上 下
133 / 240
第十二章 波乱の鷹狩り

11

しおりを挟む
 食事の場に戻ると、マルク殿下が私をお呼びになった。

「モニク嬢、お待ちしておりましたぞ。あなたも、是非どうぞ」

 殿下は、シート上に並べられた料理を指された。

「新入りの料理人が、考案したメニューだそうです。せっかく自然の中で食事をするのだから、植物を活かした料理はどうかと思ったそうで。あなたやドニは植物にご興味があるようだから、召し上がっていただきたくてね」

 それでドニ殿下を呼んでおられたのか、と私は合点した。

「わざわざ、お待ちくださっていたのですか? 恐縮です」

 私は、元通りドニ殿下のお隣に腰を下ろした。ローズや他の参加者らは、すでにスタンバイされている。国王陛下とエミールは、どこかへ行かれたのか、姿は見えなかった。時間を置いて戻られたアルベール様も、その場にさりげなく加わられた。

「さあ、温かいうちにどうぞ」

 ドニ殿下が、私に皿を勧められる。フキノトウのリゾットだった。緑が美しい。

(確かに、春らしくていいわね……)

 だがローズは、不満そうな顔をした。

「美味しいのかしら? 何だか、苦そうだわ」
「確かに苦味はありますが、そこがいいんですよ」

 苦笑されながら、マルク殿下がスプーンを手にされる。その時、私はドキリとした。殿下がすくい上げたフキノトウに、違和感を覚えたのだ。

(葉の形が違う? あれは……、フキノトウじゃない!)

「マルク殿下!」

 私は、殿下の手から、スプーンを叩き落としていた。皆が、あっけにとられた顔をする。

「モニク嬢!? 何を……?」
「皆様も、召し上がらないで! これは、フキノトウではありません。よく似た、毒草ですわ!」

 タバインについて調べるうち、私は植物にずいぶん詳しくなったのだ。殿下が召し上がろうとしていたのは、ハシリドコロという毒草だった。誤飲すれば、嘔吐などの中毒症状を引き起こす。量によっては、命を落とす可能性もあるくらい、恐ろしいものだ。

「毒草だと!?」

 その場にいた全員が、騒然となる。私は、彼らの皿を見回した。

「すでに、お召し上がりになった方は?」
「一口、食べてしまったぞ!」
「私もですわ!」

 数人が、悲壮な声を上げる。私は、彼らの皿を手に取って、観察した。

(これは、本物のフキノトウだわ。だとすれば……)

 私は、皆に向かって告げた。

「見させていただいたところ、皆様が召し上がったのは、確かにフキノトウです。でも念のため、これ以上召し上がらない方がよろしいと思います」
「一体、何事だ!?」

 そこへ、騒ぎに気付いたのか、国王陛下が戻って来られた。マルク殿下の皿にだけ毒草が入っていたと聞くと、陛下は血相を変えられた。

「これを作った料理人は誰だ!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役皇女の巡礼活動 ~断罪されたので世直しの旅に出ます~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:166

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:36,513pt お気に入り:2,368

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,977pt お気に入り:57

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:121

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28,081pt お気に入り:11,874

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:596pt お気に入り:15

処理中です...