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第三章
今は話せないこと
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「いい紅茶でした」
ティータイムを終えたサリオンが立ち上がる。
彼がマグカップをテーブルに置く動作さえ、どこか見栄えのするように見えた。
そこで目で合図したのが見えたので、これから出発だと理解した。
俺も椅子から立ち上がり、世話係のエルフに続いて歩くために動き出す。
するとそこでウィニーがサリオンに声をかけた。
「カイトはまだ新米だから、しっかり見てやってくれ」
「心配無用です」
「そんじゃあ頼むな」
サリオンは涼しげに答えると、俺についてくるように促した。
先を行く彼の金髪とマントがなびいている。
颯爽と歩く姿に見惚れるような感覚がした。
「じゃあ、行ってくるよ」
「くれぐれも無茶はするな。危ない時はあいつを頼りにしろ」
「そうだね、分かった」
ウィニーに見送られて部屋を出る。
少しずつ旅団の一員として認められることがうれしかった。
軽やかな足取りでサリオンに続いて歩いた。
「依頼の内容は見回りだけなの?」
二人で洋館の外に出た後、サリオンにたずねた。
細かい質問は省略したが、そんな簡単な内容なのかと聞きたかった。
「冒険者は避けがちですが、見回りも大事なことです。野生動物の進入、劣化による危険の回避。あとは侵入者の有無を確認する役割があります」
「たしかにそれは大事だね」
「王都の外れですから、盲点になりやすいです。手配された元冒険者が隠れていたこともあります。基本的に一般人は立ち入らないようになっています」
「えっ、それって危ないんじゃ」
「だいぶ前のことですし、さすがに稀なケースですよ」
「ああ、それならよかった」
サリオンはこちらを安心させるような穏やかな声だった。
そうそう起きることではない知り、ホッと胸をなで下ろす。
ゴブリンを傷つけることでさえ抵抗がある以上、人と戦うなんて考えられない。
それに元冒険者とただの高校生である自分では勝負にならないだろう。
俺の戦闘能力はモブクラスで、魔眼だけがずば抜けているという奇妙なバランスなのだ。
何か理由があると思いたいところだが、前衛向きなスキルの級友に比べると見劣りしてしまう。
「ウィニーも口にしましたが、危ない時は私を頼ってください。手の届く範囲で何かあっては寝覚めが悪いですから」
「ありがとう。危なくなったらそうするよ」
サリオンの気遣いが分かり、頼れることが安心につながると思った。
何かあっても自分一人では、逃げることぐらいしかできないだろう。
自然と会話ができるようになったことに驚きもあった。
二人で話すうちに洋館の前を離れていた。
王都の外れまでは歩いて行ける距離なのだろうか。
せっかく話せるようになったので、素直にたずねることにした。
「そういえば、このまま徒歩で移動?」
「アインの町に比べたら、ずいぶん近いです。王都の地理を知るのにちょうどいい機会だと思います」
「そうだね。古城なんて知らなかったし、もう少し街のことを覚えた方いいよね」
一人で未開拓の地区を歩くのは抵抗があるが、サリオンが一緒ならば頼もしい。
この世界に慣れるにはもう少し時間が必要なものの、せっかくならば色んなものを見ておきたい気持ちはある。
途中までは通ったことのある道を進み、曲がってからは初めて通る場所だった。
人通りはまばらで治安が悪そうな様子は見られない。
時折、通行人の中に屈強な男が見受けられても、こちらに絡んでくるような気配はなかった。
「ははっ、緊張していますね。この辺りは全然安全ですから、そこまで気負わなくても大丈夫です」
サリオンが愉快そうに笑い声を上げた。
そんなことを言いたくなる程度には、俺の様子がぎこちないのだろう。
特に反論するような気にならず、案内されるままに道を進む。
この辺りも食堂や商店よりも民家の方が多い。
洋館の近くもそうだが、大通りを囲むように住宅街があるような構造みたいだ。
王都全体の地図を見ることができれば、その全容を知ることができるだろう。
建築全般にそこまで興味があるわけでもないので、地図については必要があれば眺めてみようという程度の関心だ。
少しずつ王都の中心から離れたようで、反対方向にある王城が小さく見える。
古城も城になるわけだが、前に王族が住んでいたところなのだろうか。
「そういえば、定期的な見回りよりも解体した方が早いと思ったけど」
俺はおもむろにたずねた。
颯爽と歩くサリオンは前を向いたまま応じる。
「強力な魔法使いがいれば、それは可能かもしれません。しかし、解体後にがれきを運び出したり、諸々の費用だったりで現時点ではないといったところです。それに加えて王家の象徴でもあるので、国王陛下も消極的なのも大きいでしょう」
「何だか、どこかで聞いたことがある話だなー」
日本の空き家問題とか廃校になったままの校舎とか。
野外活動で行った先の田舎でそんな話を聞かされた記憶がある。
本当はバスで行くはずだったところでも、少子化やら空き家がなんちゃらと事前講習で聞かされたような気がした。
あとがき
お読み頂き、ありがとうございます。
おかげさまでファンタジーカップ及びHOTランキングがアップしています。
ティータイムを終えたサリオンが立ち上がる。
彼がマグカップをテーブルに置く動作さえ、どこか見栄えのするように見えた。
そこで目で合図したのが見えたので、これから出発だと理解した。
俺も椅子から立ち上がり、世話係のエルフに続いて歩くために動き出す。
するとそこでウィニーがサリオンに声をかけた。
「カイトはまだ新米だから、しっかり見てやってくれ」
「心配無用です」
「そんじゃあ頼むな」
サリオンは涼しげに答えると、俺についてくるように促した。
先を行く彼の金髪とマントがなびいている。
颯爽と歩く姿に見惚れるような感覚がした。
「じゃあ、行ってくるよ」
「くれぐれも無茶はするな。危ない時はあいつを頼りにしろ」
「そうだね、分かった」
ウィニーに見送られて部屋を出る。
少しずつ旅団の一員として認められることがうれしかった。
軽やかな足取りでサリオンに続いて歩いた。
「依頼の内容は見回りだけなの?」
二人で洋館の外に出た後、サリオンにたずねた。
細かい質問は省略したが、そんな簡単な内容なのかと聞きたかった。
「冒険者は避けがちですが、見回りも大事なことです。野生動物の進入、劣化による危険の回避。あとは侵入者の有無を確認する役割があります」
「たしかにそれは大事だね」
「王都の外れですから、盲点になりやすいです。手配された元冒険者が隠れていたこともあります。基本的に一般人は立ち入らないようになっています」
「えっ、それって危ないんじゃ」
「だいぶ前のことですし、さすがに稀なケースですよ」
「ああ、それならよかった」
サリオンはこちらを安心させるような穏やかな声だった。
そうそう起きることではない知り、ホッと胸をなで下ろす。
ゴブリンを傷つけることでさえ抵抗がある以上、人と戦うなんて考えられない。
それに元冒険者とただの高校生である自分では勝負にならないだろう。
俺の戦闘能力はモブクラスで、魔眼だけがずば抜けているという奇妙なバランスなのだ。
何か理由があると思いたいところだが、前衛向きなスキルの級友に比べると見劣りしてしまう。
「ウィニーも口にしましたが、危ない時は私を頼ってください。手の届く範囲で何かあっては寝覚めが悪いですから」
「ありがとう。危なくなったらそうするよ」
サリオンの気遣いが分かり、頼れることが安心につながると思った。
何かあっても自分一人では、逃げることぐらいしかできないだろう。
自然と会話ができるようになったことに驚きもあった。
二人で話すうちに洋館の前を離れていた。
王都の外れまでは歩いて行ける距離なのだろうか。
せっかく話せるようになったので、素直にたずねることにした。
「そういえば、このまま徒歩で移動?」
「アインの町に比べたら、ずいぶん近いです。王都の地理を知るのにちょうどいい機会だと思います」
「そうだね。古城なんて知らなかったし、もう少し街のことを覚えた方いいよね」
一人で未開拓の地区を歩くのは抵抗があるが、サリオンが一緒ならば頼もしい。
この世界に慣れるにはもう少し時間が必要なものの、せっかくならば色んなものを見ておきたい気持ちはある。
途中までは通ったことのある道を進み、曲がってからは初めて通る場所だった。
人通りはまばらで治安が悪そうな様子は見られない。
時折、通行人の中に屈強な男が見受けられても、こちらに絡んでくるような気配はなかった。
「ははっ、緊張していますね。この辺りは全然安全ですから、そこまで気負わなくても大丈夫です」
サリオンが愉快そうに笑い声を上げた。
そんなことを言いたくなる程度には、俺の様子がぎこちないのだろう。
特に反論するような気にならず、案内されるままに道を進む。
この辺りも食堂や商店よりも民家の方が多い。
洋館の近くもそうだが、大通りを囲むように住宅街があるような構造みたいだ。
王都全体の地図を見ることができれば、その全容を知ることができるだろう。
建築全般にそこまで興味があるわけでもないので、地図については必要があれば眺めてみようという程度の関心だ。
少しずつ王都の中心から離れたようで、反対方向にある王城が小さく見える。
古城も城になるわけだが、前に王族が住んでいたところなのだろうか。
「そういえば、定期的な見回りよりも解体した方が早いと思ったけど」
俺はおもむろにたずねた。
颯爽と歩くサリオンは前を向いたまま応じる。
「強力な魔法使いがいれば、それは可能かもしれません。しかし、解体後にがれきを運び出したり、諸々の費用だったりで現時点ではないといったところです。それに加えて王家の象徴でもあるので、国王陛下も消極的なのも大きいでしょう」
「何だか、どこかで聞いたことがある話だなー」
日本の空き家問題とか廃校になったままの校舎とか。
野外活動で行った先の田舎でそんな話を聞かされた記憶がある。
本当はバスで行くはずだったところでも、少子化やら空き家がなんちゃらと事前講習で聞かされたような気がした。
あとがき
お読み頂き、ありがとうございます。
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