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ifストーリー(クズーズの王位継承権が剥奪された場合)

第33話 王女のお願い

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 エイナについての話を家に帰ってからお父様に伝えると、お父様も初耳だった様で頭を抱えられた。

 その時に初めて知ったのだけれど、エイナは現在、仕事をしているという事だった。

 クズーズ殿下の王位継承権の剥奪が決まってから、彼の側近が全て辞めてしまった。
 皆、王太子相手だから何かと我慢はしていたけれど、王太子にならない王子なら側近である必要がないと切り捨てたようだった。
 すぐに側近の募集をかけたけれど、なってくれる優秀な人物がおらず、将来の妻であるエイナが補佐をする事になった。
 その命令を下したのは国王陛下で、アレク殿下に言わせると、クズーズ殿下には大切な仕事を任せるつもりはないらしく、かといって仕事をまわさなければ文句が出る事がわかっているので、エイナが補佐だから仕事をまわせないという言い訳を他の官僚達に与えるようにする為らしい。

 クズーズ殿下を追い出したりしないのは、やはり王妃陛下の意見が強いようだった。
 
 私がその事について何も知らなかったのは、エイナが私には言わないでほしいと、お父様達にお願いしたらしい。
 見習いという事が恥ずかしいのかもしれない。
 誰だって最初はそうなんだから、別におかしい事でもないのにね。

 クズーズ殿下の方にも一応、お願いという形で、セルディス殿下と関わりのあるような仕事をエイナに任せないようにしてほしいとお父様は連絡を入れた。

 エイナにお願いしても意味がない事はよくわかった。
 セルディス殿下の所に行くなといっても「私が行きたいんだから行く」と言い出すのでどうしようもない。
 最終的にはセルディス殿下が帰るまで、エイナの仕事を私が代理でやる事にして、エイナを部屋から出さないようにしなければいけないという事を家族で話し合って決めた。

 姉妹だからって、全てに責任を取ってはいられない。
 もう私達は大人なんだから、善悪の区別は自分で判断しないといけないはずよ。
 
 これ以上、エイナに私の人生を邪魔されたくない。
 エイナが結婚するか私が結婚したら、近くに住む事になるとはいえ、彼女とは出来るだけ関わらない様にしないと。
 エイナに言い聞かせようとしたって無理だわ。

「エリナ嬢、どうした?」

 セルディス殿下が施設の責任者と話をしている間、少し離れた場所でエイナの事を考えていたら、いつの間にか話が終わっていた様で、セルディス殿下が目の前に立っていた。

「も、申し訳ございませんでした。他に考え事をしておりました」
「気にしなくていい。体調が悪いとかではないんだね?」
「もちろんでございます」
「ならいいよ」

 セルディス殿下は爽やかな笑みを見せてくれた。
 城のメイド達に話を聞いたけれど、セルディス殿下は本当に絵本から出てきた王子様かと思うくらいに優しく気遣いのできる爽やかな王子様なのだそう。
 
 だから、エイナが好き勝手しても怒らずに笑顔で対応してくれていたそうだった。

 ただ、それがセルディス殿下の懐の深さだという事にエイナが気付くはずもなかった。
 自分だから優しくしてくれていると思い込んでいた。

 そんなセルディス殿下の滞在期間が残り少なくなってきた頃、アレク殿下から呼び出された。

 通された部屋にはアレク殿下だけでなくセルディス殿下もいて、2人が並ぶとなぜかその周りがキラキラしているように見えて直視できなかった。

 もちろん、好みもあるだろうけれど、2人共、顔が整っているから私にしてみれば眩しすぎるのよね。

 なので、目を伏せてカーテシーをした後は2人の真正面に座るのではなく、少し座る場所をずらして向かいのソファーに腰を下ろした。
 すると、セルディス殿下が口を開く。

「私がいたからびっくりしたろう? すまないね。僕から直接話をしたくてアレク殿下にお願いしたんだ」
「とんでもございません。ですが、私に何か御用でしょうか?」
「実はね、妹のミシャがこの国に来たいと言っているんだ」
「ミシャ王女が…」

 呟く様に聞き返すと、アレク殿下が説明してくれる。

「俺や兄上も昔はセルディス殿下の様に各国をまわっていた時期があったんだが、その時にはセルディス殿下にはよくしてもらったし、ミシャ王女にも会った事があるんだ。セルディス殿下がこちらに来られている事を知って、それで久しぶりに俺達にも会いたいと仰ってくれているみたいだ」
「それはぜひ歓待しなくてはいけませんね」

 どうやら各国の王子は友好国をまわって、その土地土地の事を知る事がしきたりになっているみたいだった。

 ミシャ王女はセルディス殿下よりも10歳も年下で、現在は9歳。
 
 ミシャ王女の滞在中の話し相手として同じ女性が良いだろうという事になり、セルディス殿下の推薦もあって私に白羽の矢が立ったらしく、そのお願いの為にアレク殿下から呼ばれ、それを聞いたセルディス殿下が同席を望まれたという事だった。
 もちろん、ミシャ王女もメイドや侍女は一緒に連れてこられるので身の回りの世話というよりかは、セルディス殿下がお相手できない時間帯のお相手をする事になる。

 アレク殿下から伝えられたのだけれど、王妃陛下曰く、これも王妃教育の1つらしい。
 
 賓客をお迎えするのと同じ事だから、そう言われればそうだと思うし嫌だとも思わない。
 何よりも私が断って、エイナにその役目をやらせるという事になる方がよっぽど嫌だと思った。

 まあ、さすがにエイナに頼みはしないと思うけれど。

 何にしても断るという選択肢はないわ。

「謹んでお受けいたします」
 
 そう言って、深々と頭を下げた。  




 
 数日後、ミシャ王女が入国され、セルディス殿下から紹介してもらう事になった。
 ミシャ王女は亜麻色のゆるいウェーブのかかった長い髪に青色のパッチリとした瞳がとてもチャーミングな恥ずかしがり屋の少女だった。

 人見知りではあるけれど、人が嫌いなわけではなく、最初は目を合わせてくれなかったけれど、1時間程話をすると、私に興味を持ってくれたのか、笑顔をみせてくれる様になった。

「ねえ、エリナ。エリナはわたしのことをミシャって呼んでもいいわよ。わたしの事をミシャって呼んでいいのは、お友達と家族と私の身の回りをしてくれている使用人だけなのよ? 皆には第一王女って呼ばせてるの。だから、エリナは特別よ!」
「まあ! そんな事を言っていただけるなんて嬉しいです。ではミシャ様と呼ばせていただきますね」
「駄目よ、ミシャでいいの! 様はいらないわ!」
「申し訳ございません。そんな呼び方をしてしまいますと、エリナが他の方から怒られてしまいます」
「つまんないー!」

 ミシャ様は頬を膨らませたけれど、好物だというイチゴのケーキを用意すると、機嫌を損ねた事などすぐに忘れてしまった。

 夕方、私がセルディス殿下とバトンタッチする頃には「エリナ、また明日も来る?」なんて、可愛らしい事を言ってくれた。

 私にとってエイナという妹はいるけれど、可愛いという気持ちを持った事はなかったから、とても新鮮だった。

 久しぶりに温かな気持ちになって帰途についたけれど、食事の席でエイナに出会い、幸せな気持ちは霧消した。

「ねえ、エリナ。お願いだからセルディス殿下に会わせて! それが無理ならミシャ王女でもいいわ!」

 エイナは現在はセルディス殿下が滞在してらっしゃる別宮には足を踏み入れる事が出来ないので、彼の顔を見る事も出来ない。
 だから、そんな事を顔を合わせた夕食時に話しかけてきた。

「無理よ。ミシャ様はシャイで人見知りなの。あなたの様なタイプは特に苦手だと思うわ」
「そんな事はわからないじゃない。エリナが大丈夫だったなら私だって大丈夫よ! だから、とにかく会わせてよ!」
「無理だって言っているでしょう!」
「どうしてそんな意地悪な事を言うのよ!」
「いいかげんにしろ! エイナ、頼むから大人しくしておいてくれ。これ以上、人に迷惑をかけるような事はするな」

 お父様に叱られ、エイナは頬を膨らませた。
 
 エイナの一件でお父様もお母様も一気に老けてしまわれた。
 私だってたまに胃から食道まで物があがってきて、喉が詰まりそうになる事があるのに、どうして張本人のエイナは平気なのかしら。

 今までの事を思い返すとキリキリ胃が痛み始めて、食事をする気もなくなり、私は席を立った。

 それから2日後にはミシャ様は、セルディス殿下がお相手出来る時間帯でも私をご指名してくれる様になった。

 ミシャ様は元々、セルディス殿下に会いに来たはずだったけれど、夜に一緒に寝たりしてもらえるから、昼間はもうすぐ会えなくなる私と遊びたいと言ってくれた。

 今日も城の中庭のガゼボで、ミシャ様は大好物のケーキを食べながら、私に話しかけてくる。

「お兄様ったらわたしを子供扱いするのよ。ミシャには婚約者もいるし、心は立派な大人なのに」 
「セルディス殿下はミシャ様が可愛くてしょうがないんだと思いますわ」
「そうかしら?」
「そうですよ。そうでなければ、エリナはミシャ様に出会えませんでしたもの」
「どうして? お兄様がわたしを嫌いだったら、わたしをこの国に呼んでくれなかったって事?」

 不思議そうに聞いてくるミシャ様に答える。

「そうではなく、ミシャ様のお相手をエリナに任せてくださらなかったと思いますわ」
「そうなの?」

 頬に白いクリームをつけて、ミシャ様は首を傾げた。
 「失礼します」と一声かけてから、クリームをハンカチで拭ってから答える。

「ええ。これでもエリナは公爵令嬢でアレク殿下の婚約者ですから、とても大事なお客様のお相手しかできないんです」
「じゃあ、わたしは大事なお客様なの?」
「ええ。大事なお客様ですが、それだけではエリナ以外が選ばれていたかもしれません。今回は、セルディス殿下がミシャ様の事を大好きだからエリナに頼んで下さいましたのよ?」
「そっかぁ」

 ミシャ様は嬉しそうに笑った後、ケーキを食べ終え、好物のジュースを飲んでご満悦になり、セルディス殿下や殿下の婚約者、そしてミシャ様の婚約者の話をしてくれた。
 そしてそのついでなのかもしれないけれど、私の家族についても聞いてきた。

「エリナには双子の妹がいるんでしょう? どんな人なの? エリナにそっくり?」
「双子ですがあまり似ていません。性格もミシャ様は苦手なタイプだと思いますよ」
「そっかぁ。でも、さよならする日には会えるわよね?」

 ミシャ様はセルディス殿下がここを立たれる際に、彼女を送る為に一緒に国に戻る事になっていて、セルディス殿下とミシャ様の送別のパーティーを簡易だけれど開く事になっている。

 正直、エイナを呼ぶつもりはなかったんだけれど…。

「申し訳ございません、ミシャ様。エリナと妹は仲が良くないんです。ですから、彼女が来るのなら私はパーティーに出席出来ません」
「そんなの駄目よ! ねぇ、お願いエリナ。一度だけ会わせて? お願いっ!」
「ミシャ様。申し訳ございませんが、王家主催のパーティーですから、私ではお返事いたしかねます」
「わかったわ! お兄様に頼んでみる! だって、お兄様、エリナの妹の事、あまり好きじゃないみたいだったもの! 安心して、エリナ! わたしがいなくなる前に悪い奴は倒してあげるからね! そうしたら、エリナも幸せよね!?」

 もしかすると、セルディス殿下の微妙な口調からエイナがあまり良くない人間だと感じ取ったのかもしれない。

 送別のパーティーはセルディス殿下のものと合同にするから、エイナを呼ぶか呼ばないかはセルディス殿下の意見も関わってくる。

 セルディス殿下はミシャ様のお願いを承諾しそうな気がした。

 だって、ミシャ様が何かを企んでいるようだったから。

 そして、私が思った通りエイナの出席をセルディス殿下が許可されたという報告が入り、それと同時に彼の婚約者がそのパーティーに出席する事も教えられた。
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