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第五章 不信と恋慕の狭間で
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「大きな声を出さないで。人が来たら、どうするんです?」
たしなめるように仰った後、アルベール様は私をじっと見つめた。
「それにしても、ずいぶんムキになるのですね。もしや、ドニ殿下をお好きなのですか」
ドキリとした。
「……いえ。以前は、憧れていたこともありますけれど。でも、今は……」
ハッとした。私は、何を言おうとしたのだろう。アルベール様を好き、そんなことを申し上げたって、ご迷惑になるだけだというのに。彼は、偽装工作のために、私と交際するふりをしているだけなのだから……。
「今は?」
射すくめるような眼差しで答を促され、私はかぶりを振った。
「特段の感情は、ございませんわ。憧れていたのも、昔の話です」
「……そうですか」
アルベール様の表情が和らぐ。私の目には、彼が安堵したように見えた。
「先ほどは、失礼な表現をして申し訳なかった。あなたが男性に好かれない、と言いたいわけではないのです。ただ、現にあなたに濡れ衣を着せようとしている人間がいる以上、慎重になるに越したことはないですから……。ドニ殿下が、本気であなたを好いているかどうかはともかく、警戒は緩めない方がよろしい」
「……わかりましたわ」
まだ殿下を疑っていることはやや不満だったけれども、仰ることはもっともだ。私は、渋々頷いた。
「それと。他の人間にも同じ質問をされる可能性はありますから、俺のどこが好きなのか、ちゃんと言えるようにしておくこと」
はいとお答えすれば、アルベール様はちょっと目を伏せた。
「ま、難しいですよね。所詮は、偽装の恋愛ですから……」
「そんなこと……」
彼の表情が一瞬陰った気がして、私はやや狼狽した。
(あの時詰まったのは、不意打ちで動揺したせいよ。挙げようと思えば、いくらでも挙げられたわ。だって私は、あなたを本気で好きなのだから……)
だが、そう打ち明けるわけにもいかない。どう答えるべきか迷っていると、アルベール様はさっさと話題を変えられた。
「とにかく俺たちは、もう少し親しくなる必要がありますね。周囲へのアピールだけでなく、俺たち自身が互いのことを知り合わないと。というわけで、あなたをミレー家へご招待しましょう。家族に、紹介します」
たしなめるように仰った後、アルベール様は私をじっと見つめた。
「それにしても、ずいぶんムキになるのですね。もしや、ドニ殿下をお好きなのですか」
ドキリとした。
「……いえ。以前は、憧れていたこともありますけれど。でも、今は……」
ハッとした。私は、何を言おうとしたのだろう。アルベール様を好き、そんなことを申し上げたって、ご迷惑になるだけだというのに。彼は、偽装工作のために、私と交際するふりをしているだけなのだから……。
「今は?」
射すくめるような眼差しで答を促され、私はかぶりを振った。
「特段の感情は、ございませんわ。憧れていたのも、昔の話です」
「……そうですか」
アルベール様の表情が和らぐ。私の目には、彼が安堵したように見えた。
「先ほどは、失礼な表現をして申し訳なかった。あなたが男性に好かれない、と言いたいわけではないのです。ただ、現にあなたに濡れ衣を着せようとしている人間がいる以上、慎重になるに越したことはないですから……。ドニ殿下が、本気であなたを好いているかどうかはともかく、警戒は緩めない方がよろしい」
「……わかりましたわ」
まだ殿下を疑っていることはやや不満だったけれども、仰ることはもっともだ。私は、渋々頷いた。
「それと。他の人間にも同じ質問をされる可能性はありますから、俺のどこが好きなのか、ちゃんと言えるようにしておくこと」
はいとお答えすれば、アルベール様はちょっと目を伏せた。
「ま、難しいですよね。所詮は、偽装の恋愛ですから……」
「そんなこと……」
彼の表情が一瞬陰った気がして、私はやや狼狽した。
(あの時詰まったのは、不意打ちで動揺したせいよ。挙げようと思えば、いくらでも挙げられたわ。だって私は、あなたを本気で好きなのだから……)
だが、そう打ち明けるわけにもいかない。どう答えるべきか迷っていると、アルベール様はさっさと話題を変えられた。
「とにかく俺たちは、もう少し親しくなる必要がありますね。周囲へのアピールだけでなく、俺たち自身が互いのことを知り合わないと。というわけで、あなたをミレー家へご招待しましょう。家族に、紹介します」
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