婚約破棄に全力感謝

あーもんど

文字の大きさ
30 / 50
第三章

平民が消えた国 3

しおりを挟む
 ライアン殿下の『責任問題は後回し』という提案にレナード陛下は賛同し、この場で私達貴族に処罰が下されることはなかった。
 だが、平民が逃げたことで国が回らないこの状況は変わらない。
 さて、どうしたものかと頭を悩ませる私達にライアン殿下はある提案をした。

「フェガロフォス国に残った者達を身分関係なく王宮に集め、一旦ここで全員で生活するのはどうだろう?これ以上逃亡者を増やさないためにもお互いがお互いを監視し合える環境を作るのだ」

 お互いがお互いを監視.....?
 この提案に貴族達はざわめく。
 逃げようと考えていた貴族達にとって、ライアン殿下の提案は地獄の入り口にしか見えないだろう。私もその提案が可決されるのは絶対に避けたい。

「ライアン、それは良い案だな。よし!フェガロフォス国国王として命ずる。国に残っている者全員、王宮に住みお互いを監視し合え!」

 なっ....!?
 レナード陛下がライアン殿下の提案に賛成してしまった。こうなってはもうどうすることも出来ない。
 王宮に閉じ込められれば、最後だ....。
 王宮から門まで馬を走らせても二時間は掛かってしまう。二時間もあれば、逃げたことがバレてしまうだろう。

「レナード陛下、一つよろしいでしょうか?」

「うむ。発言を許そう」

 お父様!?
 発言の許しを頂いたのは紛れもなく私の父。
 一体、何を言うつもりなんでしょうか?
 私だけではなく、この場に居る貴族達全員に見守られながら父は口を開いた。

「ライアン殿下の提案はとても素晴らしいと思います。そして、その優れた案を即可決なさったレナード陛下の行動力にも感服致しました」

 ......どうしたんでしょう?いきなり、レナード陛下とライアン殿下を褒め始めましたが...?
 いつもは『愚王』とか『バカ殿下』とか言って馬鹿にしてらっしゃるのに。
 レナード陛下とライアン殿下は父の褒め言葉に『ふふん!』と誇らしげに胸を張っている。
 あれでしょうか?王宮で過ごすなら少しでも王族のご機嫌を取っておこう、みたいな...?

「そんな素晴らしいお二人が住んでいらっしゃる王宮にタダで住まわせてもらうのはこちらとしては大変心苦しい....。なので、一度領地へ戻り、貢物を用意させて頂きたいのですが....」

「ふんっ!まあ、そこまで言うなら一度領地へ戻ることを許そう。その代わり、ありったけの貢物を持って帰ってくるのだぞ」

「はい!必ず!レナード陛下の寛大なお心に感謝を...!」

 そこで私はようやく父のこの不可解な行動の真意を読み解くことが出来た。
 レナード陛下に貢物を用意したいという理由で領地へ戻り、急いで荷物をまとめて国を出る気なんだ...!
 レナード陛下やライアン殿下を褒めちぎったのは少しでも機嫌が良い状態で本題に入りたかったから。このバカ親子の場合、機嫌が良いときほど判断力が鈍る。多分、お父様はそんなバカ親子の特性を利用して...!
 さすがはお父様!
 父の真意に気づいたのはどうやら私だけだったようで他の貴族達の頭にはまだ『?』マークが浮かんでいる。
 他の貴族の皆さんにもこのことを教えて差し上げたいですが、それが出来る状況ではないので。
 私と父は再度レナード陛下とライアン殿下に頭を下げながら、出入り口である扉へと歩みを進めた。
 出口に向かう途中、バチッと婚約者であるウィル様と目が合う。
 このままこの国を去れば、恐らくもう二度とウィル様には会えない。小さい頃からの許嫁同士で仲も良く政略結婚ではあったけど、私はずっと貴方のことが大好きだった。
 でも、ごめんなさい....逃げる私をどうか許して。
 泣きそうになるのをグッと堪え、私は玉座の間を出た。
 後ろで扉が閉まる音がする。

「ごめんなさい....ウィル...」

 愛しています、心の底から。
 でも、ごめんなさい。
 愛よりも私は自分の身の安全を優先しました。

 屑で塵な私から一言だけ────....。

 私を恨みながら、この国と共に滅んでください。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

売られたケンカは高く買いましょう《完結》

アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。 それが今の私の名前です。 半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。 ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。 他社でも公開中 結構グロいであろう内容があります。 ご注意ください。 ☆構成 本章:9話 (うん、性格と口が悪い。けど理由あり) 番外編1:4話 (まあまあ残酷。一部救いあり) 番外編2:5話 (めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)

カナリア姫の婚約破棄

里見知美
恋愛
「レニー・フローレスとの婚約をここに破棄する!」 登場するや否や、拡声魔道具を使用して第三王子のフランシス・コロネルが婚約破棄の意思を声明した。 レニー・フローレスは『カナリア姫』との二つ名を持つ音楽家で有名なフローレス侯爵家の長女で、彼女自身も歌にバイオリン、ヴィオラ、ピアノにハープとさまざまな楽器を使いこなす歌姫だ。少々ふくよかではあるが、カナリア色の巻毛にけぶるような長いまつ毛、瑞々しい唇が独身男性を虜にした。鳩胸にたわわな二つの山も視線を集め、清楚な中にも女性らしさを身につけ背筋を伸ばして佇むその姿は、まさに王子妃として相応しいと誰もが思っていたのだが。 どうやら婚約者である第三王子は違ったらしい。 この婚約破棄から、国は存亡の危機に陥っていくのだが。 ※他サイトでも投稿しています。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵
恋愛
 一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。  それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。  リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。  そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。  でも、次に目を覚ました時。  どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。    二度目の人生。  今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。  一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。  そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか? ※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。  7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...