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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

新たなる課題

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 幸いドワーフたちの旺盛な食欲というか、宴会に対する意気込みが、シャフィールの初めての料理に対する意気込みを上回ったらしく、シャフィールはかなり冷静になってきていた。

「……すみません。なんだか、私、初めての料理で舞い上がっていたようです」

「いや、そんなことないよ」

「そうでしょうか? ……とりあえず、何か簡単な作業をすることにしますね」

「いや。今度は、何か切ってみたら?」

 シャフィールは、俺が切っているのをなんとなく羨望の眼差しで見ていたのだ。たぶん何か自分も切ってみたかったのだろう。
 切るという作業は、料理の中でも「料理している!」という実感が得やすい工程のような気がする。

(今の冷静なシャフィールなら自分の指とか切らないだろうしな)

 俺は包丁の持ち方から立ち方まで簡単に説明した。というか、俺もそんなに詳しくは知らない。

(最悪、危なっかしそうなら、止めればいいか)

 シャフィールは、初心者の剣術のように、手本そっくりに野菜を切っていく。

「おお……!」

 シンプルで正確。だからこそ速い。
 
 意外な飲み込みの早さを見せるシャフィールに俺は感心した。

 ニンジン、ジャガイモ、大根を思うがまま切っていく。

 かなりの量を思う存分切った後、シャフィールがふと手を止めた。

「ん? どうした?」

「あの……」

「?」

「この大量の切った野菜は、いったい何に使うんですか?」

 シャフィールの疑問は、俺の疑問であった。
 俺の方が聞きたかった。

 厨房には、山積みの野菜たちが。きっとイヌガミが見たら逃げ出すことだろう。

 厨房を覗きに来たセーレアが「シャフィールさんのエプロン姿に見惚れてるからよ」とぼそりと呟いて、「にししし……」とでも表現すべき嫌な笑いを浮かべて去っていった。

 なんでアイツは、妙なタイミングで現れるんだ。
 あと、見とれていたのは事実だが、別にエプロン姿のシャフィールではなく、器用に切るシャフィールに対してだ。

 心の中だけで訂正した後、改めて目の前の切られた野菜の山を見つめるのだった。
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