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第八章 確かめ合えた愛は束の間で
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「――崩壊って、どういうこと?」
声が震えそうになるのを堪えて、私は尋ねた。しかも二十年前といえば、アルベール様がお生まれになった頃だ。嫌な予感がするのを、抑えられなかった。
「当時のご当主が、領地経営に失敗され、焦った挙げ句に賭博に手を染められたのですよ。ところが相手のイカサマで、大損をさせられ、伯爵家は火の車になりました。ご当主は地団駄を踏みましたが、元々賭博といえば違法行為。騒ぎ立てることもできず、彼は泣き寝入りしました。そして、ご当主を賭博に誘い込んだ上、イカサマも仕組んだのが、オーギュスト・ド・バールだったのです。当時はまだ香水商でした」
私は、唖然とした。モルフォア王国では、賭博は厳しく禁じられている。いくら切羽詰まっておられたとはいえ、そんなものに手を出されるなんて。それほど、男爵の誘いは巧みだったのだろうか……。
「しかし、オーギュストの目的は、単にご当主に損をさせることではありませんでした。クイユ家といえば、名門の伯爵家。単なる商人だった彼は、名誉が欲しかったのです。ご当主には、二人のお嬢様がいらっしゃいました。ご長女は当時十八歳、エレーヌ嬢と仰る美しい方でした。彼女に目を付けたオーギュストは、困窮したクイユ家に迫り、援助と引き換えに婿にさせろと要求したのでございます」
「……それで?」
私は、息を詰めて話の続きを待った。
「もちろん、ご当主は拒みました。あんな卑しい、しかも自分を陥れたような男を、娘の婿になど絶対にさせるものかと……」
そこでモーリスは、声を落とした。
「ここからは、世間では知られていない話なのですが。当時、クイユ家の執事をしていた男が、私と同郷の幼なじみで、こっそり話してくれました。断られてカッとなったオーギュストは、エレーヌ嬢を手込めにしたのです。彼女は、オーギュストの子を身ごもりました。……二十一年前のことです」
血の気が引いていく気がした。
(では、アルベール様は、バール男爵の息子……!?)
声が震えそうになるのを堪えて、私は尋ねた。しかも二十年前といえば、アルベール様がお生まれになった頃だ。嫌な予感がするのを、抑えられなかった。
「当時のご当主が、領地経営に失敗され、焦った挙げ句に賭博に手を染められたのですよ。ところが相手のイカサマで、大損をさせられ、伯爵家は火の車になりました。ご当主は地団駄を踏みましたが、元々賭博といえば違法行為。騒ぎ立てることもできず、彼は泣き寝入りしました。そして、ご当主を賭博に誘い込んだ上、イカサマも仕組んだのが、オーギュスト・ド・バールだったのです。当時はまだ香水商でした」
私は、唖然とした。モルフォア王国では、賭博は厳しく禁じられている。いくら切羽詰まっておられたとはいえ、そんなものに手を出されるなんて。それほど、男爵の誘いは巧みだったのだろうか……。
「しかし、オーギュストの目的は、単にご当主に損をさせることではありませんでした。クイユ家といえば、名門の伯爵家。単なる商人だった彼は、名誉が欲しかったのです。ご当主には、二人のお嬢様がいらっしゃいました。ご長女は当時十八歳、エレーヌ嬢と仰る美しい方でした。彼女に目を付けたオーギュストは、困窮したクイユ家に迫り、援助と引き換えに婿にさせろと要求したのでございます」
「……それで?」
私は、息を詰めて話の続きを待った。
「もちろん、ご当主は拒みました。あんな卑しい、しかも自分を陥れたような男を、娘の婿になど絶対にさせるものかと……」
そこでモーリスは、声を落とした。
「ここからは、世間では知られていない話なのですが。当時、クイユ家の執事をしていた男が、私と同郷の幼なじみで、こっそり話してくれました。断られてカッとなったオーギュストは、エレーヌ嬢を手込めにしたのです。彼女は、オーギュストの子を身ごもりました。……二十一年前のことです」
血の気が引いていく気がした。
(では、アルベール様は、バール男爵の息子……!?)
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