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三話

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 サイアス様の笑みを見て私は固まる。
 ……え、国外追放、嫌じゃないのかしら。
 もしかしてサイアス様も私と同じように、この国から離れたがっているの?
 家族との亀裂?でも確かサイアス様は平民上がりよね。実力でこの地位まで来た凄い方なのに、そんな簡単に国外追放を認めてしまって良いのかしら。
 私にはサイアス様の考えが読めない。

「オデット、聞いているの?オデット!……駄目だわ、放心状態になってる」

 私の手を握ったままでいる姉が、手を振って私に声をかけてくる。
 考え出すとぼーっとして周りが見えなくなるのは私の癖だけれど、どうやら今の場面では私が国外追放にショックを受けてしまっているように見えるらしい。
 私を置いて話は進んでいく。

「無理もないだろう。しかしこれも自分で蒔いた種。自業自得だ。それに一番の被害者はエリオット君だと思うしね」
「……確かにそうよね。妹だから情が湧いてしまうけれど、一番辛いのは浮気されたエリオットよね」
「いえ僕は、結婚する前に判明して良かったと思ってます。迅速に対応してくださったお二人には頭が上がりません」
「やめて、頭を下げないで。謝るのはこっちの方なのよ」
「ああ。オデット嬢と君の婚約の破棄は既に認められている。昨日のうちに書類も完成させたしな。だから君は早いうちに良い人を見つけると良い」
「お心遣いに感謝します」

 ある程度話がまとまると今度はまた私に視線が集まる。
 ぼーっと成り行きを見ていた私は、突然視線が集まったことにハッとして後ろに下がった。
 それを逃さまいと、いつのまにか後ろに控えていた両親に今度は捕まる。
 姉を溺愛する両親は、私の存在はどうでも良いものとして扱っていた。姉の言い分しか信じないので、私が怒られることなんて姉が嫁ぐまで日常茶飯事だった。
 見目麗しく理想の夫婦と名高い二人だけれど、彼らの裏の顔を知っている私からすれば悪魔でしかないと思っていた。
 目の前の両親を見てみれば、お母様は華奢な体を震わせて涙を浮かべている。その様子は姉とそっくりでやっぱり親子なのだと感じられる。
 お父様は冷めた目で、そこに軽蔑だけを込めて私を見ている。

「メアリーはこんなに立派なのに……わたくし、育て方を間違えたみたいだわ」
「お前はっ……この馬鹿者っ!」
 
 パシンッ。
 会場中に響き渡るほど大きな音が鳴った。
 殴られたと感じたのは割とすぐで、けれど一瞬の出来事に会場の時が止まったように音すらも消える。
 静寂の中で倒れて行くうちに見えたのは、動揺する大衆の中で唯一微笑みを浮かべた姉の姿。だけれども次の瞬間には「オデットっ!!」なんて悲鳴をあげている。
 気づけば私の体は床に倒れ込み、次いで右頬がヒリヒリと痛みだした。
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