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第三章
サリオンの疑問
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「エルフから見れば、人族で起きる問題なと似たり寄ったり。君がそう思うのも自然なことです」
「そういうものなのかな。俺にはよく分からないや」
「いつか分かる日が訪れるのかもしれません」
「……そんな日が来たらいいな」
サリオンは微笑みを浮かべており、大人が子どもを見るような大らかさが感じられた。
ドワーフと酒飲み対決をしていたとは思えないような仕草だった。
意外な一面に驚きを覚えた。
「旅団にいれば見聞が深まるはずです。若いうちに色んなことを学んでおきなさい」
「先生みたいなことを言うんだね」
「……んっ?」
何気ない一言のつもりだったが、それを受けたサリオンに間があった。
気に障るようなことを言ったつもりはなかった。
居心地の悪さを感じながらも、取り繕うように訂正するのも逆効果に思われた。
「なるほど、興味深い。君は庶民のような振る舞いを見せているのに、実は有力者の子息……なんてことは……」
「いやいや、そんなことないけど……」
サリオンがじっとこちらを見る。
興味を持とうとしてくれるのはありがたいわけだが、あまり過大評価されるのも戸惑ってしまう。
彼の瞳からは好奇心や色んな感情が入り混じった様子を窺い知ることができた。
ウィニーには転移魔法陣で城に飛ばされたと伝えてあり、彼はサリオンにその部分は秘密にしてくれたのだろう。
こちらの出自に疑問を持ってもおかしくなかった。
それにしてもサラリーマンの子なので、俺が高貴な出自ということはありえない。
「これは失礼。詮索しても意味がないことだった。イチハ族風の見た目で周辺一帯では最大の王都の知識がない。なのに、貴族や有力者の子息しか通えない学校に行っていた気配がある。詳しい事情はいずれ聞かせてもらいましょう」
「話せることは多くないけど、色々と訳ありなんだ。それでも、迷惑かけるようなことはないから。それと話せるようになったら、必ず話すと約束するよ」
気づけば立ち止まって話していた。
サリオンの表情は至って柔らかいもので、疑っているようには見えなかった。
彼は優しげに諭すような声で語りかける。
「心配いりません。ウィニーとエリーも何か特別な理由から旅団を興しています。私はまあ、特段の秘密はないですが、腹の探り合いは信頼関係を損なうでしょう。今回は君の背景に興味が湧いただけです。答えにくいことは無理に答えなくて構いません」
「サリオン……ありがとう」
「ええ、それでいいですよ」
話に区切りがついたところで、俺たちは歩き出した。
サリオンのおかげで隠していることへの後ろめたさが弱くなった。
勇者召喚、異世界転移――俺や内川と同じように召喚されているクラスメイトたち。
今はまだ話す気にはなれないが、いずれウィニーやサリオンに打ち明ける時が訪れるのかもしれない。
この世界で暮らしていくのならば、仲間たちと協力していくことは大事だと思う。
しばらく路地を進むにつれて、徐々に周りの建物が少なくなっていた。
人通りもまばらで日常生活には結びつかない場所であることが分かる。
道に沿うように水量のある川が流れており、前方には王城とは別の城が佇んでいる。
荘厳で息を呑むような完成度の王城に対して、この城は朽ち果てる最中に見えた。
全体的に色あせたような印象を受ける。
「見えてきたけど、あれが古城かな」
「ええ、周りを見れば分かると思いますが、あまり人が来ません。それに川や茂みが隣接することで動物が入り放題です」
「これだと人が隠れても気づかないし、誰かが手入れをしないといけないよね」
先ほどのサリオンの話では解体することもできず、かといって使い道がないという話だった。
手入れは行き届かない状況で、報酬つきの見回りで済ませている状況なのだろう。
「出発前に確認すべきでしたが、武器の携帯はどうなっていますか?」
サリオンの問いかけに荷物から、鞘に入った短剣を出して応じた。
彼は鞘から抜き出して、刃の部分をさっと眺めた。
思案を巡らすような表情を浮かべてから、おもむろに口を開く。
「気を悪くしないでほしいですが、君の技量ではこれを使いこなすのは難しいのでは?」
「うん、その通り。俺が使っても振り回すだけになると思う」
そう応じるとサリオンは短剣を鞘に収めて返した。
彼は腕組みをして顎に手を添えて、何かを考え始めた。
「アインの町のように見通しはよくないので、古城の方が危険度は高い。短剣はおまけ程度に考えて、身の危険を感じた時は逃げてください」
「分かった。危ない時はそうするよ」
「素直でよろしい」
サリオンは満足したように頷いて、古城に向かって歩き出した。
城門だった場所にたどり着くと、門は空いたままの状態だった。
二人でそこを通過して城の敷地に足を踏み入れる。
城壁の内側に入ると時間が止まったかのような静寂に包まれていた。
人の気配はなく、城というよりも遺跡という名の方がしっくりくる。
サリオンは少し進んだところで立ち止まった。
周囲に目を向けて、状況を確認しているようだ。
「そういうものなのかな。俺にはよく分からないや」
「いつか分かる日が訪れるのかもしれません」
「……そんな日が来たらいいな」
サリオンは微笑みを浮かべており、大人が子どもを見るような大らかさが感じられた。
ドワーフと酒飲み対決をしていたとは思えないような仕草だった。
意外な一面に驚きを覚えた。
「旅団にいれば見聞が深まるはずです。若いうちに色んなことを学んでおきなさい」
「先生みたいなことを言うんだね」
「……んっ?」
何気ない一言のつもりだったが、それを受けたサリオンに間があった。
気に障るようなことを言ったつもりはなかった。
居心地の悪さを感じながらも、取り繕うように訂正するのも逆効果に思われた。
「なるほど、興味深い。君は庶民のような振る舞いを見せているのに、実は有力者の子息……なんてことは……」
「いやいや、そんなことないけど……」
サリオンがじっとこちらを見る。
興味を持とうとしてくれるのはありがたいわけだが、あまり過大評価されるのも戸惑ってしまう。
彼の瞳からは好奇心や色んな感情が入り混じった様子を窺い知ることができた。
ウィニーには転移魔法陣で城に飛ばされたと伝えてあり、彼はサリオンにその部分は秘密にしてくれたのだろう。
こちらの出自に疑問を持ってもおかしくなかった。
それにしてもサラリーマンの子なので、俺が高貴な出自ということはありえない。
「これは失礼。詮索しても意味がないことだった。イチハ族風の見た目で周辺一帯では最大の王都の知識がない。なのに、貴族や有力者の子息しか通えない学校に行っていた気配がある。詳しい事情はいずれ聞かせてもらいましょう」
「話せることは多くないけど、色々と訳ありなんだ。それでも、迷惑かけるようなことはないから。それと話せるようになったら、必ず話すと約束するよ」
気づけば立ち止まって話していた。
サリオンの表情は至って柔らかいもので、疑っているようには見えなかった。
彼は優しげに諭すような声で語りかける。
「心配いりません。ウィニーとエリーも何か特別な理由から旅団を興しています。私はまあ、特段の秘密はないですが、腹の探り合いは信頼関係を損なうでしょう。今回は君の背景に興味が湧いただけです。答えにくいことは無理に答えなくて構いません」
「サリオン……ありがとう」
「ええ、それでいいですよ」
話に区切りがついたところで、俺たちは歩き出した。
サリオンのおかげで隠していることへの後ろめたさが弱くなった。
勇者召喚、異世界転移――俺や内川と同じように召喚されているクラスメイトたち。
今はまだ話す気にはなれないが、いずれウィニーやサリオンに打ち明ける時が訪れるのかもしれない。
この世界で暮らしていくのならば、仲間たちと協力していくことは大事だと思う。
しばらく路地を進むにつれて、徐々に周りの建物が少なくなっていた。
人通りもまばらで日常生活には結びつかない場所であることが分かる。
道に沿うように水量のある川が流れており、前方には王城とは別の城が佇んでいる。
荘厳で息を呑むような完成度の王城に対して、この城は朽ち果てる最中に見えた。
全体的に色あせたような印象を受ける。
「見えてきたけど、あれが古城かな」
「ええ、周りを見れば分かると思いますが、あまり人が来ません。それに川や茂みが隣接することで動物が入り放題です」
「これだと人が隠れても気づかないし、誰かが手入れをしないといけないよね」
先ほどのサリオンの話では解体することもできず、かといって使い道がないという話だった。
手入れは行き届かない状況で、報酬つきの見回りで済ませている状況なのだろう。
「出発前に確認すべきでしたが、武器の携帯はどうなっていますか?」
サリオンの問いかけに荷物から、鞘に入った短剣を出して応じた。
彼は鞘から抜き出して、刃の部分をさっと眺めた。
思案を巡らすような表情を浮かべてから、おもむろに口を開く。
「気を悪くしないでほしいですが、君の技量ではこれを使いこなすのは難しいのでは?」
「うん、その通り。俺が使っても振り回すだけになると思う」
そう応じるとサリオンは短剣を鞘に収めて返した。
彼は腕組みをして顎に手を添えて、何かを考え始めた。
「アインの町のように見通しはよくないので、古城の方が危険度は高い。短剣はおまけ程度に考えて、身の危険を感じた時は逃げてください」
「分かった。危ない時はそうするよ」
「素直でよろしい」
サリオンは満足したように頷いて、古城に向かって歩き出した。
城門だった場所にたどり着くと、門は空いたままの状態だった。
二人でそこを通過して城の敷地に足を踏み入れる。
城壁の内側に入ると時間が止まったかのような静寂に包まれていた。
人の気配はなく、城というよりも遺跡という名の方がしっくりくる。
サリオンは少し進んだところで立ち止まった。
周囲に目を向けて、状況を確認しているようだ。
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