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27.石の力

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「ワレ、大丈夫!?」

 よろよろと飛んできたワレは、そのまま僕の手の中に落ちてきた。
 ボロボロの姿から、ワレもヒギルマと一緒に戦っていたのだと知る。
 こんな小さな体で無茶をするなんて。
 まだ吐き気はしていたが、そんな事を気にしている暇なんか無い。
 この状況を何とかしないと。
 そんな事を考えていたら、ワレが大きな口をカパリと開けた。

「石……持ってきたの?」

 そこには様々な色の石が詰め込まれており、僕に受け取れと言っているかのように見せつけてくる。
 この石はマオからもらった物だ。一つ一つに名前をつけているから全部覚えてる。
 確かに大切な物だ。マオからもらった、大切な石だから。
 でも、今これを渡されても困ってしまう。
 いくら価値のある石だからって、今は何の役にも──

「──えっ」

 ワレがそのまま僕の手の中に石を出したから思わず受け取ると、石がドクンと脈打った。

「マオの石が……っ」

「違う! これ! 魔王さまの石!」

「魔王って……」

 トクリトクリと鼓動が伝わってくる。
 魔王は、僕なのか。
 そうだ、この鼓動は、僕の鼓動だ。
 あの子を助けなくてはいけない。どうすれば良いのか、僕はもう分かっている。
 トクリトクリと脈打つ度に、石が僕の一部になっていく。
 これは水の石、これは温もりの石、そしてこれは、きっと磨いたら真っ赤になるだろうから力の石と名付けた。
 一つ一つが僕に溶けて、すべて僕の力になっていく。
 不思議なのだけど、僕はそれを当然の事のように受け入れていた。

「──ワレはここに居て」

「ワレここに居る!」

 体中の血液が沸騰するように昂っているが、思考はとても冷静だった。
 壊れかけた壁から体を出し、未だ激しくぶつかり合う二人と僕は対峙する。
 マオの食いしばった口元からは血が流れ、それでも闇の威力は落とさずに魔族へ襲いかかっていた。
 魔族もマオの勢いに押されているようだが、いかんせんマオの蓄積したダメージが多く、いつまでその勢いが続くか分からない。
 それを分かってるからなのだろう。魔族は押されながらも不敵な笑みを浮かべたままだった。

「マオ、遅くなってごめん……」

 今助けるからね。
 そう思った瞬間には、もう僕はマオのそばに居た。きっとこれは風の力。

「……っ!? サク……ッ」

 突然現れた僕に驚く声が聞こえたが、僕は魔族から目を離さなかった。
 魔族を僕を見て、笑みをひそめ目を丸くする。
 しかしすぐに笑いを深め、恍惚とした瞳を僕に向けた。

「あぁ……魔王様。やはりアナタ様は素晴らしい。もうお力を取り戻されるとは──」

 マオを空に押し上げる闇に僕も乗り、魔族に向き合う。
 僕の登場で一旦二人の猛攻は止み、空に浮かんだままこちらを見ていた。
 マオは僕を引き寄せ腕に隠そうとする。
 傷だらけの姿になってまで僕を守ろうとしているのだ。
 そんなマオに、魔族は再び腕を掲げた。

「益々……アナタ様の隣に出来損ないの精霊族を置くなどあってはなりません」

 大小様々な無数の光が魔族の周りに現れる。
 一見綺麗に見える光の玉だが、悪意がこめられたそれは僕には禍々しく見えた。
 魔族の手が振り下ろされるのが、僕の目にはゆっくりに見えた。
 その手が下ろされる前に、僕はマオの腕を振り払って闇を蹴った。

「サクッ! 止めろっ、まだダメだ……っ!!」

 背後からの切羽詰まった声が僕を止めようとする。
 僕は心の中でごめんと謝り、魔族に向かって真っ直ぐ飛んで行った。
 そんな僕に無数の光が襲いかかる。
 その光は僕の体に突き刺さり切り裂いたが、不思議と死ぬ気はしなかった。魔族も、それが分かっているからこんなにも全力の猛攻を仕掛けて来るのだ。
 きっと戦闘不能にまで弱らせた後、僕を都合の良い場所に連れ去るつもりなのだろう。

「──……っ!?」

 だから、僕が目の前にまで迫ってくるのは魔族にとって予想外だったと思う。
 僕を貫く光の間をかいくぐりながら、僕は目を見開いた魔族に腕を伸ばした。
 魔族は避けようとしたが、ガクンと体が傾いただけでその場を離れる事が出来なかった。魔族の足に闇の枷がハマっていたからだ。マオの力だろう。

「ごめんなさい──」

「魔王様、なぜそこまで……っ」

 伸ばした腕で、そのまま魔族の顔面を鷲掴む。

「──僕にはマオが必要なんだ」

 そして、体に流れる膨大な力を手加減なんかせずに一気に放つ。
 キン────……、と。
 薄いグラスを弾いたような澄んだ音が響き、まばたきのうちに霧が広がった。
 そして静まり返った世界に闇の靄が弾け、空に光と闇の粒子が飛び散った。
 晴れた視界に、魔族は居なかった。

「……サクッ!」

 脅威は去った。
 そう気を抜いた体は簡単に落ちていく。
 たぶん落ちたぐらいじゃ死なないけれど、それでもマオが腕を伸ばして受け止めてくれた。
 そのまま闇を鎮めて地面へと二人で戻っていく。

「サク……無茶し過ぎだ……」

「ごめ……」

 僕をゆっくり地面に下ろしたマオから弱々しい声で言われて、僕も弱々しい声で返した。
 頭は割れそうだし、体は燃えているように熱いし、もうこのまま寝てしまいたい。
 マオが「まだダメだ」と言った意味が少しだけ分かった気がした。
 きっと僕は、体に力が馴染まないうちに無茶をしてしまったんだろう。
 心配かけてごめん。そうもう一度マオに謝ろうとした時だった。

「──マオッ!?」

 マオの目が伏せられた、と思ったら、マオの口から多量の血が流れたのだ。
 それだけではない。腕から、足から、体から、ジワリと滲む赤い液体。
 そして体は傾き、マオは地面に倒れてしまった。
     
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