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13−13 宿屋の朝

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 翌朝――
 
チュンチュン……

「う…ん…‥」

鳥のさえずりでアリアドネはふと目が覚め…次の瞬間慌てて飛び起きた。

「た、大変!寝過ごしてしまったかしらっ?!」

壁に掛けられた時計は6時を示していた。
そして、ここが昨日宿泊した宿屋だと言う事に気付いたアリアドネはため息をついた。

「そうだったわ……私は今、『レビアス』王国の国王様にご挨拶に向かう為にエルウィン様達と旅をしていたのだったわ……」

 物心がついた時からずっと働いてきたアリアドネは、ついいつもの癖で朝の6時に起床してしまったのだった。

食事時間は7時だと聞いている。
まだ1時間近くは時間があるものの、すっかり目が覚めてしまっていたアリアドネは今更二度寝する気にもなれなかった。

「仕方ないわ…着替えて編み物でもすることにしましょう」

アリアドネは早速ハンガーにかけておいた服に手を伸ばした――。



 着替えも洗顔も済ませたアリアドネは長い髪を邪魔にならないように結い上げた頃‥‥…。

シュッ
シュッ

外で何やら空を切るような物音が聞こえてきたことに気付いた。

「あら……?何かしら‥‥?」

窓をカタンと開けて外を見れば、そこにはエルウィンが剣を振るっている姿が目に入った。

「エルウィン様……」

(折角なのでご挨拶に伺いましょう)

アリアドネはショールを身体に巻き付けると、階下へと降りて行った――。



****


 エルウィンは朝日を浴びながら大木の下、上着を脱いだ状態で剣の素振りをしていた。
領主でありながら、辺境伯として国の砦となって常に戦場に身を置いているエルウィンにとって、日々の訓練は欠かせないものだった。

剣技を磨き、闘気を身にまとい…敵を威圧して攻撃する。
それがエルウィンの戦い方だった。
エルウィンが城主になってからは、ただの一度も戦いで負けたことは無かった。

全てはエルウィンと…忠実な家臣たちの日々の訓練の賜物であった。


 外はまだ完全に雪解けも終わらない寒さの中、エルウィンが汗を流して剣を振るっていた時……。


パキッ!

背後で小枝を踏みしめる音が聞こえた。


「誰だっ?!」

険しい顔でエルウィンは素早く振り向きざまに剣の切っ先を相手に向け……困惑の表情を浮かべた。

何故ならそこには白い息を吐きながら驚きの表情を浮かべたアリアドネの姿があったからである。

「あっ!!す、すまない!アリアドネッ!」

エルウィンはまたしてもアリアドネに剣を向けてしまったことに慌てて謝罪した。

(俺は……またアリアドネを怖がらせてしまっただろうか?)

しかし、エルウィンの予想に反してアリアドネは笑みを浮かべると挨拶してきた。

「おはようございます、エルウィン様」

「あ?あ、ああ…おはよう」

躊躇いながらも返事をする。

(どうしたんだ…?剣を向けられたことが怖くないのか?)

「いつもこんなに朝早くから訓練をされていたのですか?」

アリアドネは剣を向けられたことを左程気にする素振りも見せず、尋ねて来た。

「まあな……。いつどこで争いが起こり、戦いに駆り出されるか分からないからな」

「そうですか…本当に大変なお役目なのですね」

白い息を吐きながらポツリと呟くアリアドネの頬は寒さの為か赤くなっている。

「アリアドネ。風邪を引くといけない」

エルウィンは木の上に掛けておいた上着を取るとアリアドネの肩に掛けた。

「え?エルウィン様……?」

驚いてエルウィンを見上げるアリアドネ。

「俺は身体を動かしているから寒くは無い。もうお前は中に入っていろ」

「は、はい…分かりました…」

アリアドネは小さく頷くと、エルウィンの大きすぎる上着を羽織ったまま宿屋の中へと戻って行った。

「……」

そんなアリアドネの後姿を黙って見送ると、エルウィンは再び剣の素振りの続きを再開した――。

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