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 ハインリヒはすぐにアンナのもとに戻っていった。彼は優雅にアンナをエスコートして入学式の会場へと向かう。
 アンナは去り際にもこちらを見ていた。

 ーーまずい。さっきのでアンナの「憎しみ値」を上げてしまったかもしれない。

 『ルクツェン物語3』は各種のパラメーターによってイベントが起きた。
 そのなかでもアンナからの憎悪を表す「憎しみ値」は、各種のイベントを引き起こす重要なステータスだった。

 「憎しみ値」はエマが攻略対象を始めとする重要なキャラクターと関わっていくと徐々に上がっていく。
 「憎しみ値」が上がるとアンナはエマに対してそれ相応の嫌がらせを行う。序盤は嫌みを言われたり睨み付けられたりする程度の嫌がらせだ。しかし、終盤になれば嫌がらせのレベルではなく、命の危険を感じるほどのことをされる。
 攻略対象との「友好度」や「恋愛度」が高ければ、助け船が入るイベントが起こるから事なきを得る。しかし、そうじゃなければエマは嫌がらせを受けて、最悪の場合、死亡エンドを迎えてしまう。
 「憎しみ値」は恐ろしいほど簡単に上がっていく。攻略対象とのイベントとおける選択肢の正否は問われない。イベントが起きた時点で上がってしまう仕様だった。おまけに女友達と仲良くしていただけでも上がる。
 つまり、ゲームの中ではどんな風に過ごしてもアンナに嫌われてしまうのだ。

 「憎しみ値」は下げることも一応は可能ではあった。でも、それは攻略対象とのイベントを潰しに行くことを意味する。
 おまけにそれ用のフラグを狙って立てないといけない。そうしてやっと「憎しみ値」を下げるイベント、通称「闇の女王イベント」が起こる。
 
 ただ、通常プレイでは全くと言っていいほど「闇の女王イベント」を起こす必要がなかった。イベントが起こると全ての攻略対象の友好度と恋愛度が大きく減少してしまう。
 もっといえば、一つでも見てしまうとハインリヒルートの全てのエンディングフラグが潰されてしまい、見ることができなくなる。そして全ての「闇の女王イベント」を見ると、誰とも結ばれずに学園を卒業するエンディングを迎えることになる。

 普通のゲームのプレイヤーなら、バッドエンドに向かいかねない一連の闇の女王イベントをわざわざ見たいとは思わないだろう。前世の私も全エンディングをコンプリートするためにフラグを立てて見ていたに過ぎない。

 でも、今の私はゲームのプレイヤーではない。この世界で生きる人間、エマだ。
 私は平和な学園生活を送りたい。そして、卒業してからもそれなりに幸せな人生を歩みたいと思っている。
 だから、ハインリヒとの関係を絶ち、アンナからの顰蹙を買わないようにしなければ。攻略対象の誰とも深い交流をせず、静かに暮らしていく。
 だから私は、闇の女王イベントを起こすべく行動する。
  私はフラグを立てるために闇の女王イベントの始まりの場所、"禁断の園"へと向かった。
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