【3話短編】設楽ケ原の後〜櫛と竹トンボと赤い空〜


天正3年5月21日、長篠・設楽ヶ原。

真田信綱・昌輝兄弟は、武田最強の赤備えを率いて織田の鉄砲三千挺の前に散った。

血に染まる赤い空の下、信濃先方衆は全滅。

武田の誇りは、潰えた。


──それでも、真田家は終わらなかった。

翌月、弟・昌幸が家督を継ぎ、9歳の信幸と6歳の弁丸の前に現れたのは、まだ2歳の五郎だった。
「父上の隠し子か!?」と大騒ぎする兄弟と、必死に否定する昌幸。
竹トンボが舞う館は、今日も賑やかだ。

そして元服を迎えたばかりの信幸は、
伯父の菩提寺で、5年ぶりに従妹・千草と再会する。

亡父の形見の櫛を手に、彼女は静かに微笑んだ。

「また来てね、信幸殿」



設楽ヶ原で失われた命の重さと、
それでも続く家族の絆と、初恋の予感。
史実の狭間に生まれた、真田家の「もう一つの物語」を、三つの短編で綴る。


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