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第九章 堕ちるならどこまでも
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「アルベール様は、汚い人間などではありませんわ」
私は、きっぱりと申し上げた。
「むしろ、周囲の方々のことを第一に考えている、心優しい方です。私やミレーご夫妻、エミール、コレット……」
「ですが……」
「運命の悪戯、と先ほど仰いましたわよね」
私は、穏やかにアルベール様を遮った。
「それは、亡くなられたエレーヌ様……お母様の思し召しかもしれませんわ」
アルベール様が、息を呑むのがわかった。
「自分がお腹を痛めた子に、殺人を犯して欲しいと思う母親が、どこにいるでしょう。彼女はきっと、あなたの犯行を止めたのですわ」
アルベール様が、顔を覆う。私は、彼の隣に移動すると、そっと背中を抱いた。
「アルベール様は私のことを、強くなったと言ってくださいました。それは、あなたが私に自信を付けてくださったからです。今度は私が、あなたに自信を差し上げたいですわ。あなたは決して、汚い人間ではない……。でも、もしそれでもご自分を貶められるのなら」
私は、彼から手を放した。そして、自分が身に着けている装飾品を、一つ一つ外していく。アルベール様は、怪訝そうにこちらを見やった。
「証明いたしましょう。私も同様に、汚れた人間だと」
ドレスの胸元に手をかければ、アルベール様はぎょっとしたような顔をされた。
「モニク!? 何を……」
「色事師のような振る舞いを、なさってきたのでしょう? どうぞ私にも、仕掛けてくださいませ」
言いながら私は、レースの飾りを取り去り、リボンをほどいた。胸元を露わにしていく私を、アルベール様は呆然と見つめていた。
「……ああ、自分でしたのでは、ダメなのでしたわね。男の方の目の付け所は、また違うのでしょう?」
パーティーの夜の彼の台詞を、私はわざと口にした。
「でしたら、お手を貸していただきませんと……」
「モニク!」
すでにシュミーズに届きかけていた私の手を、アルベール様はぎゅっとつかんだ。そのまま引き寄せ、きつく抱きしめる。私の耳元で、彼は低く囁いた。
「止めてくれ。お願いだから……」
「アルベール様が、覚悟を決めてくださらないからでしょう?」
応えて、私も囁く。
「あの夜、偽装の恋愛関係を始めた時点で、私たちはもう運命共同体なのですわよ。私はもうとっくに堕ちていますし、これからもあなたと一緒なら、どこまでも堕ちます」
私をかき抱くアルベール様の腕が、ぴくりと震えた。
「あなたには、負けたな……」
そう呟くと、彼は、堰を切ったように私に口づけてきたのだった。
私は、きっぱりと申し上げた。
「むしろ、周囲の方々のことを第一に考えている、心優しい方です。私やミレーご夫妻、エミール、コレット……」
「ですが……」
「運命の悪戯、と先ほど仰いましたわよね」
私は、穏やかにアルベール様を遮った。
「それは、亡くなられたエレーヌ様……お母様の思し召しかもしれませんわ」
アルベール様が、息を呑むのがわかった。
「自分がお腹を痛めた子に、殺人を犯して欲しいと思う母親が、どこにいるでしょう。彼女はきっと、あなたの犯行を止めたのですわ」
アルベール様が、顔を覆う。私は、彼の隣に移動すると、そっと背中を抱いた。
「アルベール様は私のことを、強くなったと言ってくださいました。それは、あなたが私に自信を付けてくださったからです。今度は私が、あなたに自信を差し上げたいですわ。あなたは決して、汚い人間ではない……。でも、もしそれでもご自分を貶められるのなら」
私は、彼から手を放した。そして、自分が身に着けている装飾品を、一つ一つ外していく。アルベール様は、怪訝そうにこちらを見やった。
「証明いたしましょう。私も同様に、汚れた人間だと」
ドレスの胸元に手をかければ、アルベール様はぎょっとしたような顔をされた。
「モニク!? 何を……」
「色事師のような振る舞いを、なさってきたのでしょう? どうぞ私にも、仕掛けてくださいませ」
言いながら私は、レースの飾りを取り去り、リボンをほどいた。胸元を露わにしていく私を、アルベール様は呆然と見つめていた。
「……ああ、自分でしたのでは、ダメなのでしたわね。男の方の目の付け所は、また違うのでしょう?」
パーティーの夜の彼の台詞を、私はわざと口にした。
「でしたら、お手を貸していただきませんと……」
「モニク!」
すでにシュミーズに届きかけていた私の手を、アルベール様はぎゅっとつかんだ。そのまま引き寄せ、きつく抱きしめる。私の耳元で、彼は低く囁いた。
「止めてくれ。お願いだから……」
「アルベール様が、覚悟を決めてくださらないからでしょう?」
応えて、私も囁く。
「あの夜、偽装の恋愛関係を始めた時点で、私たちはもう運命共同体なのですわよ。私はもうとっくに堕ちていますし、これからもあなたと一緒なら、どこまでも堕ちます」
私をかき抱くアルベール様の腕が、ぴくりと震えた。
「あなたには、負けたな……」
そう呟くと、彼は、堰を切ったように私に口づけてきたのだった。
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