29 / 31
第三章 運命の勇者
第二十九話 特別講義
しおりを挟む
魔神に復讐する、という大きな目標ができたわけだが、まずはこの旅の本来の目的である「勇者を探す」を達成しなければならない。ノヴァプトの町での調査はこれにて終了、といきたかったのだけれど――。
「お願いします。盗賊退治を手伝ってください!」
なぜこうなったのかというと。
昨晩、夕飯に立ち寄った店で出会った『魔剣鑑学園』の学生、アオ・ブラックが事の発端である。学園で「あのアズボンド・ナンバーに出会った」と方々で言って周った結果、学園長がアズボンドに対し「特別講師として授業をしてくれないか」と直々に宿屋まで言いに来たのだ。
最初は断ったアズボンドだったが、学園長の勢いに押され、渋々承諾した。
「良ければお連れ様も……」と、何故か僕も学園に赴くことになってしまった。どちらかといえばアズボンドの方がお連れ様なんだけどな。
「改めまして、学園長のレオナルド・フィンレッジです。この度は我が学園にようこそお越し下さいました」
「あの、私は授業をしたことが無いのですが、どのように接すれば……」
アズボンドも若干緊張気味のようだ。それもそのはず、学園に着いた途端「全校生徒の前で講義を行なってもらう」などと言われたのだから。アズボンドも僕も、せいぜい三〇人くらいの教室でやるものだと思っていたから嫌なサプライズになった。
「今回は学生の質問に、率直に答えていただくだけで結構です」
「だけ、って……」
アズボンドには才能があったが、「自分のこと」と「他人に教える」というのは近いようで全く別の行為なのだ。その点、学園長は呑気に「大丈夫、大丈夫」と終始にこやかだった。
「ええっと……わ、私の名前はアズボンド・ナンバーです。今日は特別講師として皆さんの率直な疑問にお答えしていこうと思います」
総勢八百名の生徒たちが目を輝かせてアズボンドを見つめている。僕はその視線の外側にポツンと佇むばかり。「僕、必要?」なんて感情はとうに消えていた。
「鑑定士として大切なことは何ですか?」
緊張気味のアズボンドに一つ目の質問が飛んだ。ありきたりだが、核心に近い。
アズボンドは拡声器《アーティファクト》を握り、質問をした生徒に顔を向ける。
「鑑定スキルを持つ者はこの世界に少なからず存在している。その中で『鑑定士』という職を選ぶものはかなり少ない。それは何故か、この世には現実味のない鉱石やアーティファクトを創り出す者が存在しているからだ」
熱く応えるアズボンドに会場の空気が一気に締まった。
しかし、なんで「創り出す」と言ったタイミングで僕を見るのかなあ。アズボンドの講義なのだから僕を巻き込まないでほしい。
「それが事実だとして、鑑定士が少ないことと関係があるのですか?」
「良い質問だ」
いかにも優等生といった少女が追って質問を投げかけると、アズボンドは唸るように彼女を指差した。
「伝説上の鉱石、例えば『賢者の石』がここにあったとしよう。君はその鉱石を鑑定し、賢者の石だと認識できるかい?」
「……それに違《たが》わぬ証拠が見えれば」
「本当にそうだろうか?」
アズボンドはどこから出したのか、石ころを右手に掲げると、こちらを見て何かを訴え始めた。何をしたいのかは察するが、とてもこんなところで起源術は使えない。恐らくは賢者の石を今ここで創造しろって言いたいのだろう。僕は両手で小さくバツをつくり、アズボンドを困らせてやった。
すると彼は意外にも「仕方がない」と引き下がった。
何か裏がありそうで怖いが……。
「もし君がこの石を鑑定したとする。これが賢者の石ではないと自信を持って答えられるかい?」
「はい。あくまでも伝説上の鉱石であり、現実には絶対に存在しないからです」
あ、やったなコイツ。
アズボンドの右手に掲げられたこの石ころ。確かに今はただの石ころなのだけど、これは僕がエルを蘇らせた時に使った賢者の石……の残り粕。
「君の意見。それこそ鑑定士が少ない原因なんだ。私が言いたいのは、正確に鑑定できる能力があるのに、それを『現実的でないから』などという偏見によってその目を塞いでしまっている者が多いということだ」
少女は悔しそうに唇を噛む。
生徒たち、教師たちもまたアズボンドの言葉を半信半疑の様子で聞く。静まり返った会場で、突然ある生徒が大声を出した。
「な、な、貴方は何者なのですか?!」
ええ、はい。
完全に僕の方を見ています。
どうやらステータスを鑑定されたようだ。確かに先ほどから何度か魔力の流れを感じていたけど、まさか自分だとは思わなんだ。
っていうか、プライベートは無いんか、この覗き魔め!
*****
<シント・レーブル>
レベル:5
腕力:50
器用:150,540
頑丈:51
俊敏:42
魔力:121(-0)
知力:70
運:60
スキル:禁忌Lv.10、起源術Lv.9
*****
「このステータスは異常です! とても人間とは思えない……」
僕の身体中を次から次へ魔力が通り過ぎていく。八百名全員が鑑定できるとは思えないけど、結構な数の生徒に僕の異常さがバレてしまった。
「起源術など伝説でしか聞いたことがない!」
「創造神、でも禁忌レベルがカンストとは……」
「まさか、あの石も本当に……」
これ以上、生徒たちの混乱を大きくするわけにもいかない。
ということで、アズボンド・ナンバーの特別講義は質問ひとつでお開きとなったのだった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
この作品が面白いと感じたら、お気に入り登録していただけると励みになります!
「お願いします。盗賊退治を手伝ってください!」
なぜこうなったのかというと。
昨晩、夕飯に立ち寄った店で出会った『魔剣鑑学園』の学生、アオ・ブラックが事の発端である。学園で「あのアズボンド・ナンバーに出会った」と方々で言って周った結果、学園長がアズボンドに対し「特別講師として授業をしてくれないか」と直々に宿屋まで言いに来たのだ。
最初は断ったアズボンドだったが、学園長の勢いに押され、渋々承諾した。
「良ければお連れ様も……」と、何故か僕も学園に赴くことになってしまった。どちらかといえばアズボンドの方がお連れ様なんだけどな。
「改めまして、学園長のレオナルド・フィンレッジです。この度は我が学園にようこそお越し下さいました」
「あの、私は授業をしたことが無いのですが、どのように接すれば……」
アズボンドも若干緊張気味のようだ。それもそのはず、学園に着いた途端「全校生徒の前で講義を行なってもらう」などと言われたのだから。アズボンドも僕も、せいぜい三〇人くらいの教室でやるものだと思っていたから嫌なサプライズになった。
「今回は学生の質問に、率直に答えていただくだけで結構です」
「だけ、って……」
アズボンドには才能があったが、「自分のこと」と「他人に教える」というのは近いようで全く別の行為なのだ。その点、学園長は呑気に「大丈夫、大丈夫」と終始にこやかだった。
「ええっと……わ、私の名前はアズボンド・ナンバーです。今日は特別講師として皆さんの率直な疑問にお答えしていこうと思います」
総勢八百名の生徒たちが目を輝かせてアズボンドを見つめている。僕はその視線の外側にポツンと佇むばかり。「僕、必要?」なんて感情はとうに消えていた。
「鑑定士として大切なことは何ですか?」
緊張気味のアズボンドに一つ目の質問が飛んだ。ありきたりだが、核心に近い。
アズボンドは拡声器《アーティファクト》を握り、質問をした生徒に顔を向ける。
「鑑定スキルを持つ者はこの世界に少なからず存在している。その中で『鑑定士』という職を選ぶものはかなり少ない。それは何故か、この世には現実味のない鉱石やアーティファクトを創り出す者が存在しているからだ」
熱く応えるアズボンドに会場の空気が一気に締まった。
しかし、なんで「創り出す」と言ったタイミングで僕を見るのかなあ。アズボンドの講義なのだから僕を巻き込まないでほしい。
「それが事実だとして、鑑定士が少ないことと関係があるのですか?」
「良い質問だ」
いかにも優等生といった少女が追って質問を投げかけると、アズボンドは唸るように彼女を指差した。
「伝説上の鉱石、例えば『賢者の石』がここにあったとしよう。君はその鉱石を鑑定し、賢者の石だと認識できるかい?」
「……それに違《たが》わぬ証拠が見えれば」
「本当にそうだろうか?」
アズボンドはどこから出したのか、石ころを右手に掲げると、こちらを見て何かを訴え始めた。何をしたいのかは察するが、とてもこんなところで起源術は使えない。恐らくは賢者の石を今ここで創造しろって言いたいのだろう。僕は両手で小さくバツをつくり、アズボンドを困らせてやった。
すると彼は意外にも「仕方がない」と引き下がった。
何か裏がありそうで怖いが……。
「もし君がこの石を鑑定したとする。これが賢者の石ではないと自信を持って答えられるかい?」
「はい。あくまでも伝説上の鉱石であり、現実には絶対に存在しないからです」
あ、やったなコイツ。
アズボンドの右手に掲げられたこの石ころ。確かに今はただの石ころなのだけど、これは僕がエルを蘇らせた時に使った賢者の石……の残り粕。
「君の意見。それこそ鑑定士が少ない原因なんだ。私が言いたいのは、正確に鑑定できる能力があるのに、それを『現実的でないから』などという偏見によってその目を塞いでしまっている者が多いということだ」
少女は悔しそうに唇を噛む。
生徒たち、教師たちもまたアズボンドの言葉を半信半疑の様子で聞く。静まり返った会場で、突然ある生徒が大声を出した。
「な、な、貴方は何者なのですか?!」
ええ、はい。
完全に僕の方を見ています。
どうやらステータスを鑑定されたようだ。確かに先ほどから何度か魔力の流れを感じていたけど、まさか自分だとは思わなんだ。
っていうか、プライベートは無いんか、この覗き魔め!
*****
<シント・レーブル>
レベル:5
腕力:50
器用:150,540
頑丈:51
俊敏:42
魔力:121(-0)
知力:70
運:60
スキル:禁忌Lv.10、起源術Lv.9
*****
「このステータスは異常です! とても人間とは思えない……」
僕の身体中を次から次へ魔力が通り過ぎていく。八百名全員が鑑定できるとは思えないけど、結構な数の生徒に僕の異常さがバレてしまった。
「起源術など伝説でしか聞いたことがない!」
「創造神、でも禁忌レベルがカンストとは……」
「まさか、あの石も本当に……」
これ以上、生徒たちの混乱を大きくするわけにもいかない。
ということで、アズボンド・ナンバーの特別講義は質問ひとつでお開きとなったのだった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
この作品が面白いと感じたら、お気に入り登録していただけると励みになります!
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
76
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる