上 下
135 / 240
第十二章 波乱の鷹狩り

13

しおりを挟む
(――嘘でしょ)

 男の胸からは、大量の血が噴き出していた。アルベール様は、焦ったように男の傍に駆け寄ると、必死に呼びかけた。

「しっかりしろ! 話せるか? マルク殿下の毒殺を、お前に命じた者の名を言え!」
「アルベール殿、無理です。絶命しておりますよ」

 一緒にいた貴族の一人が、男の脈を取り、かぶりを振る。モンタギュー侯爵は、チッと舌打ちされた。

「口封じにやったな……。仕方ない、発砲した者を捜せ。近くにいるはずだ!」
「承知」

 侯爵らは、再び散って行かれた。私は馬から降りると、おそるおそるアルベール様の元へ近付いた。

「……モニク」

 アルベール様は、うつろな目で私をご覧になった。

「駄目だった。あと一歩だったのに……」
「道はまだありますわ」

 その時、カサカサという音がした。はっと振り向くと、ドニ殿下がこちらへと歩いて来られた。

「見つかった、という声が聞こえたもので、急いで駆けつけたのですが……。その男ですか?」

 殿下は、横たわっている男にチラと視線を投げかけた。素早く観察したところ、銃は携えておられない。どこかへ、捨てたのだろうか。

「捕らえる寸前だったのですが、なぜか何者かに撃ち殺されましてね」

 アルベール様は、じろりと殿下をにらみつけた。

「主犯の名を、吐かせようとしていたのですが」
「アルベール殿でも、そんな失敗をなさるのですね」

 抗議の言葉を、私はかろうじて飲み込んだ。罵詈雑言をぶつけたいのは、やまやまだ。でもそんな真似をすれば、彼に取り入ったのが、水の泡……。

「申し訳ございません。お返しする言葉も無い」

 アルベール様は、案外冷静だった。

「仰る通り、私には精進が足りないようです。もっと、鍛錬せねばいけませんね……。ドニ殿下を、見習わせていただくとしましょう。特に、射撃において。標的を外されることは、無いそうですな」

 ドニ殿下の片眉が、ぴくりと上がる。しかし、彼が何事か口にしようとしたその時、鋭い声が聞こえた。

「ドニ殿下。すぐに、お戻りいただきたい。国王陛下とマルク殿下が、あなたをお呼びです」

 言いながら近付いて来たのは、見覚えのある男性貴族だった。マルク殿下がたいそう信用なさっている、忠臣だ。だが彼は、今回の鷹狩りには欠席だったはずだが。なぜこの場にいらっしゃるのだろう、と私は内心首をかしげた。

「これは、アルベール殿とモニク嬢もいらしたのですか。ちょうどよかった」

 彼は、私たち二人を見比べた。

「あなた方も、いらしてください。サリアン家の元侍女・アンバー殺しについて、大きな進展がありました」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役皇女の巡礼活動 ~断罪されたので世直しの旅に出ます~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:166

貴方のために涙は流しません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35,962pt お気に入り:2,371

ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,224pt お気に入り:58

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:121

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28,623pt お気に入り:11,874

ちーちゃんのランドセルには白黒のお肉がつまっていた。

ホラー / 完結 24h.ポイント:809pt お気に入り:15

処理中です...