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第七章 新たな犠牲者
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サリアン邸へ戻ると、私は真っ直ぐ図書室へ向かった。記憶喪失について、調べようと思ったのだ。
(アルベール様やエミールが、あんなに頑張ってくださっているのに。当の私が、何もしないわけにはいかないわ……)
記憶さえ戻れば、全て解決するように思うのだけれど。おそらく記憶喪失の原因は、殺人現場の目撃であろうと私は推測していた。そりゃ、婚約者が婚約披露パーティー当日に浮気、というのもショックだっただろうけれど。バール男爵には、元々何の感情も無かったわけだし、果たしてそれくらいで記憶を失うだろうかと思うのだ。
(ショックな出来事を忘れられてよかったじゃないか、とアルベール様は仰っていたけれど。でもやっぱり、思い出したいわ……)
実は、何度か努力はしてみた。だが私の頭は、パーティーの朝からもやがかかったようになっていて、何一つ蘇らないのである……。
「ああ、お嬢様!」
図書室へ入ろうとしたその時、モーリスの声がした。慌てたように、駆け寄って来る。
「ドニ殿下がお見えでございます。実は、お嬢様がお出かけの間にいらっしゃいまして。お帰りを、ずっと待ってらしたのですよ」
「あら、そうだったの?」
だとしたら、これ以上お待たせするわけにはいかない。調べ物は後だな、と私は踵を返した。
「お捜しの本でも? 私が、代わりに捜しておきますよ」
「い……、いえ! 自分でやるので、結構よ」
モーリスに、記憶喪失の件を悟られるわけにはいかない。私は、慌てて固辞した。
「……さようでございますか?」
「ええ。……ああ、そうだわ」
そこで私は、いいことを思いついた。
「婚約披露パーティーの出席者名簿を、後で持って来てもらえるかしら? 私も、いろいろ調べてみたいのよ」
かしこまりました、とモーリスは神妙に頷いた。
「ドニ殿下は、中庭でお待ちでございます」
「すぐに行くわ」
大急ぎで中庭へ向かうと、果たしてドニ殿下がいらっしゃった。庭師や侍女たちと、談笑なさっている。
「殿下、お待たせして申し訳ございません」
声をおかけすると、殿下は私をご覧になって、大きく目を見開かれた。
(アルベール様やエミールが、あんなに頑張ってくださっているのに。当の私が、何もしないわけにはいかないわ……)
記憶さえ戻れば、全て解決するように思うのだけれど。おそらく記憶喪失の原因は、殺人現場の目撃であろうと私は推測していた。そりゃ、婚約者が婚約披露パーティー当日に浮気、というのもショックだっただろうけれど。バール男爵には、元々何の感情も無かったわけだし、果たしてそれくらいで記憶を失うだろうかと思うのだ。
(ショックな出来事を忘れられてよかったじゃないか、とアルベール様は仰っていたけれど。でもやっぱり、思い出したいわ……)
実は、何度か努力はしてみた。だが私の頭は、パーティーの朝からもやがかかったようになっていて、何一つ蘇らないのである……。
「ああ、お嬢様!」
図書室へ入ろうとしたその時、モーリスの声がした。慌てたように、駆け寄って来る。
「ドニ殿下がお見えでございます。実は、お嬢様がお出かけの間にいらっしゃいまして。お帰りを、ずっと待ってらしたのですよ」
「あら、そうだったの?」
だとしたら、これ以上お待たせするわけにはいかない。調べ物は後だな、と私は踵を返した。
「お捜しの本でも? 私が、代わりに捜しておきますよ」
「い……、いえ! 自分でやるので、結構よ」
モーリスに、記憶喪失の件を悟られるわけにはいかない。私は、慌てて固辞した。
「……さようでございますか?」
「ええ。……ああ、そうだわ」
そこで私は、いいことを思いついた。
「婚約披露パーティーの出席者名簿を、後で持って来てもらえるかしら? 私も、いろいろ調べてみたいのよ」
かしこまりました、とモーリスは神妙に頷いた。
「ドニ殿下は、中庭でお待ちでございます」
「すぐに行くわ」
大急ぎで中庭へ向かうと、果たしてドニ殿下がいらっしゃった。庭師や侍女たちと、談笑なさっている。
「殿下、お待たせして申し訳ございません」
声をおかけすると、殿下は私をご覧になって、大きく目を見開かれた。
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