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第四章 深まる嫌疑と求愛者

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(そうだったの……!?)

 記憶が無い以上、うかつに否定も肯定もできない。私は、慎重にお答えした。

「そうなのですか? 逢い引きの予定がバレないよう、彼の方はなるべく見ないようにしていましたので。そこまで気付きかねましたが」
「そうですか」

 ドニ殿下が、静かに頷かれる。その表情は読み取れなかった。

「怒らないで、聞いていただきたいのですが。先ほどからお話を伺うに、アルベール殿は、ずいぶん激しいご性格とお見受けしたのです。あなたとずっと一緒にいたと、あなたのアリバイを証言なさっておられるが。それは逆に言えば、彼のアリバイにもなりますよね」
「何を仰りたいんです!?」

 相手は殿下だというのに、私はカッとなるのを抑えられなかった。

「アルベール様が殺した、そう仰りたいんですの?」
「断定しているわけではありません。一つの可能性です」

 冗談じゃない、そう言おうとして、私はふと気が付いた。そもそもアルベール様は、なぜ私が倒れているあの場にいらしたのだろう。その点が、まだ不明ではないか……。

(いえ、そんなはず無いわ)

 私は、思い直した。もしアルベール様が犯人なら、わざわざ私を助けるはずが無い。私に罪をなすりつければ、それで済む話なのだから……。

 ドニ殿下は、黙り込む私をじっと見つめていらっしゃったが、やがてふっと笑われた。

「まあ、万が一彼が犯人だとしたら、気持ちもわからなくは無いですがね」
「それは、どういう……」
「僕が今、まさに同じ思いだからです。愛する女性が他の男のものになるというのは、ひどく悔しいものですね」

 殿下は、つかつかと私に近付かれると、不意に私の手を取られた。

「正直に、申し上げましょう。以前から、あなたを想っていました。バール男爵との結婚が決まられたときは残念だったけれど、諦める他ありませんでした。ですがアルベール殿とは、まだ婚約されたわけではないのでしょう? でしたら、僕にもまだ機会はありますね。考えてみていただけませんか?」
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