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21 神の森を探して ・アルブレヒト

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アルブレヒト・クジャーク。

それが私の名だ。



大切な家族の為、伝説の神の森を探して王都の東の森に入った。

王都ではここ最近、回復魔法や治癒魔法が効きにくい病が流行り始めている。

最初はただの風邪かと思っていたら、微熱が続きやがて高熱となり、治癒魔法で一時的に癒しても数日もすればまた同じような症状に襲われる。

そんな状態を何度か繰り返すとやがて治癒魔法を掛ける傍から身体が熱を発し、呼吸が弱くなり最悪の場合死に至る。

私の家族はまだいい。

すぐ傍に治癒魔法が得意な者が付いてくれているから進行はかろうじて抑えられている。

しかし、王都内ではついに死者が出てしまった。

体力の無い者は常人よりも進行が早く、教会の聖魔法使いが間に合わなかったのだ。

病は大流行とまではなっていないが、各教会からちらほらと報告が上がりその数はじわじわと増えつつある。

まだ原因も特効薬も見つかっていない。

呪術の類の可能性も考え浄化もしたらしいが効果は無い。

つまりこれは呪術などではなく、病なのだ。

病だというならば、どこかに薬となる物がある筈だ。

長い歴史の中、人の命を奪う恐ろしい病は幾つも記録されているが、それらには全て特効薬があった。

薬が見つかるまでの時間は様々だったが、すべての病に薬は見つかってきていたのだ。

だから、今回も必ずある筈なのだ。

しかし・・・間に合うだろうか。

あの子は・・・私の甥は既にひと月近く高熱を患ったままだ。

国中の冒険者達に仮に熱病と名付けたあの病に効く薬草を探すクエストを出しているが、成果は芳しくない。

体調が悪い時は教会に行けば治癒を受けられるので、薬草で病を治すのは一般的ではない。

書物としての薬草辞典などはあるがそれだけで、薬草を判別出来る者が極端に少ないのだ。

病人が増え、回復魔法や治癒魔法が追い付かない者が増えつつある今、死者もまた増えてゆくだろう。

歴史上、こうした事は数度記録されている。

死の病が大流行し、世界の人口の3割が亡くなったという事例もある。

数百年前のその時は聖女が顕現し、神の森から頂いたという植物から特効薬を作り世界に広めたという。

特効薬の素となったその植物は、病が終息すると暫くして全て枯れてしまったという。

聖女と呼ばれる女性は国や世界の危機に度々現れたが、何れの方も危機が去ればいつの間にか姿を消してしまい、ただ伝説だけが残っている。



そして今、致死の病が広がりつつあるが、世界の危機に現れるという聖女は未だ顕現していない。



伝説にある神の森は本当に存在するのか。

そこに辿り着くことが出来れば、聖女の伝説にある植物が手に入るのか。

聖女が最初に現れたという東の森は魔獣の発生が多く、冒険者の中でも高ランクの者しか入る事が許されない危険な場所だ。

か弱い女性がただ一人で歩ける所ではない。

それ故に東の森のどこかに神の森に繋がるものがあると言われているのだが、辿り着いた者はただ一人としていない。

やはり伝説は伝説でしかないのだろうか。





冒険者登録をしている部下と共に東の森に入って数日。

魔獣に遭遇しては、戦い、倒し魔石をマジックバッグに収納する。

これではまるでその為に森に入っている冒険者のようではないか。

この森の魔獣は他の場所に出現する魔獣より数段強く、武器だけで倒すのが難しい為攻撃系の魔法も使わなければならない。

たったの一体討伐するのに体力も魔力もごっそりと持って行かれ、完全に回復する前に次の魔獣が襲ってくる。

部下は疲弊し、既に二人ほど戻らせた。

目の前には私の身長を軽く超える程の巨大なトロイト。

体中の毛に毒を持ち、下手に物理攻撃をすると逆に毒で動けなくなってしまう。



「っ!この・・っ!!」



「カール!」



向かってきたトロイトに、咄嗟に手に持った剣を突き立てようとした部下はそのスピードと重さに対抗出来ず麻痺毒で倒れた。かろうじて死んではいない。

これを倒したら回復魔法を掛けてやると心の中で約束し、目の前のトロイトと見合う。



「デカブツが・・・っ」



ブフーッブフーッと威嚇し向かってくるトロイトの首に剣を突き刺し、さらに火炎魔法を放つ。

ピギィ!と嘶き頭を振るトロイトの首が半分以上身体と離れているのをみて、私は勝利を確信する。

しかし。



「ハアッ!」



勝利に油断し、完全に首を落とそうと欲を掻いたのが悪かったのだろう。

最後の足搔きとばかりに振り回された頭の口元から伸びる牙が俺の肩を大きく抉った。



「――――ッ!!!」



激痛が身体を襲う。

気力で首を落とし、トロイトは倒したがこれはまずいかもしれない。

さして間もなく血の匂いで魔獣や獣が寄ってくるだろう。



「カール・・・っ」



カールは毒にやられただけだから、状態回復魔法さえ掛けてやればある程度動ける筈だ。

結界魔法石を持たせてやれば森の外まで出られるだろう。

浄化はその後だ。



「隊長・・っそんな傷で!」



「私は大丈夫だ。これを持って、すぐに森の外へ出ろ」



「結界石・・!?これは殿下の・・っ」



「・・・殿下のために持たされた物だ。お前はよくやってくれた。ここは撤退してすぐに浄化を受けろ。

魔物化したくないだろう?」



「っ」



「行け」



「・・・で、隊長、すぐに応援を呼んで参ります!」



カールは渡した結界石を握り締め私に背を向けた。

さて、私の方は、これは無理かもしれないな。

ドクドクと脈打つ傷口からはダラダラと血が流れ、それと共に魔力が失われて行く。

既に、回復魔法を掛ける余裕も無くなっているのが自身で分かっていた。



「情けない話だ・・・」



息をつき、動く方の手でもう一つの結界石を取り出し余力の魔力を注ぐ。

そして、自身の周りを囲う結界を確認したと同時、目の前が暗転した。











































どれくらい意識を失っていたのだろう。

ふ・・と目を開けると夜明けのようだった。



「・・・?」



あれは夢なのか?

一瞬そう思ってしまったのも無理はないだろう。



「どういうことだ・・・」



一瞬死をも覚悟した肩の傷が無くなっていた。

血に塗れた服も綺麗になっている。

しかし、トロイトにやられた部分の服が破れているところを見れば、あれはやはり夢などではなかったらしい。

だとすれば今の状況はどういう事なのだ。

今の私の身体には傷の痛みも、魔獣にやられた傷特有の闇の重苦しい気配も何もない。

誰かが浄化を掛けてくれたに違いないのだが・・・。

こんな森の中でいったい誰が・・・。

冒険者のパーティーの中には稀に回復要員として聖属性魔法を持つ者を同行させている者もいるというが、この森でそんなパーティーには遭遇しなかった。

そもそもあの傷を完全に治す治癒魔法の使い手などそうそういるものではない。

教会でも数人がかりで数日掛けてやっとというところだろう。

しかも、私に浄化を掛けるためにはまず結界を壊さなければならなかった筈。

結界石による結界とはいえ、あれは陛下より賜った強力な結界石で張ったものだ。

余程の強い魔力の持ち主でなければ壊すことは出来ない筈なのだ。

私を助けてくれた人物は、膨大な魔力の持ち主の上、聖魔法の使い手であり強力な回復魔法も使える稀有な者という事だ・・・。





周りには誰もいない。

しかし一瞬、視線を感じてそちらを見れば



「!?」



ほんの一瞬、漆黒の瞳と視線が合った。

私がいる位置から50メード程離れているだろうか。

そこそこ遠いはずなのに、目を見開いたのが分かった。

直後には視線を逸らし森の中に消えて行ってしまったが。



何か告げられた訳でもない。

しかし確信した。

私を助けてくれたのは『彼』だと。

この世界では殆ど見た事が無い、漆黒の髪に漆黒の瞳。

・・・伝説の、初代聖女と同じ色だ。

薄紅色をした唇は驚いたように少し開かれて、人形めいた美しい造作の顔を人間に見せていた。



ハッとして立ち上がり彼が消えた方に走ったが時すでに遅く、ただ風で揺れる木々が見えるだけだった。



また、会いたい・・・!



ただの一瞬、目が合っただけ。

それだけ。

それだけなのだが。

・・・私の心は彼に囚われてしまった。
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