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第Ⅲ章 王国の争い

元勇者パーティーの後日談その27――正義の尺度

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エリーゼは、絶叫とともに戦うアレクサンダーを見ても、なんの感慨も浮かばなかった。

だが、かつての自分ならば――。

と思う部分はあった。

人の心などとうに失ったように思っていたエリーゼに、そう思えるだけのパッションをアレクサンダーは放っていたのだ。

(多くの者は、あなたを勇者と認めないでしょうけど、……わたくしは今まで1度だってあなたの勇者としての資質を疑ったことはありませんよ)

感情は平静なまま、ただそう考えを述べる。

(多くの者は、疑問さえ持たず正義を信じる。何が正義かなどわかりもしないし、ありもしないにもかかわらず。なぜか――?)

それは、楽だからだ。

何が正義かを考えることは、非常に心に大きな重圧がかかる。そのプレッシャーは、常人には耐えがたいほどなのだ。

だから逃げる。

常人は逃げる。

ただ、人の作ったお仕着せの正義や正しさなんてものを、鵜呑みにする。まったく疑問を持たず。
ただその「正義の尺度」に当てはまれば正義で、外れれば悪だとする。
ただそれだけだ。

尺度に当てはめるだけならば、心に負担などかからない。

(それにもし、尺度が間違っていたとしてもそれは他者が悪いといえる……そう思い込んでいるんでしょうね)

「――ほんっと、ばかげたこと……」

思わず口をついて出る。

他者からのお仕着せだろうが、既存の正義の概念の流用だろうが、結局、それを使うと判断して、使用したものの責任に決まっているではないか。

なぜ他人の判断に従えば、自分に責任はないなどと思えるのだろう。

(……ふふふ……そんなこと、よーくわかってるのですけどね)

悪徳、などと名がつく宗教や商売が流行ることができ、そして衰退を人類が存在する限り絶対にしないと断言できる理由もそこにある。実際有史以来、形を変え、名前を変え、見てくれを整えたり、法律に則ったりしているが、要はやっていることは同じだ。
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