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第八章 確かめ合えた愛は束の間で
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「嬉しい……」
私は、思わず呟いていた。
「偽装の恋愛関係をあなたから提案された時は、正直戸惑いましたけれど。でも、恋人のふりを続けるうちに、本気で好きになっていきましたの……。けれどあなたは、私のことなど何とも思ってらっしゃらないと、思っていましたから」
「そうだったんですね」
アルベール様は、はにかんだように笑われた。
「いえ、俺の方こそ、あなたはアリバイ作りのために恋人ごっこに付き合っているだけ、と思ってましたから。少しずつ、心を開いてくれている気はしていたけれど……。だから、さっきは焦りました。せっかくあなたが、俺を信用しつつあるのに、ニコル嬢との仲を誤解されたらどうしようかと」
アルベール様は、ようやく私の体を放した。彼は、私を見つめると、もう一度「何も無いですからね」と仰った。
「今夜ここへ来たのも、情報目的です。二人が逢い引きでなかったとわかって、じゃあ犯人の目的は、男爵と夫人のどちらだったのだろう、と。それで、夫人を恨む人間について聞き込もうと、訪れたのです。一刻も早く、あなたの濡れ衣を晴らしたかったから。手段を選ぶ余裕がありませんでした」
「アルベール様……」
私は、胸がいっぱいになった。彼の漆黒の瞳は、真剣な光をたたえている。そこからは、嘘偽りは感じられなかった。
「ありがとうございます。でも、安心なさって。もう私の嫌疑は、晴れつつあるのです」
私は、昨日のモンタギュー侯爵とのやり取りを、事細かに伝えた。アルベール様が、安堵の表情を浮かべる。
「それは、よかった……」
「それに。形見のブローチも、無事返ってきたのです。ドニ殿下が持って来てくださったのですわ」
するとアルベール様の表情は、一瞬曇った。
「ドニ殿下は、まだあなたの屋敷に出入りされているのですね」
「私はアルベール様を愛しているので、とお断りはしているのですが。なかなかしつこくていらっしゃって……」
少しためらってから、私は続けた。
「実は殿下は、私に結婚を申し込まれたのです。私を妃に迎えたい、そう仰いました」
アルベール様が、絶句される。私は、慌てて付け加えた。
「もちろん、お断りしましてよ? でも、彼は、私たちの婚約が保留状態なのを盾にとってらっしゃるのですわ。ですから、アルベール様……」
正式に婚約を、と言いかけて、私はさすがに口をつぐんだ。前世ならともかく、女性からそんなことを申し出るなんて、はしたなさすぎる。
アルベール様は、しばらく沈黙してらっしゃったが、やがてこう仰った。
「殿下のお申し込みを受けられるのも、一つの選択肢ですね」
私は、思わず呟いていた。
「偽装の恋愛関係をあなたから提案された時は、正直戸惑いましたけれど。でも、恋人のふりを続けるうちに、本気で好きになっていきましたの……。けれどあなたは、私のことなど何とも思ってらっしゃらないと、思っていましたから」
「そうだったんですね」
アルベール様は、はにかんだように笑われた。
「いえ、俺の方こそ、あなたはアリバイ作りのために恋人ごっこに付き合っているだけ、と思ってましたから。少しずつ、心を開いてくれている気はしていたけれど……。だから、さっきは焦りました。せっかくあなたが、俺を信用しつつあるのに、ニコル嬢との仲を誤解されたらどうしようかと」
アルベール様は、ようやく私の体を放した。彼は、私を見つめると、もう一度「何も無いですからね」と仰った。
「今夜ここへ来たのも、情報目的です。二人が逢い引きでなかったとわかって、じゃあ犯人の目的は、男爵と夫人のどちらだったのだろう、と。それで、夫人を恨む人間について聞き込もうと、訪れたのです。一刻も早く、あなたの濡れ衣を晴らしたかったから。手段を選ぶ余裕がありませんでした」
「アルベール様……」
私は、胸がいっぱいになった。彼の漆黒の瞳は、真剣な光をたたえている。そこからは、嘘偽りは感じられなかった。
「ありがとうございます。でも、安心なさって。もう私の嫌疑は、晴れつつあるのです」
私は、昨日のモンタギュー侯爵とのやり取りを、事細かに伝えた。アルベール様が、安堵の表情を浮かべる。
「それは、よかった……」
「それに。形見のブローチも、無事返ってきたのです。ドニ殿下が持って来てくださったのですわ」
するとアルベール様の表情は、一瞬曇った。
「ドニ殿下は、まだあなたの屋敷に出入りされているのですね」
「私はアルベール様を愛しているので、とお断りはしているのですが。なかなかしつこくていらっしゃって……」
少しためらってから、私は続けた。
「実は殿下は、私に結婚を申し込まれたのです。私を妃に迎えたい、そう仰いました」
アルベール様が、絶句される。私は、慌てて付け加えた。
「もちろん、お断りしましてよ? でも、彼は、私たちの婚約が保留状態なのを盾にとってらっしゃるのですわ。ですから、アルベール様……」
正式に婚約を、と言いかけて、私はさすがに口をつぐんだ。前世ならともかく、女性からそんなことを申し出るなんて、はしたなさすぎる。
アルベール様は、しばらく沈黙してらっしゃったが、やがてこう仰った。
「殿下のお申し込みを受けられるのも、一つの選択肢ですね」
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