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第八章 確かめ合えた愛は束の間で

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 口づけは、前回よりもずっと激しく情熱的だった。緊張からきゅっと引き結ばれた私の唇を、アルベール様のしっとりと熱い唇が、執拗に食む。やがて彼は、私の唇をやや強引にこじ開けると、舌を入れて来た。

「んっ……」

 アルベール様の舌が、私の口内を性急にまさぐる。歯列をなぞられ、舌を吸われるうち、私は次第に朦朧としてきた。知らず、くたりと彼の胸にもたれかかってしまう。アルベール様は、そんな私の体を、痛いほどきつく抱きしめている。まるで、逃がすまいとしているようだった。

(そんなにされなくても、逃げられるはずは無いのに……)

 こんなに狭い馬車の中で、逃げ場など無い。第一、体からは力が抜けきって、抵抗できる状態ではなかった。

 どれほどの時間が経過しただろうか。アルベール様は、ようやく唇を離した。まだ私を抱きすくめたまま、彼は静かに言った。

「これまであなたに告げた言葉に、嘘はありませんよ。心から、あなたを想っての台詞です」
「アルベール様……」
「以前は、あなたに関心は無かったんです」

 アルベール様は、きっぱりと仰った。

「というより、恋愛自体に関心がありませんでしたから」

 最初に偽装恋愛を提案された時もそう仰っていたな、と私はぼんやり思い出した。するとアルベール様は、唐突にこう言い出された。

「実を言うとね、死体を発見した時の、あのアリバイでっち上げ提案。あれ、半分冗談だったんですよ」
「ええ!?」
 
 私は、目を見張った。

「まさか、乗ってくるとは思わなかったから。あなたの性格上、どうせ泣き寝入りするだろうと思っていました」

 そういう人間だったのは、事実だ。私は、否定できなかった。

「でもあなたは、俺にイエスと答えた。正直、驚愕しましたよ。ですが、言い出したからには、責任を持ってやり遂げようと思ったんです。……そして」

 アルベール様は、ふっと微笑まれた。 

「俺の提案を受ける、と仰った時の、あなたの眼差し……。強い自信と意志に満ちあふれていた。その目の光に、俺は惚れたんです」
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