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第一章

第40話:奏上

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神暦2492年、王国暦229年12月21日:王都・ジェネシス視点

「王太子、この奏上はどう扱いましょうか?」

「中レベル回復薬と治療薬の輸出願いか。
 商人達は耳が早いな。
 俺が低レベル素材から中レベル回復薬と治療薬を量産できる事を知ったか」

「とぼけないでください、王太子。
 王太子が情報を流されたのでしょう。
 あれほど大規模に人体実験をしておいて、口止めすらしなかったのです。
 情報が流れるのは当然でしょう」

「そう怒るな、セバスチャン。
 これで比較的安全に集められる低レベル素材の買取価格が上がる。
 これまで苦しい暮らしをしていた者達が潤うのだ」

「その分、中レベル素材の買取価格が下がります。
 それなりの生活をしていた者が少し贅沢できなくなります。
 低レベル素材の乱獲も始まってしまいます」

「その心配はいらない。
 俺個人で中レベル素材の買い支えをしている。
 中レベル素材が値崩れする事はない。
 魔境最外縁部の低レベル素材の乱獲も心配いらない。
 中レベルの回復薬や治療薬が安く出回るのだ。
 全ての冒険者が今までよりも深く魔境の中に入れるようになる」

「政策を提案する必要はありませんでしたね」

「いや、俺がいつ何を見落とすか分からない。
 これからも諫言や献策は続けてくれ。
 商人による輸出は許可するが、その時期は考えなければならない。
 ドロヘダ辺境伯とクランモリス辺境伯は十分な利益を上げたか?
 利益を上げる前なら、最初は両家に専売させたい」

「ドロヘダ辺境伯家は動かせる家臣領民が多く、交易相手も多いです。
 交易相手も豊かな国が多いと聞いています。
 問題なく利益を上げている事でしょう」

「やはりクランモリス辺境伯家の方は厳しいか?」

「はい、王太子も御存じでしょうが、クランモリス辺境伯家の交易相手はとても貧しい半島国だけです。
 宗主国の皇帝が強欲なバカでは、半島国に富が残っているとは思えません。
 王太子の与えられた素材で穀物は確保できるでしょうが、急速に豊かになるのは難しいと思われます」

「俺とセバスチャンの考えが一致するようなら期待薄だな」

「はい、何か他の策を考えられるか、クランモリス辺境伯家が潰れない程度の収入を維持できる事で満足されるかです」

「クランモリス辺境伯家のある島は、大陸からの攻撃を防ぐ大切な拠点の1つだ。
 領主がそれなりの軍事力を維持するか、直轄領にしておかなければならない」

「私も同じ考えではありますが、前提条件がございますぞ」

「領主に任せるのなら、大陸に寝返らない忠誠心の厚い者でなければいけない。
 直轄領にするなら、代官の忠誠心が大切になる。
 なにより国王と重臣が聡明で、国を纏めていなければ簡単に占領されてしまう。
 セバスチャンはそう言いたいのだろう?」

「理解されていると分かっていましたが、王太子が先ほど言われたように、諫言させていただいただけでございます」

「では、献策の方も頼む」

「はい、分かりました。
 領主に支配を任せておけば、王家や王国が腐敗していたとしても、先祖代々の島と領民を護るために命懸けで戦う事でしょう。
 しかしながら、敵がだす臣従の条件が良ければ簡単に寝返ってしまいます。
 同時に、防衛に使える兵力と軍資金は領主の収入の範囲に限られます」

「そうだな、俺も同じ考えだ。
 直轄領にした場合の問題点を教えてくれ」

「分かっているのに、私に教えてくれというのは性格がお悪いですね」

「見落としや勘違いがないか確かめないといけない。
 セバスチャンが見落としていないか勘違いしていないかも確かめないといけない」

「やれ、やれ、責任重大ですな」

「しかたのない事だ。
 自分の考えや想いを曲げずに貫いた結果だ。
 俺に関して言えば、自分の考えを通そうと思えば責任がつきまとう。
 セバスチャンに関して言えば、俺の傅役を引き受けたのが原因だ。
 絶対に逃がさないから覚悟するのだな」

「しかたがありませんね、話させていただきます。
 王家や王国の直轄領にすれば、王家か国の兵力や軍資金が使えます。
 国内の兵力や物資を投入する事ができます。
 しかしながら、ずっと島に住み続けてきた者ではないので、条件次第では簡単に降伏してしまう可能があります。
 その時代の王や大臣が愚かだと、戦力として全く機能しない可能性もあります。
 永住している者ではないので、年に数回、兵を交代してやらなければいけません。
 1番厄介なのが、古くからの住民と兵士との争いです。
 兵士が島民婦女子を乱暴するような事があれば、島民全てが敵に回ります」

 全ての貴族士族を無くして、国民皆兵にでもしなければ、貴族士族を憎まれ役にした方が統治しやすいのか?

 何をしても問題があり、憎まれ罵られる可能性がある。
 大陸からの侵略がなければこのままでもいいが、もうそんな事は望めないだろう。
 200年以上も平和が続くなんて、奇跡以外の何物でもないのだから。

「王太子、大変でございます!
 大陸でとんでもない事が起きました!」
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