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第二章

第29話:緑化

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「父上、成功です、接ぎ木に成功しました!」

 俺は父上が持ち帰ってくださった樹木を増やそうとしました。
 樹木によって好む環境が違うので、色々な場所で試しました。
 
 ブレイン男爵領、マーガデール男爵領、北砦内にある人口耕作地。
 東竜山脈3000メートル付近にある村々の耕作地。
 炎竜砂漠の砦内にある耕作地。

 試せる場所は全て試しました。

 そのままの地植えはもちろん、鉢植えも試しました。
 挿し木ができるかも試しました。
 その中で一番期待していたが接ぎ木だったのです。
 
 ブレイン男爵領とマーガデール男爵領は棚から牡丹餅のおまけです。
 俺がずっと作り出したかったのは、過酷な東竜山脈でも育つ果樹や穀物です。

 東竜山脈に自生する植物の根に接ぎ木できれば、育てられるかもしれません。
 多くの病虫害に強い新品種が生まれるかもしれないのです。
 一生を賭けても惜しくない仕事だと思っています。

 最初に試したのはナツメヤシの木です。
 前世の知識で、挿し木はできるのですが、技術的に難しいと分かっていました。
 そこで父上に、大量の種を買って来て下さいとお願いしていました。

 基本は種植えで増やす予定です。
 挿し木は、領民に鉢植えで試させる分もあります。

 成功するかどうかは分かりませんが、魔法を使うように願い祈って、鉢植えした分もあります。

 その全てを各領地で試したのです。

 接ぎ木は前もって準備していた台木を使いました。
 領民に鉢植えで試させる接ぎ木もあります。
 挿し木も、魔法を使うように願い祈って鉢植えした分もあります。

 俺が感情を抑えきれずに父上に報告したのは、領民の接ぎ木が成功したからです。
 俺の魔法に頼らなくても、ナツメヤシを接ぎ木で増やせるのです!

 ナツメヤシは我が領地に、東竜山脈の村には欠かせない果樹なのです。
 なぜなら、耐塩性にとても優れているのです。
 耕作を続けると、塩分濃度が高くなる東竜山脈の耕作地には最適なのです。

 それに、利用できる範囲がとても広いのです!

 炎竜砂漠や東竜山脈の居住地域には雨が降りませんが、葉が屋根材に使えます。
 そのまま屋根材に使う以外にも、繊維として使う事ができます。
 敷物や布はもちろん、帽子や籠、団扇などに加工できるのです。

 幹は建材や薪として使う事ができます。
 建材や薪を遠く離れた地竜森林に頼っていた村には、朗報なのです。

 種子を絞ると油が取れます。
 ナツメヤシの種子油からは、石鹸はもちろん化粧品も作れるのです。

 株の先端にある若い芽は野菜として食べられますが、収穫するとナツメヤシが死んでしまうので、よほど大量に栽培できなければ食用にはできません。

 ですが、若芽を食べなくても沢山実る果実が食べられます。
 デーツと呼ばれるとても有名な果実です。

 その美味しさと食べ方の多さは、果実の熟し度合いで十七もの呼び名がある事で理解できるでしょう。

 デーツは各種栄養が豊富でカロリーも高いので、主食できます。
 乾燥させる事で長期保存も可能です。
 甘味が強いので、嗜好品として人を幸せな気持ちにさせてくれます。

 糖度が高いので、ジュースにされるのはもちろん、シロップを蜂蜜の代わりに使う事もできます。

 お菓子の材料に使う事もできますし、糖度が高いと言う事は、発酵させてお酒にする事もできるのです。
 僕には必要ありませんが、酒好きの領民には福音でしょう。

 人間以外の家畜、駱駝、山羊・羊・牛、犬などの飼料にもできる、我が家にとっては万能の果実なのです!

 果実だけでなく、樹液も糖度が高いので、煮詰めれば砂糖が作れるのです。

 食料不足で苦労してきたマクネイア男爵家にとって、東竜山脈の可住地域にナツメヤシの森ができるのは、夢のような出来事なのです。

「ほう、これは有望だな!
 何年くらいで実が取れるようのなるのだ?」

「五年はかかると思います」

「それは楽しみだな」

「父上、ナツメヤシは五年かかりますが、このソルガムなら今年から収穫できます」

「ほう、それは楽しみだな!」

 俺は六圃輪栽式農法にソルガムを加える提案をしました。
 ソルガム、高黍は乾燥に強く、少しの水で育てる事ができます。
 根が深く倒れ難いので、風害から他の作物を守ってくれます。

 何より我が領地に適しているのは、耐塩性がある事です。
 いえ、それどころか、耕作地の塩分を吸収してくれるのです。
 計画的に六圃輪栽すれば、連作障害も塩害も防げるのです!

 ただ、俺が読んだ文献では、塩分濃度によっては出芽率が悪くなってしまいます。
 確実に出芽させて収穫量を確保し、耕作地の塩分も除去させるには、少々手間ですが、稲作のように苗床で出芽させなければいけません。

「ほう、そんな手間が必要になるのか!
 同じ作物を続けて作ると不作になるのは、農民だった奴に聞いて知っていたが、塩が取れる場所でも同じように不作になるとは知らなかった。
 流石我が息子フェルディナンドだ、神の寵愛を受けているだけの事はある!」

「俺が授かった知恵にも限界があるのです。
 神にも勘違いや間違いがあるのです」

「そうだな、神が万能でないのは、キリバス教の事で骨身に染みている」

「なので、俺達が確かめなくてはいけません」

「ディドが六圃輪栽を自分で確かめたようにか?」

「はい、その通りです」

「だったらこれまで通り、耕作に関する事は全てディドに任せる。
 既に次期後継者として家宰のヴィオよりも上位だったが、それだけでは対外的な交渉には弱いだろう」

 父上の申される通りです。
 竜軍団を引き連れての交渉なら、誰も俺に逆らわないでしょう。
 ですが常に竜軍団を引き連れては行けません。

 特に緊急の場合に、身体能力をフル稼働して遠征したら、独りでの交渉です。
 独りの時だと、八歳児は押し出しが弱すぎるのです。

「まさか、私の爵位を譲ってくださるのですか?」

「大げさに驚く事もないだろう?
 爵位を譲ると言っても、同じ男爵位が三つもあるのだ。
 たった一つの爵位を譲る訳ではない。
 それに、ブレイン男爵位とマーガデール男爵位は、ディドが実力で手に入れた。
 俺は息子の手柄を横取りするほど恥知らずではないぞ」

「そうしていただけると何かと助かります。
 そうとなると、もう一度王都に行く必要がありますね」

「また腰抜け連中を脅かすのか?」

「はい、爵位の継承だけでは時間がもったいないです。
 中には馬鹿過ぎて、都合の悪い事は直ぐに忘れてしまう奴もいます。
 もう一度恐怖を叩き込んでおいた方が良いです」

「ディドの好きにしたらいい。
 俺はここに残って運び屋に徹する。
 ディドのお陰で領地が豊かになり、子供を望む者が増えた。
 何かあった時に、医者のいる村に運んでやらないとな」

「直ぐに戻りますので、それまで妊婦や子供の事をお願いします」

「心配するな、ディドの魔法に頼らなくても、他の領地よりは妊婦も子供もそれほど死ななかったのだ。
 まあ、全部ディドが色々な事を教えてくれたお陰だがな」

「全ては神の寵愛を得られるような生き方をされた父上と母上のお陰です。
 父上と母上の子供に生まれていなかったら、これほどの魔法を神から授かる事はなかったです」

 嘘ですが、全くの嘘でもありません。
 前世の知識がある俺が、父上と母上の子供に生まれたのには、何か理由があるかもしれないのです。

 俺は前回と同じように竜軍団を率いて王都に向かいました。
 今度は違う街道を使って王都に向かいました。

 一度目の往路はウェストベリー侯爵領に向かう中央街道。
 ウェストベリー侯爵領から王都に向かう中央街道。
 王都から我が家に戻る中央街道でした。

 今回も最初は中央街道を使いますが、直ぐに東に向かいます。
 国の半ばを過ぎたあたりで東街道に合流します。
 そこから東街道を使って王都に向かいます。

 今回も通過する貴族領や王家直属の領主騎士領には事前に使者を送っています。
 事故の無いように、闘竜の餌になる家畜を用意してもらいました。
 もちろん正当な代価を払っています。

 彼らが平身低頭で俺を迎えるのは彼らが憶病なのが原因です。
 勝手に恐れて勝手に忠誠を誓うだけです。

 父上や俺が脅かして主君を鞍替えさせたわけではありません。
 そもそも、今の王に忠誠を捧げる価値はありません。

「国王陛下、俺のブレイン男爵位とマーガデール男爵位の継承を認めてください」

「みとめる、認める、認めるから直ぐに領地に戻ってくれ!」

「男爵を証明する宝剣とマントを授与してください」

「じゅよする、授与するから今直ぐに領地に戻ってくれ!」

「陛下の勅命による役目を無事に果たした父上を、陞爵してください」

「わるかった、全部余が悪かった。
 子爵にでも伯爵にでも陞爵する。
 頼むから今直ぐ領地に戻ってくれ、お願いだ!」
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