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変化の日③
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「恵也……大丈夫?」
「母さん、俺のことは放っておいてくれよ」
母さんが心配してくれているのもわかる。だけど今は何も話さないでいたい。姉ちゃんはそれをわかってくれるはずだ。
「可愛げのない妹ね」
このバカ姉、俺のこと弟じゃなくて妹といったぞ。何考えてんだ。ふざけるなと言いたい。
「俺は男だ。二度と妹とか言うな」
こういうのは即座の訂正が大事だ。
「でも妹が欲しかったしいいじゃない」
朝の冷静な姉を返してほしい。それともこちらが姉の本性なのだろうか。もしそうならどうしようもない姉だ。
「それにね、あなたはいつかはしっかりと向き合わないといけない日が必ず来る。その判断は私たちに相談はしたとしてもいい答えなんか帰ってこない。だから必然的に一人で決める必要がある。私や母さんでは力になろうとしてもなれないの。それは覚えておいて」
姉が珍しく真面目なことを言ったことよりも、いつかは向き合わないといけない日が来るという言葉が心に反響して鳴りやまない。
「向き合う……」
「そうよ。恵也がかかった病気は直すこともできないし、性別適合手術も意味がないと言っていた。どうするかはあなた自身が決めなくてはいけないし、その道を選択しても、苦労はするでしょうね。だから私にできるのはそんな恵也の精神的負担を減らすことだけ」
「姉ちゃんがそんな深い考えを持って俺のことをからかっているとは思わなかった」
初めて姉を勉強以外の面で尊敬したかもしれない。
「いや、さっきからかったのは恵也の反応が絶対に可愛いと思ったから」
「この姉は本当に……」
さっきまでの俺の感動を返してほしい。なんでこの姉はこういうことしか言えないんだ。母さんだって笑っているじゃないか。
「二人とも喧嘩は帰ってからしてね。車の中では危ないからしないこと。わかったわね」
姉のせいで小学生がされるような注意をされてしまったではないか。まったく、面倒なことこのうえない。
姉のほうをちらりと見ると足を組んで外を見ながらわかっているわよと明らかにわかっていない様子であった。あるいはわかっているがわかっていないふりをしているのか。それとも本当にわかっていないのか。どちらもあり得る話だ。
「恵也、母さんからも少し言わせてね。さっきお姉ちゃんが言ったように、母さんたちでは力になることはできないかもしれないけど、つらいことがあっても抱え込んじゃ駄目よ。そんなときには遠慮なんかしないで誰かに言いなさいね。母さんやお父さんにお姉ちゃん。友達だっているでしょう」
まだ、考えなくてはいけないという言葉の意味が単語の意味としては理解できるのだが、感覚的にはどうにも理解できない。いうなれば、何かのスポーツのやり方だけ知っていて、一度もその競技をやったことのない状態だ。
「……」
黙ること。それが俺にできる選択肢。
「家に着いたら恵也に着せてみたい服があるの。私の高校の時の制服」
「ごふぉ!」
思わずむせてしまった。姉が通っていた高校は俺が通っている高校と同じだった。つまり、姉が俺に着せたいと言っている制服は俺の高校の女子の制服ということになる。正直そんなの着たくない。
「あら、恵也の制服姿お母さんも見てみたいわ」
おい、母親がそれでいいのか。なんでこの家族はこうなんだ……
「母さんまで加勢しないでくれよ」
「あら、いいじゃないの。きっとかわいいと思うわよ」
母さんは笑っている。こうなったらもう止められない。姉を見てみてもいやらしくに奴いている。そんな気持ち悪い笑いはしないでほしいがおそらく無理だ。今までもできたためしがない。
そうこうしているうちに家に着いた。姉に制服を着させられる前に書類には目を通しておきたい。
「ただいまー」
「さあ、恵也私の部屋に来なさいな」
「それ本気だったの?」
あくまでも本気であることは理解していないことをアピールする。少しの抵抗くらいはさせてくれ。
「本気に決まっているじゃない」
姉はやはりさも当然だという顔で言った。何度でも言おう。恐ろしい。
「姉ちゃんの部屋に行くのは後。まずは病院でもらった書類を見たい」
姉はそれもそうねと言い速攻部屋に行くのは回避された。書類については姉も一緒に見たいようなので、母さん、姉とみることにした。
「母さん、俺のことは放っておいてくれよ」
母さんが心配してくれているのもわかる。だけど今は何も話さないでいたい。姉ちゃんはそれをわかってくれるはずだ。
「可愛げのない妹ね」
このバカ姉、俺のこと弟じゃなくて妹といったぞ。何考えてんだ。ふざけるなと言いたい。
「俺は男だ。二度と妹とか言うな」
こういうのは即座の訂正が大事だ。
「でも妹が欲しかったしいいじゃない」
朝の冷静な姉を返してほしい。それともこちらが姉の本性なのだろうか。もしそうならどうしようもない姉だ。
「それにね、あなたはいつかはしっかりと向き合わないといけない日が必ず来る。その判断は私たちに相談はしたとしてもいい答えなんか帰ってこない。だから必然的に一人で決める必要がある。私や母さんでは力になろうとしてもなれないの。それは覚えておいて」
姉が珍しく真面目なことを言ったことよりも、いつかは向き合わないといけない日が来るという言葉が心に反響して鳴りやまない。
「向き合う……」
「そうよ。恵也がかかった病気は直すこともできないし、性別適合手術も意味がないと言っていた。どうするかはあなた自身が決めなくてはいけないし、その道を選択しても、苦労はするでしょうね。だから私にできるのはそんな恵也の精神的負担を減らすことだけ」
「姉ちゃんがそんな深い考えを持って俺のことをからかっているとは思わなかった」
初めて姉を勉強以外の面で尊敬したかもしれない。
「いや、さっきからかったのは恵也の反応が絶対に可愛いと思ったから」
「この姉は本当に……」
さっきまでの俺の感動を返してほしい。なんでこの姉はこういうことしか言えないんだ。母さんだって笑っているじゃないか。
「二人とも喧嘩は帰ってからしてね。車の中では危ないからしないこと。わかったわね」
姉のせいで小学生がされるような注意をされてしまったではないか。まったく、面倒なことこのうえない。
姉のほうをちらりと見ると足を組んで外を見ながらわかっているわよと明らかにわかっていない様子であった。あるいはわかっているがわかっていないふりをしているのか。それとも本当にわかっていないのか。どちらもあり得る話だ。
「恵也、母さんからも少し言わせてね。さっきお姉ちゃんが言ったように、母さんたちでは力になることはできないかもしれないけど、つらいことがあっても抱え込んじゃ駄目よ。そんなときには遠慮なんかしないで誰かに言いなさいね。母さんやお父さんにお姉ちゃん。友達だっているでしょう」
まだ、考えなくてはいけないという言葉の意味が単語の意味としては理解できるのだが、感覚的にはどうにも理解できない。いうなれば、何かのスポーツのやり方だけ知っていて、一度もその競技をやったことのない状態だ。
「……」
黙ること。それが俺にできる選択肢。
「家に着いたら恵也に着せてみたい服があるの。私の高校の時の制服」
「ごふぉ!」
思わずむせてしまった。姉が通っていた高校は俺が通っている高校と同じだった。つまり、姉が俺に着せたいと言っている制服は俺の高校の女子の制服ということになる。正直そんなの着たくない。
「あら、恵也の制服姿お母さんも見てみたいわ」
おい、母親がそれでいいのか。なんでこの家族はこうなんだ……
「母さんまで加勢しないでくれよ」
「あら、いいじゃないの。きっとかわいいと思うわよ」
母さんは笑っている。こうなったらもう止められない。姉を見てみてもいやらしくに奴いている。そんな気持ち悪い笑いはしないでほしいがおそらく無理だ。今までもできたためしがない。
そうこうしているうちに家に着いた。姉に制服を着させられる前に書類には目を通しておきたい。
「ただいまー」
「さあ、恵也私の部屋に来なさいな」
「それ本気だったの?」
あくまでも本気であることは理解していないことをアピールする。少しの抵抗くらいはさせてくれ。
「本気に決まっているじゃない」
姉はやはりさも当然だという顔で言った。何度でも言おう。恐ろしい。
「姉ちゃんの部屋に行くのは後。まずは病院でもらった書類を見たい」
姉はそれもそうねと言い速攻部屋に行くのは回避された。書類については姉も一緒に見たいようなので、母さん、姉とみることにした。
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