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第十章 蘇った記憶

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 結局、その後数時間、私はアルベール様のお部屋で過ごした。数え切れないくらいキスしたり、取り留めなく愛の言葉を囁き合ったり。前世風に言えば、『イチャイチャ』という表現がぴったりの、甘い時間だった。

(アルベール様と、こんな時間を過ごせるようになるなんて……)

 幸福に酔いしれていると、アルベール様はなんとも言えない表情をなさった。

「そんな色っぽい顔をしないで。暴走しそうになる」

 またしても唇を奪おうとする彼を、私は押し止めた。

「そんなにされたら、明日には唇が腫れてしまうかもしれませんわ」
「まさか」

 彼は苦笑した。

「あら、本気で心配しているんですのよ? 前世で流行った歌に、そんな表現が出てきましたわ」
「へえ」

 前世でも現世でもそんな経験は無いから、本当にそうなるかどうかは、知らないのだけれど。でもアルベール様は、真剣に感心されたようだった。私は、チラと時計を見上げると、腰を上げた。

「そろそろ、失礼いたしますわね」
「離れがたいけれど、仕方ありませんね……。ああ、そうだ」

 アルベール様は、名残惜しそうなお顔をされた後、私の胸元を直してくださった。

「こんなお姿でお帰ししたら、どう思われることか……。これだけ我慢したのに、あらぬ誤解を受けるなんて、理不尽だ」

 ぶつぶつ言っている彼を見ていると、私は何だかおかしくなった。

「だったら、我慢なさらなければよかったのじゃありませんの?」
「挑発しないで……。ああ、これが逆の手順なら、実に楽しいだろうに」

 何かに耐えているような表情で、私の身なりを整えた後、アルベール様は不意に真面目な口調になった。

「ところで、結婚の話ですが」
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