婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第22話 視察そしてアダン倒れる

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 アダン様の診察を終え、視察の打ち合わせが終わると早速ユングミル城周辺の山や森に植わる薬草の視察が始まった。今日はユングミル城周辺だが、城に滞在中の間に出来ればこの地域一帯も調べる事になった。

「アダン様。よろしくお願いいたします」
「ジャスミン。頼りにしてる」
「はい、ありがたき幸せ……」

 アダン様とその従者が3名。そして私の計5名での視察となる。従者は盗賊や獣への対策の為、武装している。アダン様も剣を腰に携え、周囲を警戒しながら進んでいく。
 ちなみに私もアダン様から短刀を頂いて携帯している。

(何も無ければいいけど……)

 ユングミル城の裏側にある山の入口から、山の中を歩いていくと、木々の傍らに早速薬草を見つけた。

「これは……かなり珍しい薬草です」

 痛み止めとして使われるこの薬草だが、かなり珍しく、貴重な薬草だ。葉や茎では無く、根の部分を干して粉に砕いて服用するものになる。

「ジャスミン、記録よろしく。採取はしなくていいから」
「かしこまりました」

 私は手に持っていた用紙に記録を付けると、更に山の中に入っていく。
 道中、薬草としても使われるキノコなんかも見つける事が出来た。今の所外来種は特に見当たらない。

「あ」

 道なりに進んでいくと、既に齧られた痕がある赤いキノコを見つけた。この赤くて白い斑点のあるキノコは毒キノコで有名な代物である。

(だけど、誰かに齧られてる……毒キノコを食べる動物がいるって事よね)

 アダン様が従者に目配せし、従者がその赤い毒キノコな近づき調べる。

「歯型から鹿の類かもしれません」

 鹿が毒キノコを食べているという事実に、私はなぜだという疑問しか抱けない。

「なぜ食べているのでしょう?」
「ジャスミン、研究者に聞いてみようか。一応キノコ採取しといて」

 アダン様からの要望を聞き、私は齧られた毒キノコを採取して専用の袋に入れた。
 それにしても毒キノコを鹿が食べるとは、不思議な話である。

(まさか、麻薬代わりにしているとか?)

 薬師の勉強をしている時に聞いた噂だが、毒キノコを麻薬代わりにしている人間もいるのだという。また、貴族や王族の間で暗殺用として毒キノコが用いられる話は昔からよく聞く話である。
 いずれにせよ、毒キノコの話であんまり良い話を聞かないのは事実だ。

「この谷を下ろう。足元気をつけて」

 アダン様の号令で、谷を下り更に奥地へ歩を進める事となる。道は細くなり、足元にはゴロゴロと小石や角が少しだけ露出した岩がいくつも広がっている。

「あっ」

 気をつけてとアダン様から言われた矢先に、岩の角につまづいた。

「わあっ」

 身体のバランスが大きく崩れる。落ちる。と思った瞬間、アダン様が私を優しく両手で受け止めてくれた。

「大丈夫?」
「す、すみません……」
「慎重にね。ゆっくりでいいから」
「はい……」

 その後ろで、従者がひそひそと話をしているのが聞こえて来る。

「アダン様が薬師にあんなにお優しくするとは……」
「あの方、ヨージス家のご令嬢と聞いたが、本当か?」
「そういえば、妹君の結婚式に来なかったとかでちょっとした騒ぎになっていたな」
「聞こえてるよ?」

 アダン様が従者の方へと向き、にこにことした笑みを浮かべている。しかし目は笑っておらずどこか殺気すら感じられる目つきだ。

「ひいっ! 王太子殿下申し訳ありません!!」
「そういうひそひそ話はやめるように」
「ははっ」

 アダン様が従者に忠告する傍らで私は結婚式というワードが引っかかっていたのだった。ジュナの結婚式には勿論行かなかったが、それで騒ぎになるとは。

(あんな扱いしておいて、いざ来なかったら騒ぐのか)

 めんどくささを感じながらも、ゆっくりと慎重に谷を下り、平坦な場所に出る。近くには湧水があり、そこには小さな泉が広がっていた。

(綺麗……)

 その泉の周囲に、薬草が1輪生えているのを見つける。小さな葉はぎざぎざとした形でほっそりとした茎。そして白い小さな花が咲いている。

「これは……!」

 辞典でしか見た事が無い、非常に貴重な薬草だ。主に出血を止めたりする作用があって、性器からの不正出血や月のものの緩和、不妊を解消するといった女性特有の効能を持つ薬草なのだ。

「初めて見ました……!」
「そうなの?」
「はい、アダン様。辞典でしか見た事が無いです。それに、辞典には主に南部に生えていると書いてありましたので北部にあるとは……!」

 正直興奮と好奇心が抑えきれない。ぜひ採取したい所ではあるが、この薬草が非常に貴重である事を考えると辞めといた方がいいかもしれない。

「採取は辞めておきましょうか」
「そうだね、そのままにしておいた方がいいかも。葉っぱ1枚なら取っても良いと思うよ」
「はい、ありがとうございます」

 その時、一瞬だけアダン様の顔色がいつもより白く見えたのは気のせいだろうか。私は葉を1枚採取しスケッチと記録を済ませると、立ち上がってまた歩き出す。
 こうしてユングミル城の近くでの視察は終わり、城に戻った時だった。

「……っ」

 アダン様が突然、城内のエントランスホールにて倒れたのだ。
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