君の色で塗りつぶして
高校の美術部に入部した一年生・橘灯は、旧校舎の準備室で寡黙な三年生の部長・西條瑛と出会う。ほとんど口を利かないのに、光や風や雨粒の動きを愛でるその人の横で、灯は絵を描くことの本当の意味を少しずつ学んでいく。
「好きなものを知るほうが大事」「迷う絵がいい絵になる」「草は風の形だ」——先輩の言葉は、絵の話であるはずなのに、どこかもっと大切なものを指している気がした。夏の川へのスケッチ、梅雨の日の二人きりの準備室、初雪の日に触れた指先。灯の気持ちは、描くたびに深くなっていく廊下の絵のように、静かに積み重なっていった。
しかし先輩には夢があった。東京の美術大学へ進み、もっと大きな絵を描くこと。二月に受験、三月に合格、そして旅立ち。灯は「好きです」という言葉を、とうとう口にできないまま、先輩を見送る。
先輩のいない準備室で、灯は描き続けた。後輩に先輩の言葉を伝えながら、一人で川へスケッチに行きながら、廊下の絵を何枚も何枚も重ねながら。二年が過ぎ、三年生になった灯は自らも受験を終え、合格の春を迎える。
そして帰省した先輩と、二人きりの準備室で、灯はついに言葉にする——「先輩のことが好きでした」と。先輩の答えは「知ってた」。お互い、相手を想うあまり、言えずにいたのだと知る。
答えは出ない。距離も縮まらない。それでも先輩は言う、「同じ場所を何度も描くように、続けることで見えてくるものがある」と。春の光の中、先輩は東京へ戻り、灯は新しいページを開く。
言えなかった三年間と、言えた一瞬と、続いていく二人の物語。
「好きなものを知るほうが大事」「迷う絵がいい絵になる」「草は風の形だ」——先輩の言葉は、絵の話であるはずなのに、どこかもっと大切なものを指している気がした。夏の川へのスケッチ、梅雨の日の二人きりの準備室、初雪の日に触れた指先。灯の気持ちは、描くたびに深くなっていく廊下の絵のように、静かに積み重なっていった。
しかし先輩には夢があった。東京の美術大学へ進み、もっと大きな絵を描くこと。二月に受験、三月に合格、そして旅立ち。灯は「好きです」という言葉を、とうとう口にできないまま、先輩を見送る。
先輩のいない準備室で、灯は描き続けた。後輩に先輩の言葉を伝えながら、一人で川へスケッチに行きながら、廊下の絵を何枚も何枚も重ねながら。二年が過ぎ、三年生になった灯は自らも受験を終え、合格の春を迎える。
そして帰省した先輩と、二人きりの準備室で、灯はついに言葉にする——「先輩のことが好きでした」と。先輩の答えは「知ってた」。お互い、相手を想うあまり、言えずにいたのだと知る。
答えは出ない。距離も縮まらない。それでも先輩は言う、「同じ場所を何度も描くように、続けることで見えてくるものがある」と。春の光の中、先輩は東京へ戻り、灯は新しいページを開く。
言えなかった三年間と、言えた一瞬と、続いていく二人の物語。
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