上 下
37 / 240
第四章 深まる嫌疑と求愛者

しおりを挟む
 予想外のご質問に、私は一瞬逡巡した。すると、私がお答えするより早く、アルベール様の澄んだお声が響いた。

「これは、無粋なご質問をなさる。男女が惹かれ合うのに、理屈はありますまい……。それともドニ殿下、こちらの素敵な令嬢を前にして、恋慕の情を抱かずにおれると? そのご質問自体、彼女の魅力を否定するようなものですよ?」
「――いえ、そういうわけでは……」

 殿下は、うろたえたように口をつぐまれた。私は、ハラハラしながら見守った。

(アルベール様、王子殿下に向かって、何という大胆な口の利き方……)

「とはいえ」

 アルベール様は、にっこりされた。

「ご質問にお答えしないというのも、無礼な話です。モニク嬢に惹かれた理由は、星の数ほどございますが、一例を挙げさせていただきましょう。『共感』です」
「それはまた、どういうことです?」

 ドニ殿下は、不思議そうな顔をされた。モンタギュー侯爵も、同様である。

「ご存じの通り、モニク嬢のお母上は、実のお母上ではありません。そしてそれは、私も同じ……。ちなみに巷では、私は妾腹の子と噂されているようですが、それは誤りです。私は、父母のいずれとも血が繋がっておりません。私は、みなしごでした。そんな私を引き取って育ててくださったのが、ミレー公爵夫妻なのです」

 私は、唖然としていた。アルベール様が、そんな生い立ちだったとは。そしてそれを、わざわざこの場で公言されるなんて。

(私などの、アリバイのために……)

「父母は、私によくしてくれました。ですが私は、どこかしら気を遣ってきました。同じ境遇で育ったモニク嬢は、私の気持ちをよく理解してくれたのです……」

 さすがのモンタギュー侯爵も、決まりの悪そうな顔をなさっている。ドニ殿下に至っては、焦ったご様子だった。

「アルベール殿、言いづらいことをよく仰ってくださった。もう、その辺で……」
「私にとっては、恥ずべきことでも何でもございませんので。それに、王子殿下のご質問にお答えしないというのは、失礼でしょう」

 アルベール様の横顔には、不敵な笑みすら浮かんでいた。 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役皇女の巡礼活動 ~断罪されたので世直しの旅に出ます~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:166

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,717pt お気に入り:2,366

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,116pt お気に入り:56

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:121

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:27,535pt お気に入り:11,873

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:15

処理中です...