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第十二章 波乱の鷹狩り

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「このハンケチは、アンバーが使用していた物。微かですが、男性物の香水の香りがします。ドニ殿下、あなたが着けておられるものでは?」

 私は、思わずコレットの顔を見た。ハンケチのことを、侯爵に話してくれたのか。そして、この場でコレットの名前を挙げなかった侯爵に、感謝する。

「貸してみよ」

 国王陛下が、仰る。モンタギュー侯爵が差し出したハンケチを、陛下は慎重に受け取られると、お顔に近付けられた。ややあって、無言でマルク殿下に手渡される。

 マルク殿下は、同様にハンケチの香りを嗅がれた後、「確かに」と呟かれた。

「ドニ殿下。あなたとアンバーの関係は?」

 モンタギュー侯爵が、迫られる。ドニ殿下は間髪入れずに、顔色を変えること無く仰った。

「ご想像のような、男女の関係はございません」
「しかし……」
「私が愛しているのは、モニク嬢です。妃にしたいと、父上にまでお願いしたのですよ? 他の女性など、考えられません。アンバーには、モニク嬢との仲を取り持ってもらうため、協力を依頼していました。ハンケチは、その礼として、やったものです。私の香水の香りが付着したとしたら、そのせいでしょう」

 モンタギュー侯爵のこめかみが引きつる。どうやら、ムキになられたようだった。

「しかしですな。アンバーは生前、こう言っていたのですよ? 自分の恋人は、他の侍女の恋人とは比べものにならないくらい立派な男性だ、と。相当の身分の男性ではないのですか?」
「私だと言ったわけではないでしょう」

 開き直ったように、ドニ殿下が仰る。

「アンバーは、一言でも私の名前を口にしましたか? 彼女の恋人が私だと主張なさるなら、確たる証拠をお見せいただきたい!」

 侯爵が、ぐっとつまる。国王陛下は、苛つかれたようにため息をつかれた。

「もうよい。この件は、ここまで」
「陛下!」

 モンタギュー侯爵は気色ばまれたが、陛下は取り合われなかった。

「ドニの言う通り、侍女殺しについては曖昧な点も多い。とはいえ、偽証を教唆し、事件を攪乱させた点は見逃せない。よってドニには、当面の謹慎を命じる……。では解散!」

 一同が、帰り支度を始める。仕方ないわね、と私は思った。本来、一伯爵家の侍女殺しに国王陛下が関わられること自体、異例だ。恐らくは、マルク殿下が一生懸命でいらっしゃるから、渋々付き合われただけだろう。

 私は、平然とされているドニ殿下を見つめて、胸に誓った。

(何としても、あなたの正体を暴いてみせるわ……!)
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