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第五章 公爵夫妻、デートする
【御礼 番外編】公爵夫人の思いつき 後編
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※エミーリア視点
リーンが起きてた!
寝ていると思い込んで、あんなことやこんなことをしてしまったのに!
さらに私が彼を溺愛しようとしていたこともバレ、なんと彼が嫌がっていると思っていた『溺愛公爵』のあだ名を誇りに思っていると言われてしまった。
「私のやったことは全てムダだったのねね・・・。」
二重にやらかしたことで恥ずかしさでいっぱいになった私は、がっくりと枕に突っ伏した。
「エミィ、ムダじゃないよ。君が僕を想ってしてくれたことは、どんなことでも嬉しいから落ち込まないで?」
いやもう、無理。リーンがどんなに優しく慰めてくれても、やったことはなかったことにならないのよ。
昨夜、あんなに勇気を出して『壁どん』して、彼だったらどうするかなと考えてもう決死の思いでキスして愛を囁いたのに。
全部、ぜーんぶ、私の思い込みだったなんて!あんな恥ずかしいこと、やるんじゃなかった!
人は羞恥でも死ねるんじゃないかしら。
私は枕に顔を押し付けたまま叫んだ。
「恥ずかしすぎてもう無理。なんてことをしてしまったのかしら。」
何か言ってくると思ったのに、リーンは黙ったままだ。
なんとも言えない沈黙が続いて、私がいたたまれなくなったあたりで、彼の腕が伸びてきて後ろからひょいと抱き起こされた。
そのまま身体をくるりと回転させられて、顔に押しつけていた枕はあっさりと取り上げられた。
防御壁が取り上げられ、私は強制的に彼と向かい合う形になった。
いたたまれない気持ちのままに彼の顔に視線を向ければ、薄青の瞳が笑いを含んで私を見つめていた。
「あのさ、昨夜のは計画的な行動として、さっき君が僕に触れてくれたのは衝動だよね?」
「衝動?」
「君は寝ている僕を見て触れたいと、ああいうことをしたいと思ったんだよね?」
「・・・」
確かにその通りですが、言葉にされると尚更恥ずかしいのですが?!
抱えてきた秘密を暴露されたようで、何も言えず全身が熱くなって、堪らず俯いた私に彼が柔らかい声で語りかけてきた。
「ねえエミィ、君も僕に触れたいと思ってくれてるんだと思っていい?」
返事に詰まって目を閉じた私の頬に、そっとリーンの大きくて硬い手が添えられた。
剣を握る人の手だ。
彼と私の身長はそこまで差がないのに、手の大きさと硬さは随分と違っていて、それを知った時はとても驚いた。
私は優しく頬に当てられた彼の手に自分の手を重ねる。
この手がいつも私を守ってくれてる。
ええ、白状するわ。
「そうね。私はリーンに触れられるのも、触れるのも好き。・・・だって、リーンに触れていると安心するんだもの。」
顔を上げてリーンを見つめながら告白すれば、目の前の顔に笑みが溢れた。
「さっき僕が寝ていると思ってエミィが触れてきてくれた時、僕はすごく幸せだったよ。もちろん、昨夜のもドキドキしていつもと違う気分が味わえてよかったし。ね?君のしたことは僕にとってはいいことばっかりだった。」
彼が本当に幸福そうに言うから、私の心もふわりと浮上した。
・・・すごく恥ずかしかったけど、リーンを喜ばせることができたならそれでいいわ!
「そんなに喜んで貰えるなら、私ももっと頑張って貴方を溺愛するわ。」
「それは、楽しみだな。」
そう言いながら彼の顔が近づいてきて、唇が触れる寸前。
ぐーきゅるるー・・・
私のお腹が盛大に鳴った。
「ははっ!もう昼だもの、そりゃ、お腹も空くよね!気が回らなくてごめんね、食事にしよっか。」
「もうっ、そんなに笑わないでよ!」
ベッドに倒れてお腹を抱えて笑うリーンにムカついて、えいっと枕を叩きつける。でも直ぐに自分でも可笑しくなって、結局一緒になって笑い転げた。
■■■
※侍女ミア視点
予想通り、公爵夫妻は昼過ぎまで起きてこなかった。
料理長には昨夜のうちに奥様の計画を伝えたら、そりゃ間違いなく明日は朝昼兼用だな、と頷いていた。
誰が聞いたってあの奥様の思いつきは、旦那様を喜ばせるだけだと思う。
そういうことで今朝(もう昼だけど)、何だか楽しそうに起きてきた奥様の着替えや、身だしなみを整えるのをお手伝いしている最中に私はある発見をした。
「奥様・・・」
「奥様、本日は少し肌寒いので襟首まであるドレスにいたしませんか?」
私がそれを奥様へ告げようとしたところ、華麗にロッテさんに阻まれた。
「そう?寒いかしら?でも、ロッテがそういうならそうするわ。ねえ、さっきミアも何か言いかけてなかった?」
「いえ、髪飾りをどれにするかお尋ねするつもりだったのですが、ドレスを変更されるなら一緒に取ってきますね。」
「ええ、よろしくね。」
私の誤魔化しを疑うことなく、素直に頷く奥様。
それに少々罪悪感を抱きつつ、その場をロッテさんに任せて、私は向かいの衣装部屋へ新しいドレスを取りに行くために廊下へ出た。
そこには早々に支度を終えた旦那様が、壁にもたれて奥様を待っていた。
その横を一礼をして通り過ぎようとした私はふと足を止め、すすっと旦那様に近寄って行った。
「どうしたミア?エミーリアはまだかかりそう?僕も手伝おうか?」
どさくさに紛れて妻に会いたがる旦那様に私は小声で話し掛けた。
「後はドレスをお召しになるだけです。が、着るドレスが変更になったので、取りに行くところです。」
「何かあったの?」
不思議そうに聞き返してきた旦那様に更に小さな声で告げる。
「旦那様、久しぶりにやっちゃいましたね。奥様の首の後ろ辺りに跡が付いてましたよ。」
ここら辺に、と私自身で実際の場所を指し示して説明すると、旦那様がしまった、という表情になった。
「え、本当に?あー・・・加減を間違えたか。消えるまでなんとか誤魔化せそう?」
「ちょうど寒くなってきますし、首の後ろの方ですし、奥様にはバレずに済むんじゃないでしょうか。」
「ごめんね。なんとかよろしく頼むよ。跡をつけないように気をつけてたのにな。・・・なんでエミーリアはあんなに可愛いんだろうねえ。」
「そうですねえ。」
もしかして旦那様って実は溺愛をコントロールしてるようで出来てないかも?
昨夜の『壁どん』の時、旦那様は一体どんな顔をなさったのだろう?驚き?喜び?動揺?
考えていたら、足音とともに
「ミアは遅いですね。ちょっと見て参ります。」
というロッテさんの声がした。
続いて扉が開く気配に慌てた私は、うっとりと奥様に想いを馳せている旦那様を放って衣装部屋へ飛び込んだ。
■■■■
ここまでお読み下さりありがとうございました。
結局、双方ともに溺愛は続行となったようです。
リーンの楽しみが増えただけという・・・。
リーンが起きてた!
寝ていると思い込んで、あんなことやこんなことをしてしまったのに!
さらに私が彼を溺愛しようとしていたこともバレ、なんと彼が嫌がっていると思っていた『溺愛公爵』のあだ名を誇りに思っていると言われてしまった。
「私のやったことは全てムダだったのねね・・・。」
二重にやらかしたことで恥ずかしさでいっぱいになった私は、がっくりと枕に突っ伏した。
「エミィ、ムダじゃないよ。君が僕を想ってしてくれたことは、どんなことでも嬉しいから落ち込まないで?」
いやもう、無理。リーンがどんなに優しく慰めてくれても、やったことはなかったことにならないのよ。
昨夜、あんなに勇気を出して『壁どん』して、彼だったらどうするかなと考えてもう決死の思いでキスして愛を囁いたのに。
全部、ぜーんぶ、私の思い込みだったなんて!あんな恥ずかしいこと、やるんじゃなかった!
人は羞恥でも死ねるんじゃないかしら。
私は枕に顔を押し付けたまま叫んだ。
「恥ずかしすぎてもう無理。なんてことをしてしまったのかしら。」
何か言ってくると思ったのに、リーンは黙ったままだ。
なんとも言えない沈黙が続いて、私がいたたまれなくなったあたりで、彼の腕が伸びてきて後ろからひょいと抱き起こされた。
そのまま身体をくるりと回転させられて、顔に押しつけていた枕はあっさりと取り上げられた。
防御壁が取り上げられ、私は強制的に彼と向かい合う形になった。
いたたまれない気持ちのままに彼の顔に視線を向ければ、薄青の瞳が笑いを含んで私を見つめていた。
「あのさ、昨夜のは計画的な行動として、さっき君が僕に触れてくれたのは衝動だよね?」
「衝動?」
「君は寝ている僕を見て触れたいと、ああいうことをしたいと思ったんだよね?」
「・・・」
確かにその通りですが、言葉にされると尚更恥ずかしいのですが?!
抱えてきた秘密を暴露されたようで、何も言えず全身が熱くなって、堪らず俯いた私に彼が柔らかい声で語りかけてきた。
「ねえエミィ、君も僕に触れたいと思ってくれてるんだと思っていい?」
返事に詰まって目を閉じた私の頬に、そっとリーンの大きくて硬い手が添えられた。
剣を握る人の手だ。
彼と私の身長はそこまで差がないのに、手の大きさと硬さは随分と違っていて、それを知った時はとても驚いた。
私は優しく頬に当てられた彼の手に自分の手を重ねる。
この手がいつも私を守ってくれてる。
ええ、白状するわ。
「そうね。私はリーンに触れられるのも、触れるのも好き。・・・だって、リーンに触れていると安心するんだもの。」
顔を上げてリーンを見つめながら告白すれば、目の前の顔に笑みが溢れた。
「さっき僕が寝ていると思ってエミィが触れてきてくれた時、僕はすごく幸せだったよ。もちろん、昨夜のもドキドキしていつもと違う気分が味わえてよかったし。ね?君のしたことは僕にとってはいいことばっかりだった。」
彼が本当に幸福そうに言うから、私の心もふわりと浮上した。
・・・すごく恥ずかしかったけど、リーンを喜ばせることができたならそれでいいわ!
「そんなに喜んで貰えるなら、私ももっと頑張って貴方を溺愛するわ。」
「それは、楽しみだな。」
そう言いながら彼の顔が近づいてきて、唇が触れる寸前。
ぐーきゅるるー・・・
私のお腹が盛大に鳴った。
「ははっ!もう昼だもの、そりゃ、お腹も空くよね!気が回らなくてごめんね、食事にしよっか。」
「もうっ、そんなに笑わないでよ!」
ベッドに倒れてお腹を抱えて笑うリーンにムカついて、えいっと枕を叩きつける。でも直ぐに自分でも可笑しくなって、結局一緒になって笑い転げた。
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※侍女ミア視点
予想通り、公爵夫妻は昼過ぎまで起きてこなかった。
料理長には昨夜のうちに奥様の計画を伝えたら、そりゃ間違いなく明日は朝昼兼用だな、と頷いていた。
誰が聞いたってあの奥様の思いつきは、旦那様を喜ばせるだけだと思う。
そういうことで今朝(もう昼だけど)、何だか楽しそうに起きてきた奥様の着替えや、身だしなみを整えるのをお手伝いしている最中に私はある発見をした。
「奥様・・・」
「奥様、本日は少し肌寒いので襟首まであるドレスにいたしませんか?」
私がそれを奥様へ告げようとしたところ、華麗にロッテさんに阻まれた。
「そう?寒いかしら?でも、ロッテがそういうならそうするわ。ねえ、さっきミアも何か言いかけてなかった?」
「いえ、髪飾りをどれにするかお尋ねするつもりだったのですが、ドレスを変更されるなら一緒に取ってきますね。」
「ええ、よろしくね。」
私の誤魔化しを疑うことなく、素直に頷く奥様。
それに少々罪悪感を抱きつつ、その場をロッテさんに任せて、私は向かいの衣装部屋へ新しいドレスを取りに行くために廊下へ出た。
そこには早々に支度を終えた旦那様が、壁にもたれて奥様を待っていた。
その横を一礼をして通り過ぎようとした私はふと足を止め、すすっと旦那様に近寄って行った。
「どうしたミア?エミーリアはまだかかりそう?僕も手伝おうか?」
どさくさに紛れて妻に会いたがる旦那様に私は小声で話し掛けた。
「後はドレスをお召しになるだけです。が、着るドレスが変更になったので、取りに行くところです。」
「何かあったの?」
不思議そうに聞き返してきた旦那様に更に小さな声で告げる。
「旦那様、久しぶりにやっちゃいましたね。奥様の首の後ろ辺りに跡が付いてましたよ。」
ここら辺に、と私自身で実際の場所を指し示して説明すると、旦那様がしまった、という表情になった。
「え、本当に?あー・・・加減を間違えたか。消えるまでなんとか誤魔化せそう?」
「ちょうど寒くなってきますし、首の後ろの方ですし、奥様にはバレずに済むんじゃないでしょうか。」
「ごめんね。なんとかよろしく頼むよ。跡をつけないように気をつけてたのにな。・・・なんでエミーリアはあんなに可愛いんだろうねえ。」
「そうですねえ。」
もしかして旦那様って実は溺愛をコントロールしてるようで出来てないかも?
昨夜の『壁どん』の時、旦那様は一体どんな顔をなさったのだろう?驚き?喜び?動揺?
考えていたら、足音とともに
「ミアは遅いですね。ちょっと見て参ります。」
というロッテさんの声がした。
続いて扉が開く気配に慌てた私は、うっとりと奥様に想いを馳せている旦那様を放って衣装部屋へ飛び込んだ。
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ここまでお読み下さりありがとうございました。
結局、双方ともに溺愛は続行となったようです。
リーンの楽しみが増えただけという・・・。
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