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第一章

ルチア先生の教室 2

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 ルチアの話を聞きながら、この世界のことは分からないばかりだと再認識した。
 召喚された時の持ちものは皆無で、身につけていた制服だけだった。
 幸いなことがあるとすればウィニーに声をかけられたことで、今回の説明で初めからギルドに入ることは叶わなかったことが分かる。

 魔眼の力では未然に危機を防ぐだけなので、平凡な高校生の俺が生きるにはできることから始めるしかないということだ。
 俺と内川はRPGゲームの主人公のように選ばれし者というわけでもなく、チートで派手な活躍も見こめそうにない。
 スタート地点がかろうじてマイナスではないことを喜ぶべきなのかもしれない。


 こうしてルチアの話が終わったところで、内川が彼女に声をかける。

「君は見た目によらず、脳筋キャラじゃないんだな」

「おいおい、それは失礼だって」

「その通りっす。もうあんたには協力しないっすよ」

「……ごめんなさい」

 内川は素直に謝った。
 右も左も分からないこの世界において、ルチアは貴重な協力者の一人だ。
 彼はそれが理解できないほどアホではない。

「ところで俺たちの宿はここなの?」

「いやー、団長とエリーが寝泊まりしているからダメっすね」

「それなら、どこかおすすめを教えてもらえると助かるかな」

「王都で野宿させるわけにもいかないし、しょうがないっすね」

 ルチアはウィニーに任されたこともあってか、引き続き面倒を見てくれるつもりのようだ。律儀なところは頼りになる。
 彼女は黒板消しで書いたものを消すと、部屋の外に出てついてくるように促した。
 
 それからルチアと俺たちは洋館を離れて、街の通りまでやってきた。
 横並びになって石畳の道を歩く。
 二人だけの時よりも街に慣れている彼女がいるだけで、安心感が段違いだと思った。

「お金の使い方ぐらいは分かるっすね?」

「うん、それはさすがに」

 必要な代金を支払い、対価として商品を受け取る。
 いくら異世界でもその部分は同じはずだ。
 ただ、相場が分からず、品定めができない点に関しては致命的なことかもしれない。

「高額な商品だと足元を見てふっかけてくるやつもいるんすけど、食堂や宿屋でそんな話は聞いたことないっす。だから、提示された金額を払えば問題ないっすね。あと、さっき見た中にシグル金貨があったから、あれは出さないようにするっす」

「所持金が多いと分かると、ならず者に狙われるからだろ?」

 内川が得意げに話した。
 それを受けてルチアは感心したような反応を見せる。 

「おおっ、よくできましたっす」

「まあ、異世界ファンタジーの常識だな」

「んっ? イセカイファンタジーって?」

「それはあれ、俺たちの故郷で使う言葉で、深い意味はないよ」

「ふーん、そうっすか」

 会話が途切れたところで、内川にたしなめるような視線を向ける。
 彼は頭をかいて反省しているようだった。
 俺たちが勇者召喚で異世界転移したと話したところで、この世界の住人は混乱するだけだろう。

 ルチアは意外と責任感が強いようで、買い物の仕方や相場などを教えてくれた。
 武器屋と防具屋について簡単な説明を受けたが、俺たちのような素人はウィニーに用立ててもらった方が無難らしい。
 内川は剣や盾を見たいと駄々をこねたものの、買わないのに冷やかしに行くのは迷惑だとルチアに止められた。

 やがて、夕暮れが近づいた頃にルチアが腹が減ったと言い出した。
 その流れでおすすめの食堂を案内される流れになり、俺たちは一軒の食堂に足を運んだ。
 看板には馬毛亭と書かれており、夕食時ということもあってにぎわっている。

 俺たちは給仕の若い女性に案内されて、空いた席についた。
 樽の底のような丸型のテーブルには何も置いていない。
 これまでに行ったことがあるのはファミレスなどのチェーン店ばかりで、作法が分からない店だと不安になる。

「あれ、メニュー表は――どうやって注文するの?」

 辺りをきょろきょろと見回しながらたずねた。
 すると、ルチアが何を言っているんだと言わんばかりの様子で応じる。

「そんな上品なものないっすよ。ここで出る料理はお決まりものしかないっすから」

「ちょっと、うちのレパートリーが少ないみたいな言い方しないでもらえる」

 席に案内してくれた女性が近くに立っていた。
 彼女はルチアへ抗議しつつ、料理が盛られた皿をテーブルに置いていく。
 じゃがいもとベーコンが乗ったジャーマンポテトのようだ。

「ルチアはいつものでいいわね。二人は新入りさんよね。エールでいいかしら?」

「えーと、ソフトドリンクで……」

「ごめん、何? ソフトドリンク?」

 ここまで変換魔法的なものが効果を発揮していたが、相手が意味を理解できない言葉までは都合よく変換されないようだ。

「お酒以外で」

「僕もお酒はパスだ」

「うちに来てお酒を飲まないのはルチアぐらいだと思ったのに。フルーツジュースでいいかしら?」

 給仕の女性はめんどくさそうな態度だった。
 ある意味、素直でいいと思うことにした。
 相手が美人なので、あまり腹が立たないというのもある。

「ええ、それで」

「それで頼む」

「うん、分かった。あと、わたしはミナ。よろしくね」

「どうも、よろしく」

「よろしく頼む」

 ミナはカウンターへ注文を伝えると、忙しそうに別の席へ注文を取りに行った。 


 あとがき
 ここまで読まれてご存知かと思いますが、ガスパール王国のギルドは入るのにハードルが高いため、有力者の紹介や実力が明白でないと入れない仕組みです。

 こちらの作品を読んで頂き、ありがとうございます。
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