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「バリントンという輩は何を考えているんだ?冗談か?冗談でセリーナを脅かすなら許さない!本気か?本気なら絶対に許さない!」

ウィルフレッドは激怒した。必ず、かの脳内お花畑のバリントンを除かなければならぬと決意した。

かつてこのように怒りを露わにするウィルフレッドをセリーナは見たことがなかった。
ウィルフレッドもセリーナの身に危険が迫るとなれば心穏やかにはいられない。

自分を守るために敵に怒りを向けていることはセリーナも理解している。
だが、怒りに飲み込まれているだけでは事態の解決に何の役にも立たない。
セリーナは頃合いを見てウィルフレッドを落ち着かせようとした。

「気持ちはわかるわ。落ち着いて、ウィルフレッド」
「…取り乱してしまってすまない」

セリーナはどうにか宥めることに成功しウィルフレッドは冷静さを取り戻す。
冷静になったことで的確な判断を下し指示を出すことが可能になる。
醜態を晒したことを内心恥じつつ、ウィルフレッドは家令を呼び出し指示を出す。

「まずはバリントンの所在の確認だ。背後に敵対派閥がいるかもしれないから調べろ。警備は厳戒にしろ。使用人たちが狙われる可能性もあるから注意喚起を忘れるな」
「かしこまりました」

ウィルフレッドの指示を受けた家令が動き出す。

「セリーナは安心してくれ。何があろうと君に危害は加えさせない。俺が必ず守る」
「ウィルフレッド…」

セリーナは自分を守ろうとするウィルフレッドを頼もしいと思うと同時に申し訳なく思った。
セリーナに非がないとはいえ元婚約者が迷惑をかけたのだ。
平気でいられるはずがなかった。

ウィルフレッドはセリーナを抱き寄せる。自分が守ると言わんばかりのウィルフレッドの行動にセリーナも少し安心した。
文句の一つくらい言ってくれたほうが心が楽になるのに、とセリーナは思ってしまった。そのようなことで文句を言うウィルフレッドではないと知ってはいるのに。

「自分を責めるな。余計なことは考えなくていい。全部俺が片付けるから」
「わかったわ。でも危ないことはしないでね」
「ああ、気をつけるよ」

余計なことをして足を引っ張るわけにもいかず、セリーナはウィルフレッドの言葉に従うことにした。
身を案じる言葉をかけるくらいしかできない自分をもどかしく思う。

セリーナが落ち着きを取り戻したのを見計らい、ウィルフレッドはバリントン対策に集中すべく場所を変えた。
これからは優しい夫という顔をしていられない。
愛する者へ危害を加えるかもしれない敵を排除すべく戦う騎士の顔になる。
しがない文官でしかない荒事とは無縁だった男も愛する女性を守るためになら勇猛果敢な騎士になれるのだ。
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