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第10話
しおりを挟む「で?何が問題なの?」
ヒントではなく答えが欲しい私は直球でナラに訊ねた。
するとナラは少し難しい顔をして、
「『何』と上手く表現出来ないのです。
ただ、その男性とお話した後から、ジュリエッタ様の様子がおかしい…としか。
私の勘違いなら良いのですが、何だか少し思い詰めているような…」
とナラは言葉を濁した。
「思い詰めている…って言うのは穏やかではないわね。…確かその教会はジュリエッタが行った修道院の院長の血縁者が居るのよね?」
と私はジュリエッタがボランティアの許可を取りに来た時の話を思い出しながらナラに確認を取る。
「はい。院長からお手紙が来まして。
院長の遠縁に当たる方がその孤児院の院長をされているようなのですが、腰を痛めてしまったのと同時に1人の職員が辞めてしまったとの事で、とにかく人手が足りないと。
もし前侯爵の状況が許すなら、手伝ってあげてくれないかと連絡が」
とナラも私の話しを裏付けるように詳しいことを教えてくれる。
「お父様の事が心配だから、2時間だけ…そうジュリエッタは言っていたわ。たった2時間で大丈夫?って訊いたら『それ以上お父様と離れるのは嫌なの』って言ってたかしらね。
…とりあえず、その男性の素性を調べてみる事にするわ」
と私が言えば、
「私の考え過ぎなら良いのです。でも、何故か気になってしまって。上手く言葉には出来ないのですが…」
とナラは恐縮してみせた。
「いいの。教えてくれてありがとう。これからも何か分かったら教えてね。ほんの些細な事でも良いから」
と私が言えば、ナラは頭を下げて部屋を後にした。
さて…どんな話が飛び出してくるのかと思ったが…。
やはりその男性の素性が気になる所だ。
私はある者を呼び出す事にした。
「クロエ様、お呼びでしょうか?」
ナラからの報告を受けたその日の夕方、私の前に1人の男性が顔を出した。
「ごめんなさいね、忙しいのに」
彼の名前はローレンス。うちの商会で広報の仕事をしている男だ。歳は確か…28…だったかしらね。
「いえいえ。クロエ様の呼び出しであれば何を置いてでも駆けつけますよ」
という彼の胡散臭い笑顔に、
「相変わらず口は達者ね。そんな事より、そこに座って?」
と私は部屋の応接セットの椅子を手で指し示した。
「嘘じゃないですよ?私の崇拝するクロエ様の頼みとあらば…」
とペラペラ喋る彼に、
「だから、座れって言ってんの!」
と私はそれを遮って彼を座らせると私も向かい側に腰かけた。
「ローレンスに頼みがあるの」
と私が言えば、
「何なりと」
と彼はまた胡散臭い笑顔を浮かべた。
「ある男性の素性を調べて頂戴」
と言って、私は孤児院の名前とその男性の特徴を書いた紙を渡す。
「畏まりました。女王様」
と、わざとらしいぐらいに恭しくその紙を受け取ると、ローレンスはそれ以上は何も訊かずに部屋を出ていった。
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