般の人が気軽に絡んでくれるのは、私としてはむしろ歓迎すべきことだと思ってる。

 何で急にこんな話をしているのかというと、今日も今日とて来客があったからね。
 ただ、こうして今回それを話しているということは、ユージュの時と同じように一悶着あったわけよ。
 だからまあ、例によって愚痴愚痴やっていこうと思う。



 アポも取らず、使用人達の制止も振り切って、彼女は私達の豪邸へと入ってきた。
 入り方がアレなんで、もう侵入されたと言ってもいいんだけど、ほら、うちのハスタって凄い優しいじゃない?
 ハスタは侵入者に対しても優しく接し、アポ無し侵入という無礼しか働いていない彼女を許し、普通に対応することを決めた。
 リリアはハスタの言いなりでしかないし、ダイヤは面白がって侵入者の味方をする。
 許す派が一気に多数派になり、テンパったメイユは侵入者側に寝返り、さあこれで四対一だ。
 私は、方法も選ばず無理やり入ってきたこの女をもっと警戒すべきだと思うんだけど、多数決には逆らえない。
 試しに睡眠メイユを呼び出して上手くいっても、結局三対二だしね。
 多数決に従うけど、何か問題があった時は、問題解決よろしく頼むわよ。

「で、強引に家に入ってきたあんたのこと、いい加減知りたいんだけど?」
「ははは、色々と失礼しました。私はロロっていいます。皆さんに相談がありましてね」

 私が侵入者に話しかけると、彼女はロロと名乗った。
 見た目だけだと可愛いお嬢さんなんだけど、使用人も振り切って侵入してくる辺り、ろくな奴じゃないような気がする。
 見た目は美少女なのに中身が狂ってる奴なんて、私もよく知ってるからね。
 リリアとか、ダイヤとか。

「そ、相談って何ですか? 神に仕える者として、悩みがあるなら聞きますよ!」

 珍しく素面のメイユが話を進めようと頑張ってる。
 裏切り癖と睡眠二重人格っていう濃いキャラのせいで忘れそうになるけど、メイユは一応聖職者なんだよな。
 迷える人々を導くのも仕事なのかもしれないので、こういう時は張り切るのかもしれない。
 まあ、私は神に祈るようなタイプでもないんで、その辺あんまり詳しくないけど。

 とにかく、メイユがそう言うと、ロロは私達への相談の内容を明かした。

「実はですね、皆さんには私の金儲けの商品になっていただきたいのです」

 結構凄いこと言い出したよ、こいつ。
 女性を指して金儲けの商品になれって言われても、健全な発想はできない。
 それはメイユも同じだったみたいで、

「ひいいいい! う、売られるんですか!? 性欲の塊な金持ちの奴隷になって、あんなことやこんなことなんですかー!?」

 神に仕える者としての余裕はどこへやら、ロロの言葉を際どい方向に受け取って、暴走が始まりつつある。

「いやいや、人間界の英雄である皆さんを、一般人の私がそういう風に売り飛ばすなんてできませんよ。できたとしても、絶対捕まっちゃいますし」

 何か捕まらないのであればやりかねない言い方だよな。
 それはさておき、商品になってもらうという言葉の真意は早く知りたい。
 私も言葉に出さないだけで、正直あんなことやこんなことを想像したからね。
 ……私のあれこれと、メイユのあれこれってたぶん一緒だよな?
 これで私だけ際どい想像してたとか無いよな?

「ねえロロ。私達を商品にするって、具体的にはどうするの? 内容によっては、私達は断らせてもらうからね」

 テンパるメイユとは対照的に、ハスタは冷静に問いただした。
 さあこれで真意がわかると期待したものの、ハスタの問いに対してロロは答えず、見たこともない変なアイテムをいつの間にやら持っていた。

「これ、何かわかります?」

 そんな感じで質問を質問で返してきたのだが、私達は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。
 ……と思いきや、ダイヤが、

「ああ、知ってます知ってます。あれっすよね、異世界のカメラって奴っすよね?」
「そうです。ダイヤさん、よく知ってましたね」

 まさかの正解を絞り出した。
 サングラスや大喜利の時もそうなんだけど、何でダイヤはそんな……異世界転生、異世界転移だったっけ?
 何でダイヤは、そういう連中のことをよく知ってるのよ。
 連中に対して何かコネでもあるのか?

「他の皆さんは知らないみたいなんで説明しますけど、使うと一瞬で凄いレベルで模写した紙が出てくるアイテムって感じですかね」
「その模写した紙は写真っていうんすよ」

 ロロが、それに続いてダイヤが、カメラというアイテムの説明をする。
 ……なるほどね、私達を商品にして金儲けするという、その意図が何となく読めてきた。

「皆さん、人間界の誰もが知る有名人ですし、なにより全員綺麗ですよね。需要が凄いあると思うんで、皆さんの写真を売りたいんですよね」

 ロロは私達の美貌で男性を釣ろうとしてんだな。
 ムルー騒動の時にも触れたけど、私達、容姿だけで言ったら全員がかなりレベル高いのよ。
 まあ中身があれだから、内面まで考慮するとハスタくらいしか評価できないわけだけど。
 ただ、その内面にさえ触れないで済めば、かなりの美女軍団だと言える。
 そんな美女軍団を正確に模写した物を売るとなれば、確かに男には凄い売れそうな気がする。

「そんな、綺麗だなんて……他の四人はそうだけど、私はそんなでもないよ」

 ハスタはその性格上、謙遜として自分の容姿を否定してるけど、私から言わせれば、顔だけ勝負でもあんたが一番美人だからね。
 それはロロもそう思ってるみたいで、ハスタのこの謙遜に噛みついた。

「何を言ってるんですか。それだけ綺麗な顔をして。過度の謙遜はあんまりよくないですよ」
「そうだよ! ハスタは本当に綺麗だよ! 目鼻立ちも整って、肩口まで伸びた明るい茶髪もサラサラでとっても素敵! できることなら足舐めたいよ!」

 ロロだけでなく援護射撃も加わり、ハスタの謙遜を強く否定している。
 援護射撃が誰によってされたのか、言わなくてもわかるよね?
 それはさておき、ここまで力強く褒められるとさすがに恥ずかしいようで、ここからハスタも反撃に出る。

「私なんか綺麗じゃないって! 私よりもリリアの方が可愛いよ」
「ないないない! ハスタと比べたら、私なんかドブヘドロ変態クソ女だよ! 比較するのも失礼なレベルだよ!」
「それこそ過度な謙遜だって。ぱっちりとしたお目目の可愛い女の子じゃない。赤いショートの髪型も、かっこよさのギャップがあっていいと思うし」
「でも、私マスクつけてないといけないしさ。顔隠してて可愛いも何もないでしょ」
「マスクをつけてても可愛いのが隠しきれないから凄いんだって」

 ハスタとリリアによる相手の褒め合いへと発展した。
 ……容姿に関してはリリアは可愛いと私も思うんだけど、それでいてドブヘドロ変態クソ女がしっくりくるっていうのも凄いよな。
 それはさておき、褒め合いはしばらくハスタとリリアで行われていたわけだけど、ハスタの矛先がやがて他のメンバーにも向かってきた。

「それにさ、メイユはサラサラの黒髪ロングも綺麗だし、清楚な感じがとっても素敵だよね。眉が下がって困ってる表情に見えるのも、何か可愛くって私は好きだよ」

 こんな感じでハスタがメイユを褒めたかと思えば、

「ダイヤは、灰色の肌と白い髪の毛がかっこいいよね。人間にはないかっこよさがあって、やっぱりダークエルフなんだなあって痛感するよ。かっこよくて神聖な感じもあって、神秘的だよね」

 立て続けにダイヤの容姿も褒める。
 確かにダイヤは、見た目だけだと人間にはない魅力がすげえあるんだよなあ。
 中身の方は神秘性の欠片もねえのが致命的なんだけども。
 まあダイヤの異常性は置いておこう、この流れだとたぶん、

「アルティは小柄な体で可愛らしいよね。でも性格としては強気というか、芯があってかっこいいギャップあって素敵だなあって思うよ。私達のサブリーダーのような存在なのに、強気な妹感もあって、素敵な人だなあって思うよ」

 はい、やっぱり私のことも褒めてきたね。
 まあ私は、自分の見た目はある程度美少女的だと自覚はしているんだけど。
 何ていうか、意外と内面的なことを褒めてきたな。
 普通だと、容姿褒めるところで内面に移行するなよ、って言うべきところなのかもしれないけど。
 ハスタが私をサブリーダーなんて評価してるのが素直に嬉しかった。
 あんまり意識したことなかったけど、サブリーダーってのを決めるのならば、私は睡眠メイユだと思うからさ。
 ハスタみたいな人から思わぬ高評価を貰えて、何かちょっと嬉しいというか、恥ずかしさもあるっていうか。

 そんな感じで私はもじもじしてたので、ハスタのお褒めの言葉に対して返事はできなかった。
 そうしてハスタが勇者パーティ全員を褒め終わったタイミングで、ロロが話を本題に戻した。

「とにかく、皆さんがそれぞれ容姿を褒めたことで、美女の集まりってのは理解してもらえましたよね。ハスタさんは茶髪の素敵な明るい美女、リリアさんは可愛らしいお目目ぱっちりのマスク少女、メイユさんは黒髪ロングの清楚系困り眉聖女、ダイヤさんはつり目でかっこいいダークエルフ、アルティさんはぱっつんジト目の可愛い少女、こんな感じですね」
「だから私は皆には程遠いのに……」
「ハスタさんがどれだけ低い自己評価をしようと私は気にしませんよ。とにかく、皆さんの写真を販売すれば、金の臭いがするんです。是非とも許可と協力をお願いします」

 このロロって女も、ストレートに物を言う奴だな。
 まあ私は気にしないけども、もう少し言い方を気にすることもできるんじゃない?
 気にしないから、特に触れもせず流すけどさあ。

 それよりも、写真、ねえ。
 男に売ろうって言うんだから、やっぱ、その……攻めた写真も売ったりするの?
 そうなるとちょっと恥ずかしい気持ちがあるんだよなあ。
 それは他の皆もそうみたいで、やっぱり乗り気じゃなさそうに見える。
 ただ、一人を除いては。

「面白そうじゃないっすか。私はやってもいいと思いますよ」

 私達の中でダイヤだけが乗り気になっている。
 こいつの判断基準で言えば、面白そうか、面白くなさそうか、この二つに一つなんだよなあ。
 今回の場合、世の男性陣が自分達に夢中になるかもしれない可能性を、面白いと判断して乗っかろうって思ったんだろう。
 こっち側が満場一致で嫌だってなったら、ロロを綺麗に追い返すこともできたのかもしれないけど、ダイヤというほころびを利用してロロが盛り返してくるかもしれない。
 金になるかもしれない話のために、勇者の住んでる豪邸に無断で侵入するような女だからな。
 このほころびを見逃すとは思えない。

「お、ダイヤさんは乗り気ですね。乗り気の方がいらっしゃるようですし、検討してみてもいいんじゃないですか? 皆さんに損だけは絶対させませんし」

 ほーら、ロロが元気になってきた。

 お金における損得は、正直うちのパーティは誰も気にしないと思う。
 こんな豪邸まで建ててもらってるくらいだし、国を挙げてサポートしてもらってるので、特に金銭面で不自由は感じない。
 ……いくら勇者的な活動で人間界に貢献したとはいえ、凄い優遇を受けてるよなあ、私達って。
 それはさておき、そういう環境にいるので、損はさせないと言われても、特に感じるところはないと思う。

 むしろ、私達の感覚で損得を言うのであれば、それはメンタルの方になると思う。
 メンタルだけで言うとむしろ損をするような気がするんで、私はごめんだよ。

「ダイヤさん以外はなかなか決断できないみたいですね。じゃあ一回、試しに写真撮ってみましょうか。皆さんも実物を見ないとイメージ湧かないと思いますし」

 そう言ったロロが、私達の返事を待たずして、カメラって奴を使ったみたいだ。
 パシャッて音がして、光が瞬いたかと思うと、紙が出てきた。
 最初にその紙を見た時は何も映ってなくて、どういうことかと思ったんだけど。
 不思議なことに、きょとんした表情のハスタの絵が、それもほとんど実物ってレベルの模写が、紙に浮かび上がってきた。

 これは……凄いアイテムだな。
 異世界の文明って半端ないことになってるのね。
 魔法とかも凄い進んでいるのかなあ。
 戻ってこれないなら絶対嫌だけど、行き来自由であれば、一回魔法習いに行ってみたい気すらする。

 まあそれはさておき、商売にしようっていうアイテムの凄さを見せつけて、誇らしげにロロはこう言った。

「どうです? 想像以上に正確に模写されてるでしょう? これなら世の男性陣を釣りに釣り上げられると思うんですけど」

 いや、確かに凄いんだけど、そしてカメラとやらの性能にも疑問はあったんだけれども。
 私達が危惧しているのは、本当に商売になるのかどうか、ではなく、自分達が商品的な物になる恥ずかしさなんだよ。
 これだけ良い性能だと、逆に恥ずかしさは増すので、否定的なメンバーの否定的感情がより強まっただけなんじゃないかな。

 と思ってたんだけど、このデモンストレーションによって態度が急変した人物が一人。

「ロロ……それ、もうちょっとじっくり見せてもらっていいかな」

 ハスタを映した写真にリリアが異常な興味を示した。
 返事も待たずしてロロから奪い取るようにそれを持つと、じーっと、もうこれでもかってくらいじーっと写真を凝視してから、

「……写真、売ってもいいかもしれないね。これを機に私達という存在をもっとアピールできたら、民の皆ともっと身近な存在になれるかもしれないし!」

 何か良い感じのことを言いながら販売派へと立場を変えた。
 口に出した理由はこんなだけど……たぶんこいつ、自分が買いたいだけだと思う。
 もしもこれが破談となれば、ハスタの写真を手に入れることは難しくなる。
 ロロのカメラで撮った写真なんだからロロが所有する権利があるだろうし。
 勝手に撮った物だからロロが所有するのはおかしいって話になっても、だったら撮られたハスタへと写真が行くのが道理と言えよう。
 そんな道理を進んでしまえば、リリアはハスタの写真を手にするという邪道に行けなくなる。
 だからこその販売していい派への転身を遂げたのだろう。

 これでダイヤとリリアで賛成は二人になってしまった。
 何気なくハスタを撮った風だったけど、足舐めたいっていうリリアの変態発言から、ロロはリリアがハスタを好きなのを見抜いていたのだろうか。
 もしも意図してハスタを撮って、リリアを味方に引きずり込んだというのであれば、この女はただものではないと言える。

 リリアを攻略したロロは、次に、

「ダイヤさんに続いてリリアさんも協力してくれるのですね。ハスタさんはどうでしょう?」

 私達のリーダーであるハスタに対して仕掛けてきた。

「私は商売がしたいと思ってるだけですけど、リリアさんがいいこと言ってますね。ハスタさん方の商品を出すことで、民の皆が親しみを覚えるかもしれないですよ」

 うわあ、ハスタに対しても有効打を放っている。
 ハスタは超真面目な勇者系女子なので、皆に役立つことであれば、やりたいと思っちゃうのよ。
 例えばユージュの時とかもそうなんだけど、一般市民から凄い崇められるようなことをハスタは快く思わない。
 もっと気楽に接することのできる存在となり、ちょっとしたことでもいいから私に助けを求めてほしい、気楽に相談してほしい、そんな風に思ってる。
 そんなハスタが、この商売を行えば、親しみやすい存在になるかもよって言われてしまえば、心も動くってものよ。

「そっか、これを機に皆ともっと仲良くなれるかもしれないのか……恥ずかしい気持ちはあるけど、やってみてもいいのかもしれないね」

 なんてこった、ハスタも向こう側に行ってしまった。
 ロロがパシャリと写真を撮ってから、あっという間に二人も離反者を出してしまった。
 これがロロの実力だというのか。
 アポ無しで侵入してきたかと思えば、変な商談を持ち掛けて、気付けばこちら側の半数以上が向こうへ行ってしまった。
 こっちに残ってるのは、私とメイユだけである。
 ……今からでもメイユを寝かせようかな。

 しかし、それも間に合わず、ロロは今度はメイユを攻略しにかかった。

「ねえメイユさん。ハスタさんも今回の商談に乗ってくれましたよ。今ではそっちが少数派です。このまま拒み続けていいんでしょうか?」

 強気を感じる姿勢でメイユに詰め寄ると、

「ひいいい! わ、私このまま拒絶してたら仲間外れになっちゃうんですか!? わかりました、写真販売を許可しますよ! きっと神も許してくれます!」

 得意の裏切り癖が出た。
 ロロが侵入してきたとき、この暴挙を許すか否かで、メイユがテンパりながら多数派に寝返った様を見ている。
 それを目ざとく覚えておいて、裏切りの出そうなタイミングで仕掛けてきたのかもしれない。
 ロロ……この女、目の前の儲けるチャンスに全力を出している。
 その結果、販売許可しない派は私一人になってしまった。

 だけどな、ロロの不法侵入を許すか否かの時とは違って、多数決的にはもう負けだとしても、最後まで私は販売を許さないからな。
 神が許しても、魔法使いは許さない。
 恥ずかしい物は恥ずかしいんだし、お金にだって困ってないからわざわざやる理由がないのよ。
 ここまで驚異的なペースでハスタ率いる勇者パーティを攻略していったかもしれないけれど。
 この私だけは、簡単に攻略できるとは思わないことね。
 ……どうでもいいけど、神が許しても魔法使いは許さないって、良い感じのタイトルっぽくない?

「さあ、残ったのはアルティさんだけですね。いいんですか、皆さん売ってみようって方向に行ってるのに、一人だけ頑なに拒否しちゃって」
「いいのよ。こういうのは心から納得して決断しないと、後々後悔するんだから。仲間と同じ方向を向かないからって、それはいけないことではないのよ」

 ロロの言葉に私は惑わされない。
 リリアにはハスタ、ハスタには正義感、メイユには多数派への裏切りと、各々わかりやすい攻略法というか、嫌な言い方すれば弱点があった。
 しかし、この天才魔法使いアルティにそんなわかりやすい弱点などない。
 さあロロよ、この状況でお前はどう立ち回る?

「そうですか。まあ確かに仲間だからって、何でもかんでも一緒に行動しなきゃいけないってわけではないですもんね」
「そうよ。何でもかんでも同意しないと仲良しを維持できないなんて、それは純粋な仲間じゃない。各々の個性を認めて尊重できてこそよ」
「素晴らしい考えですね。さすがアルティさんといったところでしょうか。ところで話は変わりますけど、アルティさんって読書が趣味ですよね?」
「本当に変わったわね。そうよ、読書は好きよ。それが何?」
「今日はね、事前連絡もなく急に押しかけちゃって迷惑かけたなあって自覚はあるんですよ。そこで、こんな物を用意したら喜んでもらえるかなあって思いまして」

 そう言いながら、ロロがまた何かを取り出した。
 その取り出した何かをよく見てみると、

「それは、私が好きな小説家であるドミニクさんの最新作『侵略者はこの星で愛を見つけるか』じゃない!」

 思わず叫んでしまった。
 大体もう声に出して言ってしまったけど、ロロは私の好きな小説家の最新作を持ってきたのである。
 ファンだから発売日には気を付けてたんだけど、すぐに売り切れてしまって、私は入手できないでいた。
 仕方がないので次の入荷を待ってたんだけど、まさか実物をこのタイミングで拝むことができるなんて。

 しかしこの女、どうして私が読書好きで、かつドミニクさんファンであることを知っているんだ?
 いや、私もこれで一応は勇者パーティの一員であり、有名人ではあるから、意外とこういうのは知られているのか?
 まあいい、どうして私の趣味が漏れているかはこの際どうでもいい。
 大事なのは、あれだけ欲しかったドミニクさんの最新作が、目の前にあるということ。

「いや~何か悪いわね、ロロ。こんなにいい物を用意してもらっちゃって」
「待ってください、アルティさん。私はただでこれを差し上げようとは思ってませんよ」
「え?」
「私としても皆さんに写真販売の許可を頂きたいですし、どうでしょう? 交換条件ってことで」
「え? いや……あんた、不法侵入の詫びとして用意した、みたいなこと言ってたじゃない」
「本来はその目的で用意してましたけど、それに関しては皆さん最初に無条件で許してくれたじゃないですか。アルティさんだって多数決的に受け入れたはずですよね?」
「……うん、まあ」
「私は許してもらおうと用意してたんですけど、無条件で許されたのなら、別の用途で使ったって問題ないですよね。そしてアルティさんはどうしてもこれが欲しいですよね?」
「……」
「そして私はどうしても皆さんに写真販売の許可をいただきたいんです。それを踏まえてアルティさん、どうします?」



 ……えー、ごほん。
 この度、勇者パーティの写真を発売することになりました。
 さすがにモラル的な観点から、際どいようなのはやめようということになりましたが。
 モラルの範囲内で、私達の色んな姿を映した写真を用意しました。
 ロロを経由して、王都の道具屋さんにて販売されておりますので。
 王都に立ち寄る機会がありましたら、是非とも購入をご検討ください。

 あー……恥ずかしい気持ちは拭えないけど仕方がない。
 ドミニクさんの小説でも読んで、気持ちを紛らわせるとしよう。
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