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第二章 ただ今契約履行中
21 突き付けられた現実とヴァルの熱い想い
しおりを挟む「どうしても駄目?」
「今更何を仰います!?」
「いやいや今更だからでしょっっ」
「いいえっ、是が非ともこれは避けては通れないのです!!」
「いやいやそこは是非とも避けましょうよぉっっ」
「茉莉花様……往生際が悪過ぎです。こうなってしまった以上どうかお諦め下さいませ」
「ええええ――――っっ!! それはないでしょジョージー!?」
「さぁ皆さん大急ぎで茉莉花様のお支度にかかりましょう」
「「「「はいっ、承りましたぁっっ」」」」
「いやっ、あ、ちょ、ちょっと待って――――っっ!!」
茉莉花の抵抗も空しく、ジョージーを含め彼女に仕える侍女達が一斉に支度へと取り掛かる。
「やだ、私はまだ、そう……まだっっ!?」
何とかほんの少しでも抵抗を試みるが、不幸にも全ては空振りに終わってしまう。
そう、今日は茉莉花とヴァルの成婚の儀が行われたのだ。
契約的婚約を交わして半年後の事である。
ヴァルを含めセオやジョージー達、この世界の多くの者達は皆一日でも早く二人の成婚を願っていた。
何故ならどの文献にも召喚された聖女との成婚は遅くても三カ月以内でなされていたのだ。
当然ヴァル達も二カ月以内には成婚の儀を行おうと画策してはいたのだが、茉莉花の反抗は想定済みだったけれどもまさかの宰相デンホルムが中々と了承しなかったのが、婚約を交わして半年と言う時間を要してしまったのだ。
表向きは茉莉花がまだこの世界に馴染んではいないと言う事。
そしてもう一つはエロイーズが何かを画策していると実の父親が進言したのだ。
確かに茉莉花に対する嫌がらせはまだ続いて入る。
だがヴァル達からすればそれこそ茉莉花をその危うい立場よりも、一日も早く正式に成婚を行い彼の唯一の正妃へ据えれば、少なくともいくつかの問題は容易に解決しただろう。
またこの世界を覆う結界を繕うには何としても茉莉花をヴァルの正妃にしなければいけないのだ。
しかしヴァルでなくとも皆薄々感じていた。
デンホルムの茉莉花へ対する一種の執着めいた想い。
誰も口に事は出さないけれども、その想いこそがヴァルと茉莉花の成婚を妨害する真意だと言ってもいい。
でもただ一人それにほぼほぼ気がついていないのが茉莉花である。
いや、正確にはほんの少しは気がついているのだが、ただただ経験不足故にデンホルムの執着をぼやんとしかわかってはいない。
そう、あくまでぼやん――――なのだ。
そして延び延びになる成婚の儀を善しと思っていたのはデンホルムだけでなく茉莉花自身もなのだ。
何故なら幾ら契約婚を了承したとは言っても、茉莉花の全てを差し出すと決めた訳ではない。
第一まだ異性を好きになる経験はおろか、男女交際なるものを一度も体験すらしてはいないのだっっ。
ただし男女の機微に疎い茉莉花でもっ、結婚をした男女が次に何をするかを知らない訳ではない。
仕事先や小説等で仕入れた情報で、経験はなくとも実はかなりの耳年増なのである。
だがあくまでも情報だけだ。
やる事をわかってはいても経験はない。
その経験がないと言うのにも拘らずそれを異世界でっ、然もお茶飲み友達である(茉莉花が一方的にそう信じ込んでいる)ヴァルとっ、恋人でもないのにSEXをするっっ!?
あり得ない。
茉莉花の心の中での計画では、そもそもこんなにも長くこの世界でいるとは思わなかったのだっっ。
ヴァルの言う通り悪役がデンホルムだとしても、茉莉花自身それを確認すれば未だ方法がよくわからないけれどもっ、ヴァル達へ茉莉花は快く力を貸し、そしてこの国の平和を取り戻すのを条件に今度は彼女が元の世界へ帰る方法を皆で仲良く探して見つけ出して無事日本へ帰る。
茉莉花も幸せ、皆もハッピー。
大団円で間違いナシ!!
時間もこんなに掛からず、早くて一週間。
長くても二ヶ月くらい?
兎に角ポジティブに考えていた筈なのにどうして今になってこんな現状!?
しかし現実はそうそう甘くはない。
茉莉花が混乱している間にジョージー達は手早く、そして入念に夜の支度を整えていく。
そうして気がつけばあっという間にほぼほぼシースルーの夜着が身体を、いや胸や下半身が光の加減で薄っすらどころじゃあない!!
ばっちり、そしてしっかりと茉莉花の裸体が晒されてしまっている。
またその上に何故かガウンを着る事も許されず、ただ出来る事は心許無さ過ぎる薄絹を掻き集め、茉莉花は胸と下半身を隠そうと試みるがそれも実にささやかでしかない。
「駄目ですわ茉莉花様。せっかくこんなにもお美しく仕上がりましたのに……」
「いやいやこれは犯罪よっっ!! 胸や下半身……ぷっくり出ているお腹までもがしっかりと強調されてるじゃないっっ。こんなのは駄目!! これは犯罪――――っっ!?」
「何が犯罪なのだ?」
「――――……っっ!?」
何時の間にか寝室にジョージー達の姿はなく、ここにいるのは茉莉花と何時入って来たのって今でしょう。
ガウンを羽織りってはいても逞しい胸を隠そうともしないヴァルが傍で立っていた。
「な、なな、なんで? どう……して?」
茉莉花は咄嗟に寝台の支柱の陰へと隠れようとするが、ほんの一瞬の遅れでヴァルに容易く掴まってしまう。
そして抵抗する間もなく抱き寄せられれば、お互いの肌の触れあう部分より伝わるヴァルの体温が途轍もなく熱いと感じると共に、茉莉花の瞳を捉える彼のアスターの瞳に妖しい光と熱が孕み、瞳を逸らせようとしても何故か逸らす事が出来ない。
これは金縛り……にあった様な、茉莉花がそう感じてしまう程ヴァルの腕の中にいる彼女はピクリとも動けない。
そんな茉莉花の耳元でヴァルは吐息に絡ませてそっと囁く。
「生涯大切にする。愛している茉莉花、どうか俺だけのものになってくれ。そうしてゆっくりでもいいから俺を、俺だけを愛してくれ。俺はこの世界、いやあらゆる世界よりたった一人茉莉花だけを見つけたのだ。俺の大切な聖女、どうか俺を受け入れてくれ……!!」
熱く囁かれる度に茉莉花の心は大きく揺れ、徐々に脳内が甘く痺れていく。
次第落とされる甘いキスによって茉莉花の思考は緩慢になり、そうして頃合いを見計らったかのように寝台へ彼女は大切な壊れ物の様に運ばれると、空が白くなり始めるまで何度も繰り返しヴァルの情熱を受け入れ続けた。
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