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第五章 不信と恋慕の狭間で

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「ご家族に、ですって?」

 私は、再び大声を上げていた。殺人の嫌疑の晴れないような私を、本気で紹介しようというのか……。

「俺の家族は、皆あなたのことを信じていますから、心配しないでください」

 アルベール様が、柔らかく微笑まれる。

「特に母は、あなたを好ましく思っているようで。モニク嬢が人殺しなどに手を染めるはずが無いのに、とマルク殿下に怒っていましたよ」
「お母様が?」

 アルベール様のお母様とは、二、三度しかお会いしたことが無いのだが。その程度の面識で、どうしてそこまで断言してくださるのだろう。よくわからないが、信じていただけたことには、ほっとした。

「ええ。そして弟も、あなたに会うのを楽しみにしています。うちは男二人の兄弟だから、姉ができた気分のようですよ」

 アルベール様には、エミール様という十二歳の弟君がいらっしゃるのである。

「ありがとうございます。では、伺いますわ」
「よかった」

 アルベール様は、ほっとされたようだった。

「日時は、コレットを通じて知らせます……。では、そろそろ失礼しますよ。これ以上長居したら、怪しまれそうだ」

 時計を見ながら、アルベール様が仰る。彼は、入って来た窓の方へさっさと向かわれたが、ふと思い出したようにこちらを振り向いた。

「そうだ。肝心な物をお渡しするのを、忘れていました。こちら、どうぞ使ってください」

 彼は、懐から小瓶を取り出すと、私に差し出した。

「何ですの?」
「香水です。就寝前に使用すると、安眠効果があるのだとか。ご不安だらけのこの状況で、あなたがちゃんと眠れているか、気になりましてね」
「あ……、ありがとうございます!」

 私は、思わず顔をほころばせていた。確かにパーティー以降、ショッキングなことの連続で、ロクに眠れていなかったのだ。それに気付いてくださったとは。

「気になさらないでください。昼間のお詫びも兼ねていますから。……本当は、もう少し居て差し上げたかったんです。でも、二人の葬儀には是非参列したかったのでね。事件について、情報が得られるかもしれませんし」

 それで参列にこだわっていたのか、と私は納得した。その上、律儀に詫びの品まで持って来てくださるなんて。蓋を開けると、上品な良い香りがした。確かに、リラックスできそうである。

(前世でいえば、アロマテラピーってところね……)

「入手元は、バール男爵じゃないですよ? 母が贔屓にしている香水商の所で買い求めました。だから、安心してお使いください」

 冗談めかして仰ると、アルベール様は「ではまた、我が家にて」と言い残し、ひらりと窓から出て行かれたのだった。
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