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一線を引く理由
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「それで、ラフォン侯爵令嬢とはどうなってるの?」
用件が済んだところで早速ヒューゴがそれを話題にした。どうやら好奇心が抑えられないらしい。
「どうともなっていない」
「そうなの?でも帳簿を任せるほど信頼しているんでしょ?」
「な…」
それの事を知っているのはマリアとダニエルくらいだった筈。どうしてその事を…と思ったら、マリアちゃんに聞いたんだよ~とあっさり答えた。彼女は彼のギルドから紹介されたし、マリアは常々うちを紹介してくれたヒューゴに感謝しているのだと言っていたが…マリア、店の情報を漏らすのはダメだろう…
「あれは…時間がなかったからだ」
「そう?でもその後もでしょ?帳簿を全部任せるなんて相当だよ?」
確かに商会では帳簿を任せるのは№2と見なすのと同義語だ。だが…
「全部任せたつもりはない。マリアにはわからないところがあれば彼女に聞くよう言ったが…」
「あ~マリアちゃんなら、それ、丸投げしていいと受け取るだろうねぇ」
そう言われるとぐうの音も出なかった。確かにマリアはそういう性格だし、自分も忙しくて正確に仕事をこなす彼女に頼っているのは否めないが…
「仕方ないだろう…マリアは、思った以上に数字に弱かったんだ…」
そう、事務員には帳簿も出来る者を、と彼に頼んでいたのだ。
「ごめんごめん、そこは悪いと思ってるって。じゃ、別の子派遣する?」
「今更だろう、既に直接雇用にしているんだ。それにマリアの仕事ぶりは帳簿を除けば文句はない」
「やっぱりリシャールに預けて正解だったよ」
しれっとそう言うヒューゴだが、本当にマリアに不満があるわけではないのだ。店の客も増えた今、もう一人事務員を雇う時期なのかもしれない。
「で、ラフォン嬢は?真面目でよく働くいい子だってマリアちゃんが絶賛していたけど?」
「確かに仕事ぶりは群を抜いている」
「ふ~ん、彼女にだけ一線引いてるって話だけど…そんなに気に入った?」
「…何でそうなる…」
「だって、マリアちゃんが言ってたぞ、あの子にだけ態度が違うって。あれ、もしかして自覚ない?」」
「期待させないためだ。他意はない」
そう、彼女に必要以上に期待させないためで、それ以上でもそれ以下でもない。ふと、指が触れたあの時の姿が思い出された。それだけの事で耳まで真っ赤になって硬直したのには驚いたが、あの時、どこかで危険だと警鐘が鳴った気がしたのだ。
「どこが不満なのかなぁ。可愛いし性格もいいみたいだし仕事も出来る。そりゃあ、利権が絡むだけに危険なのは間違いないけど、そこは侯爵家が守ってくれるんじゃない?」
「あの侯爵がか?生き残れなければそれまでと思っていそうだが…」
「あ~まぁ、確かに、ね」
そう、確かに婚約者になれば侯爵家が守ってくれるかもしれない。一方であの侯爵の事だ、自分の身を守れなければそれまで…と、試験感覚で傍観を決め込む可能性もある。それで被害に遭うのが自分一人ならいいが、家族や従業員まで巻き込まれたんじゃ洒落にならない。
「…確かにねぇ。そう言えばバルト公爵家の息子もご執心だって噂だからなぁ」
よりにもよってあのバルト公爵家とは…やはりこの話はリスクがあり過ぎる。そう確信した。
用件が済んだところで早速ヒューゴがそれを話題にした。どうやら好奇心が抑えられないらしい。
「どうともなっていない」
「そうなの?でも帳簿を任せるほど信頼しているんでしょ?」
「な…」
それの事を知っているのはマリアとダニエルくらいだった筈。どうしてその事を…と思ったら、マリアちゃんに聞いたんだよ~とあっさり答えた。彼女は彼のギルドから紹介されたし、マリアは常々うちを紹介してくれたヒューゴに感謝しているのだと言っていたが…マリア、店の情報を漏らすのはダメだろう…
「あれは…時間がなかったからだ」
「そう?でもその後もでしょ?帳簿を全部任せるなんて相当だよ?」
確かに商会では帳簿を任せるのは№2と見なすのと同義語だ。だが…
「全部任せたつもりはない。マリアにはわからないところがあれば彼女に聞くよう言ったが…」
「あ~マリアちゃんなら、それ、丸投げしていいと受け取るだろうねぇ」
そう言われるとぐうの音も出なかった。確かにマリアはそういう性格だし、自分も忙しくて正確に仕事をこなす彼女に頼っているのは否めないが…
「仕方ないだろう…マリアは、思った以上に数字に弱かったんだ…」
そう、事務員には帳簿も出来る者を、と彼に頼んでいたのだ。
「ごめんごめん、そこは悪いと思ってるって。じゃ、別の子派遣する?」
「今更だろう、既に直接雇用にしているんだ。それにマリアの仕事ぶりは帳簿を除けば文句はない」
「やっぱりリシャールに預けて正解だったよ」
しれっとそう言うヒューゴだが、本当にマリアに不満があるわけではないのだ。店の客も増えた今、もう一人事務員を雇う時期なのかもしれない。
「で、ラフォン嬢は?真面目でよく働くいい子だってマリアちゃんが絶賛していたけど?」
「確かに仕事ぶりは群を抜いている」
「ふ~ん、彼女にだけ一線引いてるって話だけど…そんなに気に入った?」
「…何でそうなる…」
「だって、マリアちゃんが言ってたぞ、あの子にだけ態度が違うって。あれ、もしかして自覚ない?」」
「期待させないためだ。他意はない」
そう、彼女に必要以上に期待させないためで、それ以上でもそれ以下でもない。ふと、指が触れたあの時の姿が思い出された。それだけの事で耳まで真っ赤になって硬直したのには驚いたが、あの時、どこかで危険だと警鐘が鳴った気がしたのだ。
「どこが不満なのかなぁ。可愛いし性格もいいみたいだし仕事も出来る。そりゃあ、利権が絡むだけに危険なのは間違いないけど、そこは侯爵家が守ってくれるんじゃない?」
「あの侯爵がか?生き残れなければそれまでと思っていそうだが…」
「あ~まぁ、確かに、ね」
そう、確かに婚約者になれば侯爵家が守ってくれるかもしれない。一方であの侯爵の事だ、自分の身を守れなければそれまで…と、試験感覚で傍観を決め込む可能性もある。それで被害に遭うのが自分一人ならいいが、家族や従業員まで巻き込まれたんじゃ洒落にならない。
「…確かにねぇ。そう言えばバルト公爵家の息子もご執心だって噂だからなぁ」
よりにもよってあのバルト公爵家とは…やはりこの話はリスクがあり過ぎる。そう確信した。
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