138 / 169
(21)ふたりで一緒に暮らしたい
ヤキモチの矛先
しおりを挟む
「なぁ日和美。いい加減うちに越して来いよ」
日和美に全てを洗いざらい告白して、身体を繋げてから一ヶ月余り。
時節はじめじめと鬱陶しい日が多い、梅雨の長雨に差し掛かっていた。
信武は今、萌風もふとしての締め切りに追われている真っただ中。
別々に住んでいるがゆえに、なかなか日和美との時間が取れないことが目下のところ最大の悩みの種で。
冒頭のように同棲しようとずっと日和美に持ちかけているのだけれど、信武の恋人はなかなかに手強かった――。
***
久々に日和美が夜マンションまで来てくれて、一緒に夕飯を食べて。
当然、さぁこれからまったり・イチャイチャ・ラブラブタイムが満喫出来る!と期待していた信武だ。
なのに皿の片付けを終えるなり、日和美が「明日も仕事だから帰るね」と情ない態度を取るから。
信武はどうにも納得がいかない。
それで、玄関先。
愛車のキーを手にして靴を履いた日和美に、信武がブーブーと文句を言っている真っ最中。
とはいえ、こうなったのにはちゃんと理由があって。
食事中、日和美からさり気なく仕事の進捗状況を聞かれた信武が、「まぁまぁだ」と言葉を濁したからに他ならない。
日和美は、信武のそのセリフを「まだまだだ」と脳内変換したようなのだ。
「ねぇ信武。お仕事、まだ終わりそうな目処が経っていないんでしょう? お願いだからしっかりお仕事して? 私、新作読めるの楽しみにしてるんだから」
土間の上。
段差のせいで普段より十センチくらい余計に身長差が加わった分、いつもより角度を付けて信武を見上げてくる日和美に、不機嫌さを隠さずに口をへの字に曲げたら「そんな顔しないの」と頬を優しく撫でられた。
この一ヶ月ちょいで、すっかり信武を呼び捨てすることにも慣れたらしい日和美は、最近言葉遣いからも敬語が外れてきている。
「締め切りは破りゃしねぇよ。今までだって……それこそ記憶喪失になった時しか原稿落としたことねぇし」
「でも茉莉奈さん、最近の信武は結構締め切りギリギリでヤキモキさせられるってこぼしてたよ? 私と付き合い始めてからそんな風になったって思われたとしたら……すっごく悲しいんだけどな?」
言われて、信武は心の中で盛大に溜め息をついた。
(日和美のやつ、ここ最近俺といる時間より茉莉奈といる時間の方が長くねぇか?)
信武のいないところで、信武の担当編集であり従姉でもある土屋茉莉奈と、喫茶店でお茶をしたりレストランへランチを食べに行ったりと、かなり友好的に付き合っているらしい日和美に、信武はちょっぴり――いや、かなり――ヤキモチを妬いていたりする。
信武のマンションで原稿待ちをしていた茉莉奈を、たまたま居合わせた日和美が気に掛けてもてなしたことが、二人を懇意にしたきっかけらしいというのも、何だか自分のせいみたいで死ぬほど腹立たしいではないか。
日和美に全てを洗いざらい告白して、身体を繋げてから一ヶ月余り。
時節はじめじめと鬱陶しい日が多い、梅雨の長雨に差し掛かっていた。
信武は今、萌風もふとしての締め切りに追われている真っただ中。
別々に住んでいるがゆえに、なかなか日和美との時間が取れないことが目下のところ最大の悩みの種で。
冒頭のように同棲しようとずっと日和美に持ちかけているのだけれど、信武の恋人はなかなかに手強かった――。
***
久々に日和美が夜マンションまで来てくれて、一緒に夕飯を食べて。
当然、さぁこれからまったり・イチャイチャ・ラブラブタイムが満喫出来る!と期待していた信武だ。
なのに皿の片付けを終えるなり、日和美が「明日も仕事だから帰るね」と情ない態度を取るから。
信武はどうにも納得がいかない。
それで、玄関先。
愛車のキーを手にして靴を履いた日和美に、信武がブーブーと文句を言っている真っ最中。
とはいえ、こうなったのにはちゃんと理由があって。
食事中、日和美からさり気なく仕事の進捗状況を聞かれた信武が、「まぁまぁだ」と言葉を濁したからに他ならない。
日和美は、信武のそのセリフを「まだまだだ」と脳内変換したようなのだ。
「ねぇ信武。お仕事、まだ終わりそうな目処が経っていないんでしょう? お願いだからしっかりお仕事して? 私、新作読めるの楽しみにしてるんだから」
土間の上。
段差のせいで普段より十センチくらい余計に身長差が加わった分、いつもより角度を付けて信武を見上げてくる日和美に、不機嫌さを隠さずに口をへの字に曲げたら「そんな顔しないの」と頬を優しく撫でられた。
この一ヶ月ちょいで、すっかり信武を呼び捨てすることにも慣れたらしい日和美は、最近言葉遣いからも敬語が外れてきている。
「締め切りは破りゃしねぇよ。今までだって……それこそ記憶喪失になった時しか原稿落としたことねぇし」
「でも茉莉奈さん、最近の信武は結構締め切りギリギリでヤキモキさせられるってこぼしてたよ? 私と付き合い始めてからそんな風になったって思われたとしたら……すっごく悲しいんだけどな?」
言われて、信武は心の中で盛大に溜め息をついた。
(日和美のやつ、ここ最近俺といる時間より茉莉奈といる時間の方が長くねぇか?)
信武のいないところで、信武の担当編集であり従姉でもある土屋茉莉奈と、喫茶店でお茶をしたりレストランへランチを食べに行ったりと、かなり友好的に付き合っているらしい日和美に、信武はちょっぴり――いや、かなり――ヤキモチを妬いていたりする。
信武のマンションで原稿待ちをしていた茉莉奈を、たまたま居合わせた日和美が気に掛けてもてなしたことが、二人を懇意にしたきっかけらしいというのも、何だか自分のせいみたいで死ぬほど腹立たしいではないか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
37
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる