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第六章 偽装恋人宅の訪問

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 ミレー公爵家への訪問は、その三日後に決まった。当日、私は朝から、コレットと共に衣装選びをしていた。――いや、付き合わされていた、と言った方が正しい。コレットは、異様に張り切っていたのだ。

「喪に服している時期だから、黒いドレスであれば何でもいいわよ」

 私はそう言ったが、コレットはぶんぶんとかぶりを振った。

「いいえ! 女性に生まれたからには、その美しさを最大限引き出さなくて、どうするのです! まして今日は、恋人とそのご家族に会われる日なのですよ? もう、目一杯魅力的にして差し上げますからね!」

(恋人といっても、偽装なのだけれど)

 とはいえ、コレットの言うことの方が正しいのかな、という思いもかすめる。これまで私は、自分を美しく見せる努力を怠ってきた。自分などがお洒落しても無駄だ、と諦めきっていたからである。

「黒いドレス……は、ええと、これだけなのですか」

 ワードローブを点検したコレットは、戸惑ったような声を出した。

 驚かれるのも、無理は無い。いくら貧乏伯爵とはいえ、仮にも貴族の娘とは思えないほど、私のドレスの数は少ないのだ。お父様は、ローズの衣装代に関しては金に糸目をつけないくせに、私の衣装代はとにかくケチろうとされるのである。お前など着飾っても無駄と言われている気がして、異論を唱えなかった私にも、責任はあるのだろうが。

「そうよ」
「そうですか……。じゃあ、こちらにしましょう!」

 困った様子だったのも束の間で、コレットはすぐに明るい声色に戻った。だが、彼女が選んだドレスを見て、私は躊躇した。よりによって、一番胸元の開いたものだったのだ。

「……ちょっと、派手すぎじゃないかしら?」
「いえ、こちらが一番お似合いだと思います」

 コレットは、妙にきっぱりと言った。

「モニク様は、せっかくスタイルがおよろしいのですから。チャームポイントは、強調しませんと」
「……はあ」

 単に、のっぽで痩せぎすなだけと思っていたが、そういう見方もあるのか。コレットは、てきぱきと私にコルセットを装着した。ちなみに、この屋敷に来てまだ三日だが、彼女はすでに一人で私の支度を担当している。それくらい、彼女の仕事の覚えは早かったのだ。

「ちょっ……、締めすぎじゃない?」

 胸を強調するようにぎゅうぎゅうと締め付けられ、私は悲鳴を上げた。すると、厳しい叱責が返ってきた。

「今我慢しなくて、いつするんです!」

(何だか、前世にいた、熱血予備校講師みたい……)
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