・グレー・クレイ

くれいん

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第3話 刺客

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 魔物の体内で生成される特殊な結晶。魔力を含んだ神代の土や木、その化石。今では喪われた幻の顔料で描かれた絵画。ある大魔術師の秘術のレシピが隠された楽器。神域と呼ばれる土地。その他 世界に残存し、今なお強力な力を秘め、魔術師にとっては垂涎の財宝のような価値を持つ物。
 それらは魔術世界において「魔術資源」という言葉にまとめられる。
 どれだけ歴史的、美術的、学術的価値があろうと、魔術師達にとっては関係無い。
 彼らの価値基準は、それが自分たちの掲げる目的のために、使えるか否かの一点。

 そういった点では、クレインは間違いなく『明星』にとっての魔術資源だった。
 ただ、そのように考えているのは、『明星』の魔術師達の中で、ただ一人。

「やはり彼を『明星ここ』に置いたのも、ハト君と戦わせてみたのも正解だった。素晴らしい戦闘性能、素晴らしい再生能力。スペックだけ見ても、間違いなく逸材だ」
 暗がりの中、男は熱に浮かされたようにパソコンの中の画面に見入る。
 それは、ハトとクレイン、両者が激しく戦い合う様を収めた映像だった。

 映像の中で、ハトは人外のような膂力でクレインを弾き飛ばした。クレインはその体を毬のように縮めて床を転がっていく。が、その一瞬の後には、どのように加速したのか。既にハトの眼前に立ち、握った拳を放っていた。ハトは、その拳を掴み、励ましの言葉を送りながらその腕を。途端、重心が狂ったかのようにクレインの身体が浮き、と腹が上を、背中が下を向くように回転、そのまま背中から床に叩きつけられた。

 通常であれば背中側の内臓が破裂し、背骨が砕けるほどの一撃。治癒・再生の能力を持つ魔術師であっても、それほどのダメージを受けては立ち上がることなどできはしない。掴まれた右拳……腕もあり得ない角度で曲がり、皮膚を突き破って白骨が見えている。
 にも関わらず、クレインは自力でうつぶせになり、折れた腕を粘土のように ぐねぐね と変形させ、元通りに治していく。きっと、彼の体内でも同じようなことが起こっているのだろう。どんな損傷を負ったとしても、さながら肉体が粘土のように変形し、結合し、瞬く間に再生……否、「復元」していく。

「凄いぞ、クレイン君。君を手に入れられて本当にボク達は幸運だ。 ……む、終わりか」

 ハトはクレインに対して賞賛を送りながら手を伸ばし、クレインは目を閉じ苦笑しながらその手を掴んで立ち上がる。どうやら実戦訓練は終わったらしい。二人が丁度握手をする所で、映像の再生バーが右端に到着し、止まった。

「……うん。こうなったら直接彼に会ってみたいな。あの実戦訓練を『ためになった』と表現する彼は、ボクに何を話してくれるだろう……楽しみだな」

 男は……『明星』のトップは、胸を高鳴らせながらパソコンを閉じた。


 『明星』の建物がどこにあるのか?
 それはベッドの上で起きて以来、ずっと考えていたことだった。
 保健室改め医務室。教室めいた部屋。射撃訓練場のような部屋。マットが敷かれた広い運動場。そして、各部屋を繋ぐ、窓の無い廊下。
 そのことから、僕は『明星』の建物を、どこか地下に作られたもの。あるいは、どこかの廃校舎を改造したものと予想を立てていた。前者は廊下だけでなく、各部屋にも窓が無かった点から。後者は一部の部屋が学校のそれっぽい広さと造りをしていた点から。
 その答えは、今日、初めての任務に出ることで分かると思っていた。

 だが、分からなかった。
 僕は、今、確かに彼と一緒に、廊下のまだ一度も入ったことのない扉を潜ったはず。潜ったはずなのだが、ふと気づくと、僕は人々が忙しなく往来する通りに立っていた。
「…………は?」
 もう一度言う。
 
 目の前には寂れた古臭い建物が両脇にズラーッと並ぶ奥深い通りがあり、空はドーム状の屋根に覆われ、日の光が遮られている。しかも、立ち並ぶ建物のどれもが人を拒むかのようにシャッターを下ろしていて、人の気配が感じられない。そこはまさに、捨てられた商店街といった風情だった。
 呆然として立ち尽くしていると、彼がその様子を案じてくれたのか、
「どうした。腹でも痛いのか?」
「いえ、お腹は別に……というか、何です、これ。僕たちさっきまで『明星』の建物にいましたよね?」
 そう聞きつつ後方を振り返る。
 そこには、薄暗く細長い路地裏に繋がる建物の隙間があるだけで、それらしき建物はどこにも存在していない。というかそもそもとして、扉を潜って出てきたはずなのに、その扉が無いとはどういうことか。
「うん?……あー、そうか。君はこれが初めてだったか」
 彼は……「テス」さんは、いつもの三色メッシュを入れた黒髪を掻くように撫でる。その服装も、いつもとあまり変わりない。派手なTシャツ、ダメージジーンズ、パーカー。ただTシャツの柄は、この前見た花柄のものではなく、ネズミモチーフの有名キャラのロゴを前面に押し出した可愛らしいものだった。
 僕はと言えば、いつもとあまり変わり映えのしない白のYシャツと黒のズボン。変わっている点は、胸ポケットの辺りに青い糸での刺繍が入っているだけだ。
「初めてって、なんです一体?」
「『明星』名物。扉を開けて2秒で現場前」
「どういう仕組みなんです?」
「魔術。トップが編んだ独自のもので動いている」
 ……その答えを聞いて、僕は「『明星』の建物も魔術でできてるから、あんな変な間取りしてるのかな」と思い、それが今のところ一番可能性が高いことを感じ取り、自分の考察が魔術的な要素を無意識に排除してのものだったと気づいた。
 
 それはつまり、魔術の基礎に関する知識も、それを使っての戦う方法も、自分がどういう存在生きものになったのかも分かっていながら、魔術師としての感性・感覚を、まるで身につけられていなかったことを示していた。

(何が、『魔術は苦手ではないらしい』、だ。……思い上がり過ぎてた。今日の日記に書くこと決まったぞ)
 今の僕は普通の人間ではない。普通の考えは捨てろ。僕は頬をパンパンッと素早く叩き、気持ちを切り替える。テスさんは、そんな僕の様子を感情の読めない曖昧な表情でこちらを見ていた。

「よし……行きましょう!」
「うん、行こうか。……その前に」
 テスさんはパーカーのポケットの中から袋に入った飴玉を取り出した。
「食べておきなよ」

▽ 
 誰もいない潰れた商店街に、二人分の足音が響く。ここもかつては人で賑わっていたのだろうが、長い年月と空を覆う天上がこの場所に陰を落とし、その面影や空気感は失われている。今この場にあるのは不安を増長させる静寂と、ねっとりと首元に絡みつくような気味の悪い気配だけ。
 ……思わず、あの廃墟を一人で歩いていた時のことを思い出した。
 もう考えぬように、恐怖に囚われぬようにと肝に銘じていたはずなのだが、どうもこういった暗がりを歩いていると思い出してきてしまうらしい。それ以前の記憶は未だに思い出せていないというのに。

 だが、今回、僕は一人ではない。
 頼れる先輩がいるし、充分に戦えるだけの力は得られたはず。
 とはいえ……。

(初任務が、魔物退治かぁ……)

 そう、今回の任務は、このシャッター街に現れたという魔物を倒すことだ。まさか『明星』に身を寄せてから一週間しか経っていない新入りの僕が、こんな重要な仕事を任せられるとは思っていなかった。
 正直言って、ここに出る魔物は、まず間違いなくハトさんよりは弱いだろう。
 だが、いつ、どこから襲ってくるのか。どういった方法で攻撃してくるのか。
 無言で奇襲を警戒し続けながら前へと進んでいくのは、かなり精神を削ることだと知った。

 そうして、二人でシャッター街の丁度中間あたりまで足を踏み込んだ時。

 ──突然、テスさんが僕の服を乱暴に掴んで地面へと引っ張った。
 それからほとんど間を置かず、

 ヒュッ

 と何かが正面から風を切って飛び、僕の右耳を掠めて後方へと飛んだ。
 
(──なんだ、今の──攻撃──!?)
「クソッ、認識阻害の魔術を見抜いたのか! クレイン、動くなよ!」
 テスさんはそう乱暴に吐き捨て、タイル状の地面に右掌を押し当てる。
「『属性放出 土』!」
 そう叫んだ瞬間、地面に押し当てていた右掌が褐色の光を放つ。それと同時に地中を何かが駆けまわっているかのような地響きがし始める。

(……いや、僕は撃たれても大丈夫だ。なら、ちょっと視線を向けて敵の姿を見るくらいなら──)

 僕は少しだけ上体を起こし、飛来物が飛んできた方向を見──。

 ヒュンッ

 ──た瞬間、飛んできたそれは正確に僕の額目掛けて飛んできた。
「クレインっ……!」
 テスさんがほとんど悲鳴のような声を上げる。僕は飛んでくるそれを真正面から見据え、。それは、集中力を極限まで高め、タイミングも完璧に合わせなければできない奇跡のような芸当。回転して向かってくるそれを素手で止めたせいか、掴んだ右手の皮膚が爛れて赤い肉が見えた。
「うっ……」
 掌が焼けるように熱い。僕は思わず掴んだそれを落とした。

 そうして攻撃を防いだのとほぼ同じタイミングで地響きがやみ、まるでシャッター街を途中で分断するかのように石の壁が地面からせり上がり、盾として僕達の前に屹立した。その数秒後、ガツンッ、と何かがぶつかる大きな衝撃と音が壁の向こう側から響き渡った。
 僕達は石の壁から少し距離を置き、次の攻撃に備え……後に聞こえるようになったのは、二人の魔術師の息切れだけとなった。

「────……」
 僕は、地面に落ちた飛来物を見た。。
 それは、銀色の杭状をした物体だった。重さ、質感的に金属製だろうか。だが、少し経つとボロボロと崩れていくところを見ると、通常の金属ではない。何か、得体の知れない魔術によって構築されたもののようだった。

(──まさか……今見たのは)
 そう思考を巡らせていると、テスさんは倒れている僕の傍に駆け寄り、
「大丈夫か!? ……クレイン、お前、手が……右耳も」
「え? いや、大丈夫ですよ、こんなのすぐ──」
 治りますよ。そう言おうとしたが、手と耳に走るズキズキと感じる痛みはいつまで経っても引かず、さらにはポタポタと血が滴り落ちているのに気が付いた。
 ハトさんとの実戦訓練では、どんな損傷を食らおうと数秒経てば完治し、血の一滴だって体に戻っていたにも関わらず……。
「え……なんです、これ……」
 呆然として血が滴り続ける掌を見続けていると、テスさんが僕の肩を強く掴んだ。

「……なぜ、あの状態で動いたんだ!? 動くなと言っただろう!」
「あ、す、すみません!……でも、ホラ、僕は撃たれても体が治るので……さ、索敵を優先……」
 その言葉を聞いた途端、テスさんは目を見開き、

「治るから危険に身を晒していいのか! 死なないから勝手に行動してもいいのか! だとしたら君はとんだ馬鹿だ! 死なない存在を殺す方法だって、この世にはあるんだぞ!」

 テスさんはそこまで言うと、大きく、細く息を吐いた。
「……いいか。死ぬ死なないに関わらず、自分の命を雑に扱うのはやめてくれ。自分の命を雑に扱える者は、いつか他人にそれを強いることになるぞ」
 と、僕に説いた。
「……………」
 ……初めて、テスさんがこんなにも取り乱すのを見た。
 いつもはあまり感情を表に出さず、淡々とした様子を崩さない彼。それが、声を荒げて、肩を震わせて、何なら少し目尻に涙を浮かべて、僕に説教をしてくれている。

 それを見て、僕はまた酷い思い上がりをしていたのだと気づかされた。
 確かに、魔術師は怪物のような存在だ。
 手から光弾を放ち、人の力など到底及ばないような魔物を殺してしまえる力を持ち、例え命に届きうる傷を受けたとしても治してしまえる。
 
 そんな人達が、「魔と現の狭間を取り持つ」なんて目的を掲げている時点で理解するべきだった。
 普通の考えを捨てろ? 馬鹿な考えだ。
 耳と掌の痛みは少し治まり、代わりに胸の中がズキズキと痛んだ。

「……ごめん、なさい」
 僕の子供時代がどうだったのかは覚えていないが、こうしてポツリと呟くように謝ると、ざわざわ──と、頭の……いや、心のどこかで懐かしさを感じた。明確な記憶を思い出すまでは行かないが、かつて同じ感情を胸に抱いたことがあったのだろう。
 よかれと思って行動して、危険に身を晒し、説教を受けた時の「感情」。
 それが、一度は遠くに押しやった「かつての自分」と「今の自分」を繋ぎ合わせる縁の一本となった気がした。

「……いや、こっちも強く言って悪かった。習うより慣れろ……ハトとの実戦を『ためになった』と評する君のことだ。もうあんな無茶はしないと信じている」
 テスさんはそう言い、乱れた黒髪を撫でつけ、
「それに、不死のあれこれについて教えなかったのは完全にこちらのミスだ。……まさか、こんなところで不死殺しの武器に襲われるとは思ってなかったからな……」
「……いえ、これは僕が悪いんです。どうせ死なないからって、正直、自分の命を軽んじてました」
 そう言うと、テスさんは申し訳なさそうに目を伏せた後、少し笑った。僕もその顔を見て、少しだけ笑った。

「それで……どうだった? あの一瞬で、何が見えた?」
 テスさんはすぐに表情を微笑みから「魔術師」の顔に変え僕に聞いた。
「はい。アレは……僕たちを襲っているのは、魔物なんかじゃありません」
 僕の言葉にテスさんは「やはり」と呟く。

「あれは人……魔術師です」
 

 ──男の足元で、虫と鼠を合わせたような奇妙な姿をした魔物が苦悶に喘ぎ、その身に突き刺さった杭を抜こうともがいていた。
 それは、このシャッター街に巣食っていた魔物だった。小さな体躯に、素早い動き。それによって今まで長く生き延びていたのか、『異界』を現実に浸食させる能力を獲得するまでに至った個体だった。
 だがそれも、早贄はやにえ、あるいは昆虫標本のように捕らえられるまでのこと。今やこの魔物はシャッター街の主ではなく、杭を通して傍らに立つ男に魔力を供給する存在でしかなかった。

 男はそのキィキィ喚く魔物のことなど無視し、手にした「杭撃ち銃」のクランクを回して弦を引き絞り、次の弾丸を……『不死殺しの銀』によって作られた杭を装填した。
「──認識阻害の魔術……ああ、『身隠しの飴』か。あれが無ければ即座に頭を撃ち抜いてやれたのだがな。先に気が付かれたか……」
 
 男は……乾ききった皮膚を保護するように包帯を巻いたミイラ然とした男は、口角を歪めて喜色を湛え、被っているシルクハットの鍔の縁を撫でた。標的との距離は、直線でおよそ100m。最初の不意打ちの一発を外し、次の頭部狙いの二発目を片手で防がれ、三発目に至っては石の防壁に弾かれる始末。この時点で杭撃ち銃による狙撃は封じられたも同然──。

「──と思ってんだろうなぁ。石壁あれでもう安全と思って……」

 男は杭撃ち銃の照準を石壁に合わせ、その手から杭撃ち銃へ魔力を送り込む。
 赤と金色の魔力光が絹糸の様に絡まり、交わり、杭撃ち銃に力を……『属性』を纏わせる。

 それは、男の有する「炎」と「金」の『属性』。
 その二つを掛け合わせ、混ぜ合わせ──魔術として放つ奥義。

「『属性融合』──火蜂ヒバチ──!」

 引き金を引いた瞬間、カァン!と空気が弾ける甲高い音が響き渡る
 放たれた鉄の杭は魔力が変じた火炎を纏い、シャッター街を飛翔していく。その速度はまさに目にも留まらぬほど。直線100mの距離を一瞬で詰め、石の壁に着弾。
 瞬間、杭は爆発を引き起こし、シャッター街を黒煙が包んだ。


 ミイラ然とした男は立ち上る黒煙と砕けた石壁、そして、誰の姿も無いシャッター街の通路を目にし、
(……いなくなっている。逃げたか………いや待て)
 男は僅かな空気の流れ、肌に触れる風を感じ取り、天井を仰いだ。

 黒い煙に紛れ、光が射している。

 崩れた石壁の丁度真上。シャッター街を覆う天上。
 そこに、が開き、煙がそこから空へと昇っていた。
 瞬間、男の聴覚は天井を駆ける足音を知覚した。

「……爆発の瞬間に上へ逃れたか! 獣かよ!」
 と、男は杭撃ち銃を捨て、纏うコートの裏から一本のハンドアクスを取り出した。そして、それにも素早く「炎」と「金」の『属性』を纏わせる。

 一瞬の後、天井が砕け、日の光が差し込む。
 その光を背に、こちらへ飛び込んでくるのは、少年の姿をした──。

「弾を掴んだ時から人間じゃねぇと思ったが、マジの化け物か!」
 男は火炎を纏った斧を振り上げ、落ちてくる少年を迎撃しようとする。

 だがその瞬間、殺し屋としてではなく、魔術師として培われてきた男の勘が警鐘を鳴らした。それは、目の前の少年に……少年の姿をしたものに対する、違和感。
 高速で飛ぶ鉄の杭を、着弾ギリギリで掴む反射神経、握力、膂力。そして、爆発の瞬間に天井を割って退避するほどの瞬発力、突破力。そんな、ほとんど魔物のような身体性能を有するヤツが、こんな落下中に無防備な姿を晒すのか?……いや、そもそもとして、こんなただの「落花攻撃」なんてものを仕掛けてくるか?
 ……あのもう一人いた、派手な姿のヤツは?

 ミイラめいた男は咄嗟に攻撃をやめようとしたが、既に振り下ろした斧の勢いは止まらない。分厚く重い刃は違わず少年の脳天に突き刺さり──。

 ガシャン、と音を立てて少年は……姿は砕けた。

「土の『属性』で作った石人形に、光の『属性』で彼の姿を投射したものだ」
 天井の上から声がする。少年の声では無い。あの、メッシュをかけた男の声。
「……光の『属性』に関しては聞いてないって顔だな。そりゃ当然、お前には今初めて見せたからな。お前もロケットランチャーみたいな技を隠してたんだから、これでチャラでいいだろ」
 ミイラめいた男は、目を見開き、誰もいない……通りを睨んだ。

 瞬間、とシャッター街の景色が歪み、そこから一人の少年が……クレインが姿を現した。その距離、僅か5m。男が天井の足音に気を取られた瞬間には、もう駆けだしていたようだった。
 
「俺がやりたかったことは、お前の注意を引くことと、接近戦を警戒させて杭撃ち銃その武器を捨てさせること。天井に上がる時は、彼に……と、答え合わせをしている間に、ほら」

 包帯の男は急いでコートの中にある予備の杭を取り出し、突き刺そうとするが、その時には既にクレインによる左拳の一撃が腹を捉えていた。

「ガッ──……!」 
 男は腹を折り曲げ、くの字となって吹き飛び、閉じられたシャッターに背中から激突する。被っていたシルクハットは衝撃でずり落ち、男の傍らに転がった。完全に気絶したようで、白目をむき、口の端からは血を垂らしている。クレインは男が立っていた位置に、地面に杭で縫い付けられた魔物がピクピクと動いているのに気づき、元の任務を思い出したのか、その魔物を踏み潰して殺した。

 魔物の討伐任務は、予想外の妨害に遭いながらも完了。
 シャッター街における魔術戦は、クレインとテスの勝利にて幕を閉じた。
 
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