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第九章 堕ちるならどこまでも

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「どうして……、そんなことを仰るんです!」

 私は、思わず大声を上げていた。

「私を愛している、と言ってくださったではありませんか。私も、アルベール様を愛しています。それなのに……」
「俺は、人殺しの息子ですよ?」

 アルベール様が、静かに私の言葉を遮る。そんな、と私は唇を噛んだ。

「どうして、そう決めつけられるのです……。お母様の手記によると、はっきりとはわからないようだったではないですか」
「仮に、オーギュストの子で無かったとしても。俺が殺人を目論んだのは事実です。たまたま運命の悪戯か、真犯人が先に実行してしまっただけのこと」
「でもアルベール様は、実行はなさいませんでしたわ。これも事実です」

 私は、キッと彼の目を見つめた。

「それに。あなたご自身、仰ったではないですか。関係無いシモーヌ夫人まで巻き込むなんて、と。私が、男爵と夫人の逢い引き現場を見たら傷つくだろうと、配慮もしてくださった。アルベール様には、そういうお優しさがあります。シモーヌ夫人やアンバーまで殺した、冷酷非道な真犯人とは違いますわ!」

 ふっと、アルベール様のお顔がゆがむ。私の目には、彼が一瞬涙ぐんだように見えた。

「そんな寛大なお言葉を、口にしないでください。付け入りたくなってしまう」

 彼は、ぽつりと言った。

「あなたは、俺の本当の姿を知らないから、そんなことを仰るんです。オーギュストへの復讐を誓った日から、俺は常に彼の動向をチェックしてきました。オーギュストの情報を得るために、様々な人間を利用してきたんです。女性には、色仕掛けで近付きました。色事師みたいな真似をしてきたんです。それくらい汚い人間なんですよ、俺は」

 私は、あのパーティーの夜、アルベール様を私の部屋へ入れた時のことを思い出していた。情事を偽装する段取りが、ひどく手慣れていると思ったものだ。でも、コレットやエミールの話では、恋愛経験は無いようでもあった。その辺りが、噛み合わない気はしていたのだけれど……。

「いい加減、わかっていただけましたか」

 黙り込んだ私を見て、アルベール様は、私が呆れていると思ったようだった。

「あなたは、この濡れ衣晴らしを通じて、お強くなられた。そして、魅力的にも……。きっと大勢の男性が、あなたに心惹かれることでしょう。ドニ殿下でも、他のどなたでもいい。あなたを幸せにしてくれる方を選んで……」
「嫌です」

 私は、アルベール様を見すえて申し上げた。

「それでも私は、アルベール様を愛しています」
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