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第四章 深まる嫌疑と求愛者

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(ドニ殿下、本気で仰ってるの……!?)

 殿下の瑠璃色の瞳は、真っ直ぐに私を見つめていらっしゃる。かつての私なら、飛び上がって喜んだことだろう。だって私は、ずっと殿下に憧れていたのだもの。

(でも……、ダメだわ)

 今の最優先事項は、殺人の嫌疑を完全に晴らすことだ。そのためには、アルベール様との偽装恋愛関係を続けなければいけない。

(……それに)

 それだけでは無かった。私はアルベール様に、確実に惹かれ始めていたのだ。時々口はお悪いけれど、頼もしくて、いざという時には助けになってくださる。ご自身の、出生のことまで明かされて……。

「殿下、お気持ちは大変ありがたいのですが。でも私は、アルベール様を愛しております。そして、彼が殺人など犯すはずは無いと、信じておりますわ」

 勇気を出してきっぱり申し上げたのだが、殿下はなかなか私の手を放してくださらなかった。

「ですが、婚約関係では無いのでしょう? そのお話は保留になった、と漏れ聞きました。ならば僕も、彼と同じ立ち位置ですね」
「殿下……」
「アルベール殿は、サリアン邸を訪れる許可を、あなたのご両親からいただいたとか。僕も、同じお願いをいたしましょう。あなたが心配でもありますしね」

 弱ったなあ、と私は思った。王子殿下にそう言われたら、お父様も断れるわけが無いではないか。マルク殿下とセットなら、バルバラ様は諸手を挙げて歓迎されるだろうし。

「僕なら、あなたがご不安な時に放り出したりはしませんよ。ずっとお側にいて、守って差し上げましょう」

 ドニ殿下はそう仰って、私の手の甲に軽くキスをされたのだった。
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