上 下
147 / 169
(21)ふたりで一緒に暮らしたい

ゆっくりで構わねぇから俺にも分かるように話せ

しおりを挟む
***

 何とか日和美ひなみに場所を聞いて駆けつけてみると、現場は日和美のアパートまであと数百メートルと言った場所だった。

 信武しのぶは少し広くなった路肩へハザードランプを焚いて愛車を停車すると、さっきまでの豪雨ごううが嘘みたいに止んだ、――だけどそこらじゅう水溜まりだらけの道路を足元が濡れるのもお構いなしに水を跳ね飛ばしながら日和美の車へ急いだ。

 日和美の車にたどり着くなりコンコンと窓ガラスをノックしたら、日和美が窓にしなだれかかるみたいに項垂うなだれさせていた顔をノロノロとこちらへ向けて、ドアロックを解除してくれる。

 駆けつけるまで電話を受けて五分も経っていなかったはずだ。

 だけど、日和美は呆然としたままずっと泣き続けていたんだろう。

 目を泣き腫らしてぐしゃぐしゃになっていた。


***


「……し、のぶっ」

 信武が車のフロントドアを開けてくれるなり、日和美はシートベルトを外すことも出来ないまま懸命に信武にすがり付いた。

 まだ風呂に入れていないらしいTシャツにスラックスというラフな姿の信武からは、嗅ぎ慣れた柔軟剤の香りと彼自身の体臭がふわりと香って。
 日和美の動揺しまくった心を優しく包み込んでくれる。

 信武にしがみ付いていてもなお震えの止まらない身体を、信武の大きくて温かい手がそっといたわるように撫でさすって。

「――何があった? ゆっくりで構わねぇから俺にも分かるように話せ」

 信武が静かに問い掛けてきた。

 そんな信武に応えようと、日和美は懸命に口を開いたのだけれど、出てきたのは「、っ……ぬ、が……」という意味不明な音だけで。

 ちゃんと伝わるように話したいのに、思うように言葉が出てこないことをもどかしく思った日和美だ。

 だけど要領を得ない日和美の物言いを、信武は微塵もイラついた様子を見せず「何のことか」と聞き返してくれるから。
 日和美はひくひくとしゃくりあげながら、道路上にうずくまっていた小さな犬を跳ね飛ばしてしまったかも知れない、と泣きながら途切れ途切れ。

 何とか信武に訴えた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

側妃のお仕事は終了です。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,009pt お気に入り:7,955

ラブホオーナーは愛しの彼女を溺愛したくて仕方がない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:54

私はお世話係じゃありません!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:3,908

薄幸の令嬢は幸福基準値が低すぎる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:113pt お気に入り:4,785

処理中です...