義妹に『醜悪な野獣』と言われる『辺境伯様』への嫁入りを押し付けられました。真実の姿を知ってから代わってくれと言われても、もう遅いです！

【義妹ＳＩＤＥ】魔女はウィリアム家に様々な呪をかけていきます

「ぐすっ……ぐすぐすんっ！」

「ううっ……あんまりよっ！　なんてこんなことにっ！　こんな醜い姿、死んだほうがマシよ」

「本当にそうですわっ！　お母様」

「そうですか？　だったら今すぐ殺してあげますよ」

　魔女は豚人となったガーベラとローズに向かって言い放つ。手には魔力が込められていた。無論本気である。

「「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい！」」

　親子二人は悲鳴をあげる。

「こ、殺さないでくださいませ！」

「ええ！　殺さないで！」

「心配しないでも。私の手となり足となり、ちゃんと奉仕してその働きっぷりが認められれば呪いを解いてあげるわよ」

「くっ！」

　ガーベラは夢にも思わなかった。今まで散々他人を奉仕させてきた自分が他人に奉仕するハメになるなんて。しかもこの豚のような醜い顔のままで。

魔女から逃げようと思えば逃げれる。魔女もわざわざ追ってはこないだろう。だが、この醜い姿のまま生きるのは女として社会的に抹殺されたような気分である。

故にガーベラとローズは魔女の言いなりになるしかなかったのだ。

「わかりましたわ。魔女様。ぐすんっ」

「わかったわよ。ぐす、ぐすっ」

　ガーベラとローズは涙を流しながらも魔女に奉仕をする以外になかったのである。それ以外で豚人になった呪いを解く方法はないのだ。

「それでこれから何をするつもりなのですか？　魔女様」

　もはやウィリアムがどうこう、シャーロットがどうこう言っていられる状況になくなったガーベラは大人しく魔女の言いなりになる。仕方なしに魔女に奉仕する召使いとなる事を心に決めた。

「あのシャーロットと辺境伯であるウィリアム様をいかがされるおつもりですか？
？」

「ウィリアムの心を篭絡する事は大変よ。あいつはもう長い事私のかけた呪いに屈服しなかったのだから。決して私に篭絡せずに、長い年月、呪いが解かれる機会を待っていたのだから」

「そうなんですのね。呪いであのような姿に」

　自分が同じような呪いをかけられてなぜあのような醜い姿をしていたのか、腑に落ちた。

「やる事は簡単よ。まずはあいつらの仲を引き裂いてあげるわよ」

　魔女は水晶でウィリアムの様子を観測する。

　そこには楽し気に話しているシャーロットの姿とウィリアムの姿があった。

「この女がシャーロットね」

「ええ！　そうですわ！　この女ですわ！」

「それにウィリアム……言われた通り、呪いが解けているわね。美しい顔。なぜ私のものにならないのかしらね。ふふっ……沢山可愛がってあげるのに」

「ひいっ！」

　ガーベラはのけぞった。見た目は美しくとも、こんな恐ろしい魔女と一緒にいる事など御免であろう。些細な粗相をしただけでも、軽く爪位剝ぎそうな、そんな恐ろしさが魔女にはあった。

「この小娘……シャーロット。この娘が館にいたくなくなるような、そしてウィリアムの事が嫌いになるような、そんな素敵な呪いの魔法をかけてあげる。ふっふっふ！　あっはっはっはっはっはっはっはっはっは！」

魔女の哄笑が魔女の家に響き渡る。その様子を見て、ガーベラとローズは恐怖のあまり震えていた。

美しい顔立ちではあるが、もの凄い形相で全身から邪気を放っていたからだ。

　やはり永遠の平和や幸福など存在せずに。二人の前には苦難が立ちはだかるようであった。